第49話 会談

 帝国との会談当日。


 俺とリズは、関所の三階にある窓からハメードが来るのを待っていた。


「遅れてますね。何かあったのでしょうか」


 リズは窓の外を見てポツリと呟く。


「いや、それはないと思うよ。昨日からサルトリアにいたようだし、会談は昼からだ。寝過ごしたというのも考えにくい。おそらく面子の問題じゃないかな。こっちの方が上だから、待ってることは当然とでも思ってるんじゃないか」

「そういうものですか。私でしたら相手を不快にさせたないために、十分前行動を心掛けますけど」

「リズはそのまま清い心を持ったままでいてくれ」

「よくわかりませんが、わかりました」


 そして会談の予定時間を三十分程過ぎた頃。

 ようやく馬に乗った数人の姿が見えたが、その内の一人には見覚えがあった。


「げっ!」


 俺は慌てて部屋の中に隠れる。


「ユート様? どうされましたか?」


 何でこんなところにいるんだ! まさかあの男が来るとは思わなかったぞ。あの男と知り合いだと思われたくないので、何でもないと嘘をつきたい所だが、もしリズが知らずに近づいてしまって変な目にあったら嫌だから正直に話そう。


「実は俺は以前勇者パーティーにいたんだ」

「えっ? ユート様が勇者パーティーに? なるほど。ユート様の強さに納得です」

「まあとりあえずそのことは置いといて、あそこに金髪の男がいるだろ? あれがその時の勇者だったんだ」

「そうなのですか! それではあの方は素晴らし⋯⋯」

「くない」

「えっ?」

「素晴らしくない。人間的に最悪な奴だ。アホードやグラザムと同じ様に、自分のことしか考えられない奴だから、リズは関わってはダメだ」


 リズみたいな心が綺麗事な子を、ギアベルのような汚れた奴と会わせたくない。


「わかりました。女神セレスティア様もユート様に従うよう仰っています」


 これでいい。今回の会談は俺やリズは表には出ないことになってるから、余程のことがない限りギアベルと会うことはないだろう。


 本来ならばこの会談はリスティヒかグラザムが担当するはずだった。しかし二人は牢獄にいるため、会談には代理でレッケさんが出席することになった。

 おそらく帝国側は国境が封鎖されていたため、まだリスティヒが捕縛されたことを知らないはずだ。そのため、会談の内容を抑えるためにレッケさんにお願いしたのだ。


 それにしてもギアベルは何のためにここに来たんだ? もしかしてハメードの企みに関係しているのだろうか。ギアベルは場を荒らしそうなので、出来れば会談には出席して欲しくないのだが。


「ハメード! こんな汚ならしい所で会談を行うのか!」


 うわあ、何か文句言っているよ。

 やはりギアベルは何も変わってないな。


「申し訳ありません。この関所の管理は王国側に権限がありまして」

「古臭い建物だな。今にも壊れてしまいそうだ」

「壁も薄く、中は蒸し暑い劣悪な環境です」

「そのような場所に長居したくないな。その会談とやらをとっとと終わらせるぞ」

「承知しました」


 ギアベルとハメードは不平不満を口にしながら、関所の中へと入る。

 そしてハメード達が到着した後。すぐに関所にある一室で会談が始まる。ユートの願いが叶ったのか、その場にはギアベルの姿はなかった。


 ◇◇◇


 レッケは帝国のハメード伯爵と対峙する。

 今回のレッケの任務は、リスティヒとハメードの間で交わされた密約の内容を確認することだ。


「初めまして。私はリスティヒ⋯⋯国王陛下の代理で来たレイドと申します」


 騎士団長としての名前が知られている可能性を考えて、レッケはレイドという偽名を名乗ることにしていた。


「私はハメードです。よろしくお願いしますね。ですがよろしくするかどうかは、私の質問に答えてもらってからでよろしいですか?」

「はい。どのような質問でしょうか」


 ハメードは笑みを浮かべながら問いかけてくる。


「リスティヒ様、もしくはグラザム様が来られると思っていたのですが、お二人はどうされたのですか?」

「申し訳ありません。実はリスティヒ⋯⋯国王陛下は国を治めたばかりで多忙でして。そしてレジスタンスが活発に活動していると報告を受けているため、この場に来ることは危険だと判断しました。グラザム⋯⋯様ですが、現在ムーンガーデン王国内にあるレジスタンスのアジトを探す任務についています」

「そうですか。久しぶりにお二人とお会いしたかったのですが、残念です」


 レッケはリスティヒのことを国王陛下と、グラザムのことを様をつけて呼ぶことに嫌悪感を抱き、思わず言葉が詰まってしまった。

 だが特にそのことを指摘されず、危機を乗り越えたかのように見えたが、ハメードからの追及は終わらなかった。


「ですがあなたが本当にリスティヒ様の代理なのか、証明出来るものはありますか」

「証明出来るもの⋯⋯ですか。私も急にここに来るように命令されて⋯⋯ハメード様から頂いた、本日の会談の手紙くらいしかありません」

「手紙ですか。確かにこちらは私が書いたものです。ですがこのようなもの、部屋に忍び込み盗んでしまえばどうとでもなります」


 ハメードはレッケに対して訝しい目を向けていた。


「でしたら本日の会談は取り止めますか? 私も疑われたまま会談をするのは本意ではないので。後日リスティヒ国王陛下かグラザム様が来られた時に会談をしましょう」

「そうですね。この案件は失敗できません。そうして頂けると助かります」


 ハメードはそう口にすると立ち上がり、外に出るためドアの方へと歩き始める。


「ですが次の会談はないかもしれません」


 しかし背中越しに聞こえてきたレッケの言葉に、足を止めるのであった。

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