第47話 偽りの勇者パーティー
「ゴブリン達を倒した⋯⋯だと⋯⋯まさか他の勇者パーティーでも来たのか!」
「いえ、一人の青年ですね。ゴブリンの巣まで潰してくれて。あの青年はこの村に取って救世主です」
「ゴブリンの巣にあった宝まで俺達にくれたからな。この村の復興に使って下さいって」
「ああいう若者がいると、帝国もまだまだ捨てたもんじゃないって思えるよ」
ギアベル一行は村人達の言葉を信じられないといった表情で聞いていた。
「あのゴブリン達をぉ⋯⋯一人でぇ」
「私には絶対に無理です」
「もしかしてその青年は我々四人より強いのでは⋯⋯」
突き付けられた現実に三人は意気消沈してしまう。
さっきはギアベルがいた手前、ゴブリン達に勝てると口にしていた三人だが、心の中では戦いたくないと思っていた。本気を出した所で、ゴブリンキングに勝てるイメージがなかったからだ。そのため、ゴブリン達が既に討伐されていると聞いた時、安堵する気持ちと、一人で討伐した青年には絶対に勝てないという敗北の意識を持つことになった。
「誰だ。そのゴブリンを一人で倒した奴というのは」
だがギアベルだけは違った。青年の活躍を聞いても、その実力を認めることはせず、むしろ自分の獲物を奪われたため、怒り狂っていた。
「え~とユートという名前だったな」
「ユートだと!」
「「「ユート!」」」
村長から予想外の名前を聞き、ギアベル達は驚きを隠せない。
「あの役立たずがゴブリンキングを倒したというのか。ありえないな」
「私もそう思いますが、ユートが元々住んでいた地域はこの辺りだったと記憶しています」
マリーの言葉にギアベルは苛立ちを隠せず、地面に転がっていた石をおもいっきり蹴っ飛ばす。
「ほ、本当は他の奴が倒したものをユートが横取りしたんじゃないか?」
「ユートがゴブリンキングを倒した所は、何人もの村人達が目撃していました。間違いありません」
「そ、それなら実はユートが倒した魔物はゴブリンキングじゃなかったとか」
ギアベルはユートに負けたという現実から目を逸らすため、否定の理由を探し続ける。何故ならもしこれが真実なら、自分のプライドがズタズタになってしまうからだ。
「そこまでお疑いになるのでしたら、ゴブリンキングの素材があるので見てみますか?」
「そこまで言うなら確認してやろう」
そして村長の案内の元、ギアベル一行は倉庫へと向かう。
「これがユートが討伐したゴブリンキングです」
倉庫には首のない巨大な魔物が横たわっていた。
「ふ、ふん! これがゴブリンキングだと? 顔なしじゃあ証明することが出来ないんじゃないか」
「首から上はこっちにあります」
村長は棚を指差すと、そこにはゴブリンキングの顔があった。
首だけという姿で不気味なこともあり、ギアベル達は恐れをなし後退る。
「ほ、本当にゴブリンキングだしぃ」
「私達が不調だと感じていたのは、やはりユートがいなかったせいなの」
「今思えば我々はユートが来る前は勇者パーティー候補だった。そしてユートが来てから勇者パーティーになることが出来た。もしかしてユートは無能ではないのか⋯⋯」
三人はディアンヌの言葉に黙り込んでしまい、辺りに静寂が訪れる。
「お前達⋯⋯行くぞ」
そしてギアベルは感情のない声で、もうこの村には用はないとこの場を立ち去る。
だがそれは村長が許さなかった。
「あなた達はゴブリンキングを倒すことが出来なかった。前金で払った金と奪っていった金品を返して貰おうか」
「な、なんだと!」
「今思えば、もしゴブリンをあんた達が倒したとしても、金や金品を奪われた私達は、この村で生活することが出来なかっただろう。本当にゴブリンを討伐してくれたのがユートで良かったよ」
「この俺よりユートが良い⋯⋯だと⋯⋯」
それはプライドが高いギアベルに取って、最も屈辱的な言葉だった。
そのため、ギアベルの心の中で激しい憎悪が大きくなっていく。
「正直、あなた達がゴブリンを刺激したせいで村は壊滅の危機に陥ったんだ。村長として、この村の住人の一人として、もうあなた達に関わりたくない。早めに村を出て行ってくれないか」
村長の言葉を聞いて、村人達が鋭い視線をギアベル達に送る。
すると四人はその迫力に押され、一瞬黙り込んでしまう。
「くっ! こんな村はこちらから願い下げだ! ファラ、金を払ってさっさと帝都に戻るぞ!」
ギアベルは踵を返し、倉庫から出ていってしまった。
ファラはギアベルの命令通りお金を村長に渡す。
「待って下さいギアベル様~」
そしてファラはマリーとディアンヌと共に、逃げるようにギアベルを追いかけるのであった。
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