第44話 反逆者達の末路

「リスティヒとグラザムのことだ。あの二人は何がやりたかったと思う? レジスタンスやユートの活躍で国を取り戻すことが出来たが、高額な税収をかけ、王族や一部の貴族が好き勝手していたら、いずれクーデターが起き、国が滅ろびるのは間違いないだろう。だが牢獄にいる二人に話を聞いても、何も言わないのだよ」


 確かに国王陛下の仰る通りだ。まさかあそこまでやっておいて政権を維持出来るとは思っていないだろう。さすがにそこまでバカではないはずだ。

 だけどあの二人を見ていると、そんなバカなこともやりかねない気もする。

 だけどそう言えば、逃げたグラザムに追いついた時、おかしなことを言ってたな。あれは確か⋯⋯


「グラザムが気になることを言ってました。元よりこの国は滅びる運命だったのだと」

「なんだと! その言葉を額面通りに受け取ると、グラザムは国が滅びるのを予言していたと言う訳か」


 そんな予言をした所でどうするつもりなんだ? 仮にも王子だったグラザムがその滅亡を受け入れるとは到底考えられない。国が滅亡したら王子という地位もなくなるのだから。

 いや、待てよ。もし最初から王子という地位に固執してなかったらどうだ?

 そう考えると思い当たることがある。


「少しお聞きしたいことがあるのですが、リスティヒやグラザムは他国の方と頻繁に会ったりしていましたか?」

「それについては私が答えよう」


 レッケさんが前に出る。


「レジスタンスとして活動していた際に奴らの動向を探っていたが、帝国の者と何度か会っていたのを目撃している。ただ何のために会っていたのかはわからずじまいだったが」

「そうですか。ありがとうございます」


 帝国と会っていたか。

 でも俺が見た限りだと、グラザムは王子の地位を欲しがっているように見えたからなあ。

 やっぱりよくわからない。これは本人に聞いてみるしかないんじゃないか。


「何かわかったのか?」

「いえ、さっぱりわかりません。もしよろしければ直接聞いても構いませんか?」

「さっきも言ったように二人は何も喋らないようだ。それでもいいならユートの好きにするがよい」

「ありがとうございます」

「レッケ、ユートを牢獄まで案内してくれ」

「はっ! 承知しました!」

「私も行きます」


 俺とリズはレッケさんの後に続いて、城の地下にあるという牢獄へと向かう。

 五分程歩いていると一つの扉の前に到着し、そこには二人の兵士がいた。


「これはレッケ騎士団長、それと⋯⋯リズリット様!?」


 兵士はリズの姿に気づくと、突然背筋を伸ばし始めた。


「このような場所に何のご用でしょうか」

「リスティヒとグラザムに会いにきたのだ。通るぞ」

「「はっ! どうぞお通り下さい!」」


 兵士二人が扉を開ける。すると中は薄暗く、下層へ向かう階段が見えた。


「リズ、手を」

「はい。ありがとうございます」


 ドレス姿のリズでは暗い中、階段を降りるのは辛いだろう。もし転んだりしたら大変だ。俺はリズの手を取り、階段を降りていく。

 するとレッケさんがチラチラと笑みを浮かべながら、こちらに視線を送ってきた。


「何ですか? そんな後ろばっかみていると転びますよ」

「いや、ユートは優しいなと思って見ていただけだ」

「そうですね。ユート様はとてもお優しいです」


 たぶん俺がリズの手を取ったから、レッケさんはこちらに視線を向けてきたんだ。何だか親戚のおじさんに冷やかされているようで嫌だな。

 そしてリズはたぶん、そんなことわかってないんだろうな。


「リズはドレスを着ているから歩きにくいだろ。暗いし気をつけて」

「はい。それとユート様⋯⋯どうですかこのドレスは?」


 リズのドレスは真っ白だったため、この暗い空間でもハッキリと見ることが出来た。


「リズに似合っていて、とても可愛いよ」

「本当ですか? ありがとうございます」


 白ってまるで純心なリズを表しているようで、お世辞抜きに似合っていると思う。リズも褒められて嬉そうだし何よりだ。

 しかし前を行くレッケさんが、ニンマリと笑みを浮かべていて腹が立つ。こっちを見ないでほしい。


「そういえばレッケさん。俺がフレスヴェルグを倒したことを国王陛下に言いましたね?」


 秘密だって約束したのに。


「主君に報告しない訳にはいかないからな。他の者には伝えるつもりはない」

「そうですか。これ以上は本当に言わないで下さいよ」

「承知した」


 そしてレッケさんの視線を無視しながら地下に到着すると、一つの牢獄の前にたどり着いた。


「誰だ。何度来てもお前達に喋ることなどないぞ」

「くそっ! ここから出せ! 高貴なる私を牢獄に閉じ込めるとは許されぬことだぞ!」


 どうやらリスティヒは落ち着いているが、息子のグラザムは見苦しく喚いているようだ。


「貴様はリズリットとレッケ⋯⋯そして⋯⋯」

「ちちち、父上! こいつだ! こいつがフレスヴェルグを一撃で倒した化物だ!」

「化物とは失礼だな。どうだ? 牢獄の居心地は?」

「良いわけないだろ!」


 挑発にもグラザムは喚いているけど、リスティヒは冷静だな。もしかして生きてここから出ることを諦めているのか? それとも⋯⋯


「こんな小僧のせいで負けるとはな。まさかとは思うが国王救出より先に城を奪還する作戦もこの小僧が考えたのか?」

「そうだと言ったらどうする?」

「私の野望を打ち砕いた奴が目の前にいて、腸が煮え繰り返る思いだ」


 冷静だったリスティヒから殺気を感じる。どうやら本当に腹が立っているようだ。


「それじゃあ今度はこっちから質問させてもらう。グラザムが元よりこの国は滅びる運命だと言っていたけどあれはどういう意味だ」


 俺が質問するとリスティヒは僅かに苛立ちを見せた。余計なことを口にしたグラザムに怒りを感じているといった所か。


「知らんな」

「グラザムは?」

「わ、私も何のことかわからない。そもそもそのようなことを口にした覚えはないが」

 

 一瞬グラザムが動揺したのがわかった。やはり何か隠していると言った所か。


「どうしても喋る気はないの?」

「くどいぞ。私は何も知らん」

「そんなことより早くここから出せ!」


 どうやら普通に聞いただけでは話してもらえないようだ。

 それなら⋯⋯


「ユート様、どうされますか?」

「一筋縄では行かなそうだな」

「まあこうなることは想定済みだ」


 話を聞く限り、リスティヒは口が固そうだ。狙うならグラザムの方だな。


「二人共ちょっと下がっててもらえるかな」

「わかりました」

「何をするつもりだ?」

「見ていればわかると思います」


 リズとレッケさんは降りてきた階段の所まで下がらせる。

 そして俺は両手を前に突き出し、魔力を集めるのであった。

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