第43話 責任
「リズと結婚すればいいのよ。そうすれば王族の一員になるし何も問題ないわ」
問題ありまくりだろ! この人は何を言ってるんだ! 王位を継承するために結婚なんて⋯⋯それはリズにも失礼だ。
「さすがは王妃様! 素晴らしいお考えです! ムーンガーデン王国の宝と呼ばれたリズリット王女と英雄の婚姻。リスティヒによって乱された王国にとっては、復興の励みになるでしょう」
「レッケ騎士団長はわかってるわね」
「いや、本当に待って下さい!」
「そ、そうですよお母様! 私とユート様はそのような関係では⋯⋯」
「そうなの? 二人はとても仲が良さそうに見えるけど」
仲は良いとは思っている。だけど恋人とかそういう関係じゃない。王妃様も考えなおしてくれるといいけど。
王妃様もレッケさんも何か勘違いしているけど、もう一人の人物も二人と同じ様に激しく誤解していた。
誰かが突然俺の肩に手を置く。
「ユートよ。リズとどういう関係なのか私の部屋でじっくり教えてくれないか」
国王陛下は冷静に問いかけてきたが、全然冷静じゃなかった。
俺の肩に置いた手に少しずつ力が入ってくる。そして明確な殺気がこちらに向けられていた。
痛い痛い! 俺は何もしてないのに、なんでこんな扱いをされなきゃならないんだ。
「僕達はムーンガーデン王国まで一緒に旅をしていた仲間で⋯⋯」
「二人だけでか!」
「いえ、マシロとノアも一緒でした」
「マシロとノア? あの猫と犬か。動物は数に入らないだろう」
確かにその通りだが、あの二人は聖獣と神獣だから普通の動物とは違くて⋯⋯そんなことを説明しても理解してもらえるかな? こんなことならマシロとノアも連れてくれば良かった。
だけど国王陛下は話せばわかってくれるはずだ。
俺は誠心誠意これまでのことを伝えようとするが、リズが話さなくてもいいことを口にし始めた。
「私達は別にやましいことなどしていません。そうですよね? ユート様」
「うん」
「ユート様にはお姫様抱っこをしていただいたり、同じ部屋で寝ることもありましたが、不埒なことは一つも⋯⋯もごもご」
俺は慌ててリズの口を手で塞いだ。
何でこの子は余計なことを言っちゃうの! わざとか? ねえわざとか?
俺の肩に置いてある皇帝陛下の手に、益々力が入ってきた。
これ以上リズに喋らすのは危険だ。もし裸を見たことを知られれば、俺はここから生きて帰ることが出来ないだろう。
「貴様! リズにお姫様抱っこ⋯⋯だと⋯⋯私でもしたことがないのに⋯⋯」
「奥手だと思っていたけどやるわね。さすが私の娘だわ」
国王陛下は怒りに震え、王妃様は喜びに震えていた。
「しかも同じ部屋に泊まった⋯⋯だと⋯⋯先程やましいことはないと言っていたがあれは嘘だったのか!」
「いえ⋯⋯ですから部屋にはマシロとノアもいて⋯⋯」
「動物は数には入らないだろ! 未婚の女性⋯⋯しかも王族の姫と二人っきりで同じ部屋に泊まることがわかっているのか?」
「ど、どういうことでしょうか?」
俺は恐怖に震えながら問いかける。
「もう嫁に出すことが出来ないということだ」
「えっ? 私はもう結婚することが出来ないのですか」
俺の手を潜り抜け、リズが悲しそうに問いかける。
王族にはそんなルールがあったの! さすがに異世界の事情なんて知らなかったな。
全員が全員ではないけど、女の子が結婚を夢見る子はたくさんいると聞く。
落ち込んでいるリズを見ると、何だか凄く申し訳ないことをしてしまった気持ちでいっぱいになってしまう。
すると王妃様が悲しみで俯いているリズに寄り添った。
「辛いわね。でもその気持ちはわかるわ。リズの夢が一つ消されてしまったから」
「お母様⋯⋯」
「くっ!」
王妃様の言葉が胸に突き刺さる。
良心の
「でもね。一つだけその夢が叶う方法があるわ」
「ほ、本当ですか?」
「ええ。その方法は⋯⋯ユートくんに責任を取ってもらうことよ」
「ユート様に責任を?」
「そうよ。責任をとってユートくんのお嫁さんにしてもらうの。そうすればリズの夢は守られるし、ユートくんはいずれこの国の王になることが出来るわ」
「ちょっと待って下さい!」
「えっ? なに? ユートくんは責任の一つも取れない男の子なの? お姉さんガッカリだわ」
さりげなく自分のことをお姉さんと呼んだな。まあ王妃様が若くて美人さんなのは事実だけど。
「いや、こういうことで次の王を決めるのは良くないかと」
「貴様ぁぁっ! リズのことが気に入らないというのか!」
国王陛下が突然激昂し始めた。
あんたはどっちなんだ! リズと二人っきりになったら文句を言うし、結婚に反対意見を言っても文句をいう。もう俺はこの夫婦が良くわからなくなって来たよ。
「ユート様と結婚⋯⋯ですか。女神セレスティア様もこの婚姻に祝福して下さるようです」
「リズも結婚はセレスティア様の言葉じゃなくて、自分の意思で決めるべきだと思うぞ」
「そう⋯⋯ですね。私はまだ恋愛とか良くわかりませんが、ユート様は素敵な方だと思っています」
「そうなの? 俺もその⋯⋯リズは素敵な女の子だと思っているよ」
何だか気恥ずかしい空気が流れている。でも仕方ないとはいえ、俺は玉座の間で、しかも相手の両親の前で何を言ってるのだろうか。
「良くいったわ! 次はほら、もっと近くによって。あなたもそうだったけど、男の子なんて上目遣いでボディータッチをすれば、コロリと落ちるチョロい生き物なんだから」
チョ、チョロいって。
でも確かに俺も上目遣いのリズの魅力にやられそうになったことがあるから何も言えない。
それにしても若かりし国王陛下はチョロかったのか。それとも男なんて王妃様の言うとおり、チョロい生き物という訳か。
俺はチラリと国王陛下に視線を向ける。
「な、何だ? 私はけしてチョロくないぞ。そう、チョロくないのだ。母さんが魅力的過ぎたのが悪いんだ」
国王陛下は突然惚気始めた。リズの両親は凄く仲がいいんだな。だけどそれは自分達だけでやってほしい。
「と、とにかくこの話はもう終わりだ。私はリズを嫁に取らせることも、王位を継がせることも考えていない」
「えっ? でも未婚の女性がって話は⋯⋯」
「我が国にはそのような決まりはない。だが個人的には良くないことだと思っているが」
ん? 声が小さくて後半国王陛下が何を言ってるのか聞こえなかった。でもこれで責任問題はなくなったということか。
けど未婚の女性が男と同じ部屋に寝たら嫁に出せないという決まりがないなら⋯⋯
俺は目を細めて訝しい視線を王妃様に送る。
「あら? そうだったの。私、勘違いしていたみたいね」
王妃様の目が泳いでいる。これはわかっていて俺をからかっていたということか。
「そ、そんなことよりあなた⋯⋯重要な話があるのよね?」
「うむ。実は今日は褒賞の話ともう一つ、ユートに聞きたいことがあったのだ」
突然国王陛下が真剣な表情をする。そして語った内容は俺も違和感を感じていたものだった。
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