第41話 玉座の間にて

 リズから逃げて城に戻ると、俺は一人の兵士に話しかけられた。


「国王陛下よりユート様は城に泊まって頂くよう、命令を受けています。どうぞこちらへ」

「わかりました。でもちょっと待ってて下さい」


 少し時間が経つと、俺を追いかけていたマシロとノアが追いついてきた。


「部屋が準備されているみたいだから行くぞ」

「ニャ~」

「ワン」


 さすがにリズは俺達のスピードにはついて来れなかったようだ。とりあえずほとぼりが冷めるまで、リズには会わないでおこう。

 二人も俺に何かする様子はなく素直に後ろを着いてきていた。


「こちらがユート様のお部屋になります」


 兵士が部屋の前まで案内してくれた。

 すると突然、後ろにいたマシロとノアが俺を追い抜き、爪を立ててドアをカリカリし始めた。


「えっ? 二人ともどうしたんだ?」


 突然の奇行な行動に俺は驚いてしまう。だがその理由を兵士が教えてくれた。


「ははっ⋯⋯おそらく部屋の中に用意されているご飯に気づいたのでしょう」

「そういうことですか」


 俺はすぐに部屋のドアを開けてあげる。


「ニャニャッ!」

「ワオーンッ!」


 するとマシロとノアは一目散に部屋の中へと入っていった。

 やれやれ。食い意地の張った聖獣と神獣だぜ。

 今思うと旅をしていたメンバーは全員、食欲が旺盛だったな。


「では私はこれで失礼します」

「案内していただきありがとございました」


 俺は案内してくれた兵士に頭を下げる。そして部屋の中に入るとすごい勢いで食事を取っている二人の姿が見えた。


「さすがは王都と言わざるを得ませんね。はむはむ⋯⋯この魚、すごく美味しいです」

「こっちの肉もはむはむ⋯⋯最高ですよ」

「もうずっとここに住みたい気分です」


 どうやらマシロもノアも美味しい食事にご満悦のようだ。

 だけど本当に二人は頑張ってくれたから、気が済むまで食べてほしい。

 でも二人が美味しそうに食べるからお腹が減ってきたな。

 俺もご飯を頂くとするか。

 そして俺も二人に混じってご飯を食べることにする。


「確かにマシロとノアの言うとおり、凄く美味しいな」


 まあ俺はグルメという程ではないから、何で美味しいのかわからないけど。

 調理方法がいいのか、それとも新鮮なのか、もしくはそもそも材料が違うのか。ともかく美味しいことに変わりはない。

 そして美味しい食事を終えた後、俺達はお風呂に入り、幸せな気持ちでベッド眠るのであった。


 翌日の午前中。


 何故か俺はローレリア城の玉座の間で膝をついていた。

 えっ? えっ? どういうことだろう。何で俺はこんな所に呼び出されたんだ?

 早朝に突然メイドさんが訪ねてきたと思えば、そのまま玉座の間に連れて行かれてしまった。

 だけど玉座の間に連れていかれるのは理解しよう。

 でも何でこんなに人が少ないんだ?

 玉座の間には国王陛下と王妃様、そして二人の横に控えているリズとレッケさんしかいない。

 普通国王陛下を守るために兵士とかいないのか?

 もし俺が暗殺者だったらどうする気なんだ。

 ともかく今は考えるのはやめて、目の前の事例に対処するとしよう。ちなみにマシロとノアはまだベッドの中で寝ていて、この場にはいない。


「ユートよ。おもてをあげい」


 国王陛下の重厚な声が玉座の間に響く。

 俺は命令に従い、顔を上げた。

 すると国王陛下と王妃様、リズにレッケさんの姿が目に入った。

 良かった。国王陛下と王妃様は元気そうだな。

 昨日助けた時は顔色も悪く心配していたが、今は特に問題なく見える。それと今日のリズはドレスを着ている。こういう姿を見ると、改めてリズは王女様なんだと実感してしまう。

 それにしても何だか息苦しく感じるのは気のせいか? もしかしたら褒賞でももらえるのかと思ったけど違うように感じる。これは兵士達がいないことに何か関係しているのだろうか?

 俺は少しビクビクしながら周囲の様子を窺う。


「あなた⋯⋯お遊びはそろそろ止めたらどうですか?」


 何が起きるのかと恐れていた俺だが、王妃様の声で重苦しい空気が霧散した。

 えっ? えっ? どういうこと?

 俺は訳がわからず混乱していると、国王陛下が理由を教えてくれた。


「せめて最初くらいはちち⋯⋯いや、国王として威厳を持って話したいと思っただけだ。ユートよ、楽にしてくれて大丈夫だ。むしろ頭を下げなければならないのは私の方だからな」

「あ、はい⋯⋯」


 俺は訳がわからず、とりあえず立ち上がる。

 そういえば前にリズから、国王陛下は国民を優先する人だと聞いていた。そのような人が怖いはずがないよな。

 俺は緊張が解けて、安堵のため息をつく。


 国王陛下と王妃様が玉座から立ち上がり、こちらに向かってくる。

 そして俺の手を取ると涙を流していた。


「リズから全てを聞いた。ユートよ。国を取り戻してくれて、国民を救ってくれてありがとう」

「リズを逃がした時にはもう二度と会えないと覚悟していました。あなたの勇気ある行動に感謝します」

「いえ、全てはセレスティア様のお導きがあったからです」

「それでも私達は君に感謝している。何かお礼をしたいのだが、望む物はあるか?」

「望む物⋯⋯ですか?」


 いきなりそんなことを言われても困る。

 だけどマシロとノアがいなくて正解だったな。

 もしいたら絶対に新鮮な魚と骨付き肉がほしいと言っていただろう。

 だけど本当にほしいものが思いつかないぞ。俺ってそんなに物欲がなかったんだな。

 そのような中、俺が欲しい物を考えているとレッケさんがとんでもないことを口にするのであった。

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