第38話 フレスヴェルグ討伐戦(3)

「なんだあのバカでかい光は!」


 グラザムの言うとおり神聖極大セイクリッドオメガ破壊魔法ブラストは巨大で、三十メートル程あるフレスヴェルグと同じくらいの大きさがあった。


「だがしょせんは見かけ倒しの魔法だ! そのような脆弱な光を振り払い、私を認めないこの国の奴らを始末しろ!」


 空間の裂け目はほとんど拡がり、フレスヴェルグはこの世界に侵入しようとしていた。

 だが神聖極大セイクリッドオメガ破壊魔法ブラストがフレスヴェルグの侵入を許さない。

 聖なる光球がフレスヴェルグが激突すると、激しい爆発が起こった。

 俺はその光景を見届けた瞬間、魔力の消費が激しく、思わず膝をついてしまう。

 これ以上は魔法を使うことは出来ないな。後は神聖極大セイクリッドオメガ破壊魔法ブラストの威力を信じるだけだ。

 俺は爆発が起きた場所に目を向ける。


「くっ! 何をしている! 早くこいつらを皆殺しにしろ!」


 グラザムは喚き散らし、フレスヴェルグに命令していた。だが爆煙が晴れた後、そこにはフレスヴェルグはおろか空間の裂け目すら消えていた。


「はっ? はぁぁぁぁっ!?」


 グラザムが突然素頓狂すっとんきょうな声を上げる。どうやら目の前で起きた現実を受け入れられないようだ。


「ちょ、ちょっと待て! どこに隠れているんだ? 遊びはいらないぞ」


 グラザムは周辺に目を向けるが、フレスヴェルグの姿はどこにもいない。


「私の命令が聞けないのか! は、早く出てこい! そして高貴な私を守れ!」


 だがその声は周囲に木霊するだけで、反応するものは誰もいなかった。


「ふざけるな⋯⋯ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁっ!」


 グラザムはフレスヴェルグの姿が見つからず、発狂し始める。そして俺は立ち上がり、ゆっくりとグラザムの元へと向かった。


「驚いたり狼狽えたり発狂したりと、忙しい奴だな」

「き、貴様ぁっ! フレスヴェルグをどこにやった!」

「さあ? 地獄にでもいるんじゃないか? 過去にたくさんの人間を殺した罪で」

「 これは何かの間違いだろ? フレスヴェルグはSランクの魔物だぞ? やられる訳がないじゃないか」

「Sランクの魔物とかそういうのはわからないけど、俺の魔法で死んだのは間違いないな」

「と、ということは⋯⋯お前は一人でSランクの勇者パーティーの実力があるということか⋯⋯ひぃぃぃっ!」


 グラザムは悲鳴を上げながら尻餅をつく。


「さて、覚えているか? フレスヴェルグを倒したら次はお前だって言ったことを」

「お、覚えていません」

「いや、俺は覚えているぞ。覚悟しろよ」

「ぎゃぁぁっ! だ、誰か助けてくれ!」


 グラザムは恐怖からか叫び始める。その姿は威厳の欠片もなく、これが王族だとはとても思えない。


「お前は私欲のために国家を乱し、国民を苦しめた。そしてリズを無理矢理嫁にしようとしたことは絶対に許さん」

「ユート様⋯⋯」


 俺は右手に力を入れて拳を握る。


「ま、まて! そうだ。私の味方をしてくれるならお前を侯爵に取り立ててやろう。どうだ? 女には不自由しないし、一生遊んで暮らせるぞ」

「見下げた奴だな。悪いことをしても反省する気が全くないな。お前によって人生を狂わされた者の痛みを味わうがいい!」


 俺はグラザムの顔面に拳を放つ。

 するとグラザムは後方にぶっ飛び、地面を転がり回る。


「い、いひゃい⋯⋯」


 くっ! 魔力が空っぽで力が入らなかったため、威力が弱まってしまったか。だがとどめは俺より相応しい人がいるから任せよう。


 グラザムが吹き飛んだ先には、俺より怒りに震えるリズがいた。


「リ、リズリット⋯⋯このままでは殺される。助けてくれ⋯⋯私達は同じ王族じゃないか」


 グラザムは恥も外聞も捨てて、リズリットの助けを求める。


「同じ王族ですか⋯⋯それは心外ですね。国民を苦しめたあなたと同じにしないでほしいです」

「そんなこと言わないでくれ。昔の優しいリズリットはどこにいったんだ」


 グラザムが情に訴えてきた。

 さすがに昔からの知り合いだからわかってるな。リズは優しいから情に訴え続ければ、もしかしたら許してくれるかもしれないと考えているのだろう。


 だがその行動を許さない者達がいた。


「ちょっと離れて下さい。リズが汚れてしまいます」

「もしリズさんに何かしたら僕が許しませんよ」


 二匹の頼もしき護衛、マシロとノアがグラザムの前に立つ。


「ね、猫と犬が喋っただと!」

「うるさいですね。そんな些細なことはどうでもいいです」


 些細なことではないけどな。いきなり動物が喋ったら普通は驚くぞ。

 だがどうやらさっき魔法を使った時、マシロとノアが喋ることにグラザムは気づかなかったようだ。


「それでリズ、どうするの? この男のことを許すつもり?」


 全員の視線がリズへと注がれる。

 そしてリズが出した答えは⋯⋯


「女神セレスティア様は仰いました。悪に染まった愚か者に天罰を与えよと」

「えっ? えっ?」


 リズは右手を振りかぶり、グラザムの頬に向かって、おもいっきり平手打ちを放った。


「ぶげっ!」


 グラザムはリズの平手打ちをまともに食らい、その場に崩れ落ちる。そして意識を失い、そのまま地面に倒れるのであった。


「それでいいわ」

「リズさんの一撃にスカッとしました」


 こうして俺達はフレスヴェルグを倒し、反逆者であるグラザムを捕らえることに成功するのであった。


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