第37話 フレスヴェルグ討伐戦(2)

稲妻魔法ライトニングボルト

氷柱雨魔法アイシクルレイン


 二人が魔法を解き放つと、天から稲妻と無数の氷柱がフレスヴェルグに降り注ぐ。


「バカな! 猫と犬が魔法を使っただと!?」


 グラザムが驚くのも無理はない。まさかこの二人が聖獣と神獣だとは思わないだろう。

 だが今はグラザムなどどうでもいい。

 フレスヴェルグは図体がでかいから、全ての魔法が直撃していた。並の魔物なら今の魔法で決着がついたはずだ。


 しかし相手は並の魔物ではなかった。

 二人の魔法がまるでなかったかのように、再びこの世界に移動しようと空間を割っていく。


「はっ⋯⋯はは⋯⋯驚かせやがって。猫や犬ごときがフレスヴェルグを倒せると思うなよ」


 グラザムはさすがに魔法の直撃を食らって焦っていたが、無傷だとわかり平静を取り戻していた。


「残念ですが、今の私の手には負えないようですね」

「ごめんなさい。倒すことが出来ませんでした」

「いや、二人はグラザムの居場所を突き止めてくれたし、よくやってくれたよ。戦いが終わったら美味しい魚と肉をご馳走するから楽しみにしててくれ。後は俺がやる」

「悔しいですけどユートに任せます」

「ユートさんなら何とかしてくれると信じています」


 俺はマシロとノアを労い、前に出る。

 だけどああは言ったもののどうするか。倒す手段が見つかるかも知れないので、まずは相手の能力を確認して見よう。


真実の目ヴァールハイト


 俺はスキルを口にすると立体映像が目に映り、フレスヴェルグの能力の詳細が見えてきた。

 だがこれは⋯⋯驚愕の能力だな。


 名前:フレスヴェルグ

 性別:雄

 種族:妖獣

 レベル:202/300

 力:2321

 素早さ:4211

 防御力:323

 魔力:2001

 HP:1532

 MP:1821

 スキル:風耐性・スピード強化A

 魔法:風魔法ランク10

 称号:空の王者・風を起こせし者・死体を飲み込む者


 とんでもない能力だな。魔法のランクは10が最高値だ。そのためフレスヴェルグは全ての風魔法が使えるということか。

 それに素早さが常軌を逸している。

 ちなみにスキルでアルファベットが振られているものはSが最も効果が高くEが最も低い。レベルは分子が今のレベルで、分母はレベルの限界値だ。


 そして強化の補正値は⋯⋯


 E=10%

 D=30%

 C=50%

 B=75%

 A=100%

 S=200%


 フレスヴェルグはスピード強化Aを持っているので、実際の素早さの数値は8422になる。

 今はまだこちらの世界に来ることが出来ず止まったままだが、もし自由に動けるようになったら、とてもじゃないが捕らえられるスピードじゃない。

 もし倒すなら、今この時が最大のチャンスだ。

 だけど風魔法は使わない方がいいだろう。能力に風耐性のスキルがあったからだ。

 風魔法が得意なマシロとはちょっと相性が悪かったな。

 とにかく並大抵の魔法では倒すことは出来ない。ここは俺が使える最強の魔法を使うべきだ。


「マシロ、ノア」

「なんでしょうか」

「はい」

「これからちょっと集中して大きめの魔法を使うから、その間リズを頼む」

「わかりました」

「お任せ下さい」


 俺は三人から少し距離を取る。


「ユート様、御存分に⋯⋯」

「うん」


 俺は背後から聞こえるリズの声に応え、フレスヴェルグと対峙した。

 空間の裂け目から半分くらい身体が出ている。もう悠長している時間はなさそうだ。


「何だ? 今度はお前がフレスヴェルグに攻撃するつもりか?」


 グラザムが余裕の笑みを浮かべながら話しかけてきた。


「だったらどうだと言うんだ」

「無駄なことを。それより逃げた方がいいんじゃないか?」

「そのセリフ、そっくり返させてもらう。フレスヴェルグを倒したら次はお前の番だ」

「フレスヴェルグを倒す? 笑わせるな。無知というのは残酷だなあ」

「どういうことだ」

「冥土の土産に良いことを教えてやろう。フレスヴェルグは魔物のランクでいうとSランクだ。しかも限りなくSSランクに近いと言われている」


 SSランクの魔物が狩れる勇者パーティーは、この世界の歴史上数パーティーしかいないと言われている。そして今現在、この世界には存在しない。


「この意味がわかるか?」

「⋯⋯いくつも勇者パーティー、もしくは最強の勇者パーティーでなければ倒すことが出来ないと言いたいのか?」

「そうだ! 仮にお前が勇者パーティーだったとしても一人で何が出来る! 無駄なことをやろうとしている姿は滑稽過ぎて、笑いが込み上げてくるぞ」

「だから?」

「だから⋯⋯だと⋯⋯」


 ニヤけた笑みを浮かべていたグラザムが突然真顔になる。


「勇者パーティーでしか狩れないというなら、勇者を越えた一撃を食らわせればいいだけだ。他者の力を使わないと粋がることしか出来ない奴は黙って見てろ」

「貴様ぁぁっ! 偉そうなことを! フレスヴェルグが空間の裂け目から顕現したら、お望み通り貴様から殺してやる!精々無駄な足掻きとやらを頑張ってみるんだな」


 グラザムは激昂して憎しみの目をこちらに向けている。俺が失敗する所を楽しみにしているのだろう。

 だけどこれでようやく静かになったな。

 後は集中して魔法を放つだけだ。


 俺は身体中にある魔力を両手に集めるため集中する。


「ユート様の手が⋯⋯光っている」

「かなり高密度の魔力がユートの手に集まっていますね」


 全ての魔力を俺の手に集え。

 これは一発勝負だ。出し惜しみなく全力の一撃をフレスヴェルグに放つ。

 そのためには魔力を集めるだけでは足りない。


「女神セレスティアの名の元にユートが命ずる⋯⋯」

「えっ? ユート様は何を⋯⋯」

「あれは魔法の詠唱ですね。高ランクの魔法を使う時によりイメージを強くして、使用する魔法の威力を上げることができます」

「ユート様は甚大な魔法を使おうとしているのですね」


 くっ! 詠唱を始めたのはいいが、膨大なMPが消費されていく。少しでも気を抜けば集めた魔力が全て霧散してしまいそうだ。だけど中途半端な一撃ではフレスヴェルグに届かない。全力の一撃をぶつけるんだ。


「我が身我が手に集い⋯⋯神の一撃を持って⋯⋯我が眼前にいる敵を破壊せよ⋯⋯神聖極大セイクリッドオメガ破壊魔法ブラスト


 魔法を唱えると、空間の裂け目から出かかっているフレスヴェルグに向かって、聖なる光を集めた巨大な光球がユートの手から放たれるのであった。


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