第35話 巡ってきたチャンス

「本当にグラザムがいるのか?」

「マシロとノアがそう言ってるので」

「その聖獣と神獣がか」


 レッケさんにはマシロとノアの正体を伝えてある。

 今回の国王陛下と王妃様救出作戦を行うに当たって、二人が護衛を出来るくらい強いと知ってもらうために正体を明かしたのだ。そうじゃないとリズを一人で行かせることなど、絶対に許してくれなかっただろう。


「そうです。二人なら必ず見つけてくれますよ」

「私にかかれば余裕です」

「ご期待に応えられるようがんばります」


 マシロとノアの能力に疑いの余地はない。これまで何度も期待に応えてくれたからな。


 俺達はマシロとノアの後に続いてグラザムを追っていく。

 二人はどんどん西側へと進んで行き、城からはかなり離れてしまった。


「おいおい。このままだと街の外に出てしまうぞ」

「うるさいですよ。すぐに見つけてあげるから黙っていて下さい」

「後少しで追いつきます」

「す、すまない」


 レッケさんも猫に説教されるなんて思っても見なかっただろうな。


「この門を越えて少し進んだ所にいますね」

「街の外に!? いや、何でもない」


 レッケさんは一瞬疑いの声を上げたけど、また余計なことを言うとマシロに注意されるので、口をつぐんだ。


「ちょっと門にいる人達に聞いてみますか?」


 外に出たのなら、この西門を通ったはず。

 門番の兵士達からグラザムを見たという証言を聞けたら、レッケさんの疑念は晴れるだろう。


「すみません。ついさっきここを誰かが通りませんでしたか?」


 俺は暇そうにしている二人の門番に話しかける。


「何だ君は⋯⋯そんなこと答える義務は⋯⋯リ、リズリット様!」

「え~と門を通った者は⋯⋯」


 どうやら俺の後ろにいるリズに気づいたようだ。こういう時は権力者が側にいると楽でいいな。


「早く答えんか! こっちは急いでいるんだ! ちなみにリスティヒは既に失脚した。嘘をついたらどうなるかわかっているな」

「ひぃっ! レッケ騎士団長まで!」

「す、少なくともここ三十分は誰も通っていません!」

「誰も通っていない⋯⋯だと⋯⋯どういうことだ?」


 通常の方法で街の外に出るなら、必ずここを通るはず。だが門番は誰も通っていないという。

 レッケさんに絞られているから嘘をついているとは思えないが。


「ともかく外に出てみよう」


 俺はレッケさんに続いて門の外に出る。

 てっきり「やはり猫や犬の言ったことなど信用ならん」とでも言うかと思った。


「なんだ? 不思議そうな顔をしているな」

「いえ、そういう訳では⋯⋯」

「リズリット王女とユートがこの二人を信じているんだ。私も信じるしかないだろう」

「レッケさん⋯⋯」


 突然現れた喋る猫と犬を信じろと言われて信じることは不可能だ。だけどレッケさんはリズと俺を通してマシロとノアを信じると言ってくれた。これは少し嬉しいな。


「さ、さあ次はどっちだ! 月明かりがあるとはいえ、街の外は暗い。早く追いつかないと見失ってしまうぞ」


 もしマシロとノアが探知出来ない所まで逃げられたら厄介だ。


「マシロ、ノア。グラザムはどこにいる」

「このまま真っ直ぐ二百メートル程行った所にいます」

「疲れているのか、地面に座っていますね」


 これはチャンスだな。

 これ以上逃げられる前に捕縛するぞ。

 俺達はさらに走るスピードを上げる。

 すると程なくして、地面に座り込んでいる者の姿が見えてきた。


「グラザム。とうとう見つけましたよ」

「国家に仇なす反逆者よ。観念するがいい!」

「げっ! リズリットにレッケ! 何故ここに!」


 どうやらグラザムに追いつくことが出来たようだ。

 グラザムは追っ手から逃れられたと思っていたのか、追いつかれて焦りの表情を浮かべていた。


「ふふん、どうですか?」

「何とか見つけることが出来ました」


 そしてグラザムとは対照的に、任務を達成したマシロとノアは得意気な顔をしている。


「二人ともありがとう。戦いが終わったら美味しい魚と骨付き肉を進呈しよう」

「三日分でお願いします」

「ぼ、僕もお願いします」

「わかった」


 マシロもノアもそれだけの働きをしてくれた。後は俺達がグラザムを捕らえるだけだ。


「ま、まて! 私は父上に命令されて仕方なくクーデターを起こしたのだ!」

「嘘をつかないで下さい」


 いや、誰が見てもそれには無理があるだろう。

 嬉々としてリズを陥れようとしていたじゃないか。


「見苦しいですぞ! 仮にも王族だったならせめて最後くらい潔くしたらどうですか」

「まだ私は負けてはいない」

「あなたの剣の師である私に勝てるとお思いか」


 レッケさんの言葉から、実はグラザムが強者だったということはなさそうだな。

 これは容易に捕まえることが出来そうだ。


「くく⋯⋯」


 だがこの追い詰められた状況だというのに、グラザムは笑みを浮かべた。

 どうしたんだ? まさか自暴自棄になって頭がおかしくなったのか?

 いや、俺が見る限り奴の目はまだ死んではいない。何か企んでいるのか?


「元よりこの国は滅びる運命だったのだ。それなら今ここで私が破壊してやる!」

「どういうことですか!」

「そのままお前の大好きな国が滅びゆく様を見ているがいい」


 グラザムは懐に手を入れる。そして引き抜いた時には掌サイズの緑に輝く玉を持っていた。

 何だあれは? 何か宝石のように見えるけど⋯⋯


「もしかしてあれは⋯⋯ユート様! レッケ騎士団長! グラザムの手にある宝石を奪い取って下さい!」


 リズの言葉の意味はわからないけど、何だか嫌な予感がする。

 俺とレッケさんは宝石を奪うため、グラザムの元へ駆け出すが⋯⋯


「遅い」


 グラザムは俺達がたどり着く前に、宝石を地面に投げつけた。

 すると宝石はコナゴナに砕け、残骸が地面に散らばる。

 どういうことだ? この行動にどのような意味があるのか全くわからない。

 俺は説明を求めるため、リズに視線を向ける。

 するとリズは顔面蒼白になり、小刻みに震えていた。



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