第25話 王国の反逆者
「リズリット王女を捕まえれば僕は上級貴族になれる。そうすれば権力も今まで以上に使いたい放題だ」
なるほど。
何故リズが姿を晒したのか意味がわかった。
村への恨みを全て自分が引き受けるためだったんだ。
そして予測した通りにアホードは村への関心なくし、リズに執着していた。
確かにリズを捕らえることが出来れば、新国王から褒賞がもらえるのは間違いないだろう。それに比べれば自分の怒りは二の次という訳か。
しかしアホードは大事なことを理解していない。
「お前ごときがリズに近づけると思うなよ。リズには指一本触れさせやしない」
「ユート様⋯⋯」
俺はリズを守るように、アホードの前に立つ。
余程の実力者かバカでなければ、兵士三人を一瞬で倒した俺に向かってくることはないはずだ。
だがアホードは地面に落ちていた兵士の剣を拾う。
どうやら自分の命よりリズを捕らえた後の地位の方が大切らしい。
「僕の輝かしい未来のために死ねぇぇっ!」
アホードは俺の頭を狙って剣を振り下ろす。
実は見た目とは違って剣の達人⋯⋯ということは一切なく、先程の兵士達より遅い攻撃が迫ってくる。
この程度の技量でよく立ち向かってきたものだ。欲というのは時に人を惑わすというの本当のようだな。
俺はアホードの剣が迫る前に、顔面に向かって蹴りを放つ。
「ぶひぃっ!」
するとアホードはまともに蹴りをくらい、醜い声を上げながら後方へと吹き飛んだ。
そしてアホードは気絶したのか、ピクリとも動かなくなるのであった。
しかしこの男にはリズの正体を知られてしまった。それならこのまま仕留めた方がいいかもしれない。
だがこの時、突然マシロが俺の肩に乗ってきた。
「大勢の人間がこちらに向かっています」
そして俺にだけ聞こえるように、小声で呟いてきた。
大勢の人間? このような村にいったい誰が⋯⋯
その答えを俺はすぐに理解することになる。
「まさかこのような辺鄙な村にいたとはな⋯⋯」
突然馬に乗った謎の集団が現れた。いや、謎でも何でもないな。一人を除いてそこで倒れている者達⋯⋯兵士達と同じ姿をしているので何者かはすぐにわかった。
それにしても今喋りかけてきた兵士の格好をしていない奴だが、指や首に宝石が散りばめられていて、明らかに異質な感じがする。
こいつらはアホードが呼んだのか? ざっと見て二十人弱くらいはいそうだけど。
とにかくこれ以上人を呼ばれても面倒だ。早々に退散べきだな。
「リズ、逃げるぞ。その子も連れていこう」
俺は小声でリズに伝える。
この場にニナを置いていくと、アホードが目を覚ました時にひどい目に会うのは間違いないだろう。両親も既にいないようだからたぶん問題ないはず。まあもし本人が俺達について行きたくないと言ったら、その時に解放すればいいだけだ。
「私は神など信じないが、今日この日だけは信じてもいいと思ったぞ」
「何ですかあの男は。とても無礼ですね。女神様の天罰が下りますよ」
耳元でマシロが不敬であるとささやく。
女神様の聖獣としては、聞き逃せない言葉なのだろう。
「さあこちらに来てもらおうか。そして私の妻となるがいい!」
妻⋯⋯だと⋯⋯こいつはリズを狙っているのか。リズの可愛らしさならわからないでもないが、前国王の娘を嫁にしようなどと、ただの貴族に出来るはずがない。
まさかこいつの正体は⋯⋯
「グラザム⋯⋯あなた⋯⋯」
ん? いつもポワポワしているリズから殺気に近い気配を感じる。
それだけこの相手を憎んでいるということなのか。
「お前が私の妻になれば、新しい政権はより強固なものとなる。そして残党として国を脅かしている者共も、我が元に下るだろう」
やはりそうだ。この男は現国王の息子と言った所か。それならばリズがこの男、グラザムを憎むのは当然のことだ。
「誰があなたの妻になるものですか! それよりこの状況を説明して下さい! 何故毎月銀貨二枚の税収をかけたのですか? 国民が苦しんでいることがわからないとは言わせませんよ」
「国民が苦しむ? ふっ⋯⋯相変わらず甘い考えだな。平民など苦しめばいい。そもそも平民は我ら一部の特権階級のために存在しているのだ。我らのために生き、我らのために死ぬのが運命だ。何故それがリズリットにはわからない」
「そのようなことはありません! 誰しもが自分や家族を幸せにするために生きているのです。けして王族は貴族のためではありません」
リズとグラザムの思想は誰が聞いても正反対のものであって、相容れることはないだろう。
このままここで問答していると、さらに兵士達が集まってくるかもしれない。
これ以上はここにいればリスクが付きまとうだけだ。
「リズ、気持ちはわかるけど逃げるぞ。今するべきことを見誤るな」
リズは国民の現状の確認と両親に会いたいと言っていた。もう国民の状況がどうなっているかはわかっただろう。後は両親の安否を確認するために、俺達はローレリアに向かわなければならないはずだ。
正直な話、このまま戦えばグラザムを捕らえることは出来るだろう。だが今は状況が悪い。周囲には多くの村人がおり、人質にでも捕らえられたら、きっと優しいリズは抵抗することが出来なくなってしまう。
だから今は逃げることしか出来ない。
「わ、わかりました⋯⋯ユート様に従います」
リズにとって国を乗っ取ったグラザムから逃げるのは、苦渋の決断であったことが声でわかる。
「逃がすものか! お前達、リズリット王女を捕らえよ! 他の者はどうなってもかまわん」
「「「はっ!」」」
グラザムの命令で兵士達が一糸乱れぬ動きでこちらへと向かってくる。
さすがにリズやニナを守りながら戦うのはきついがやるしかないか。
俺は剣を抜き、二人を守るように兵士と対峙する。
「かかれ!」
そして兵士達は、グラザムの号令で一斉にこちらへと襲いかかってくる⋯⋯はずであった。
「
だが突然どこからか声が聞こえると、地面が凍りつき、グラザムと兵士達はその場で動きを止めることになるのであった。
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