第24話 宣言
「貴様らなんのつもりだ!」
俺はアホードの鋭いムチの一撃を右手で掴む。
良かった。何とか
リズはアホードのムチが放たれた瞬間に飛び出し、ニナを守るように抱きしめていた。
無茶をする。もし俺がムチを止めなかったらリズの身体が切り刻まれていたぞ。
「村の人が助けるのはダメって言ってたから、代わりに俺達が動いただけだ」
「こんなことをしてただで済むと思うなよ」
「国の権力がないと何も出来ない奴が偉そうに語るな」
「なんだと! まずは貴様から片付けてやる」
俺はこういう弱い人をいたぶる奴が嫌いだ。自分もやられる立場だということをわからせてやる。
俺は右手に持ったムチをこちら側に強く引っ張った。
「うわあっ!」
するとムチを掴んでいたアホードは、間抜けな声を上げながらこちら側に引っ張られ向かってきた。
「少しはやられる側の気持ちも理解するんだな」
「やめっ!」
俺は左手の拳を握る。そして向かってきたアホードの顔面に向かって拳を放った。
「ぶべら!」
拳がアホードの顔面に見事突き刺さる。するとアホードを後方へと吹き飛び、ボロ雑巾のように地面を転がっていった。
「「「アホード様!」」」
兵士達がアホードに駆け寄り、こちらに敵意を向けてくる。
これでも手加減してやったんだ。死ぬことはないだろう。さすがに殺して指名手配されるのはごめんだからな。
「き、貴様! この僕に手をあげるなんて万死に値するぞ! お前達やってしまえ!」
「「「はっ!」」」
鼻血を出して醜い顔をしているアホードが、兵士達に命令を下す。
この人達は自分の意思でアホードに従っているのか、それとも仕方なく従っているのかわからないな。
ここはなるべく手荒な真似はしないでおこう。
「命令に従い、捕縛させていただきます」
三人の兵士がこちらに迫ってくる。
兵士の一人が手に持ったショートソードをこちらに振り下ろしてきた。
しかし新米兵士なのか、剣にスピードがない。
今の俺なら目を閉じてもかわせるスピードだ。
いや、もしかしたら手加減して攻撃しているのかもしれない。
なるほど。この人達は嫌々アホードに従っているということか。
それならば、なるべく怪我をさせない方向でここを突破させてもらおう。
俺は迫ってくる剣に対して下がるのではなく、距離を詰める。
そしてすれ違い様に兵士達の顎に向かって拳を放った。
「ぐっ!」
すると兵士達は短い呻き声を上げて、その場に崩れ落ちていく。
「ば、バカな! 兵士達が一瞬でやられた⋯⋯だと⋯⋯いったい何が⋯⋯」
アホードは目の前の現実が信じられないのか、驚きの表情を浮かべていた。
俺は兵士達の顎に拳を当てて脳を揺さぶり、脳震盪を起こさせたのだ。
これならそこまでダメージがなく、兵士達を倒すことができる。
「さて、次はお前の番だ」
俺は倒れているアホードを見下ろしながら距離を詰めていく。
その際に二度とバカなことをしないように威圧を込める。
「ひぃぃぃっ!」
アホードは涙と鼻水を流しながら後退る。
ここで恐れをなして改心してくれればいいが⋯⋯
しかしこの後、アホードはとんでもないことを口にした。
「高貴な僕を傷つけるなんて⋯⋯お前は王国に弓を引いたんだぞ! 国王陛下に頼んでここにいる奴らは皆殺しにしてやる!」
「なっ!」
こいつは改心どころかさらに下衆なことを口にしてきた。
こうなったらここで始末するしかないか。
だけどここで殺してしまったら、この村は処罰を受けるかもしれないし、兵士達が責任を取らされる可能性がある。
しかしだからと言ってこのまま放置したら、村が滅ぼされてしまう。
どうする?
どちらがベストか考えたら、答えは一つしかなかった。
例え今回の件を切り抜けたとしても、この男はまた同じようなことを言うに違いない。
ここで始末した方がこの国のためだ。
俺は腰に差した剣に手を伸ばす。
だがその手が剣に届くことはなかった。
何故なら俺の背後にいたリズが思わぬ行動に出たからだ。
「やめて下さい! これ以上の狼藉は私が許しません!」
なんとリズは外套を脱ぎ捨て、その姿を晒したのだ。
「許さないだと? お前のような女にそんな権限があるのか?」
「あります」
「ど、どういうことだ?」
リズは間髪いれず答える。アホードはその自信満々の姿におののき、声がじゃっかん震えていた。
「私は⋯⋯私はリズリット・フォン・ムーンガーデンです!」
そして自らその正体を宣言してしまう。
「リ、リズリット王女だと⋯⋯バカな! こ、このような場所にいるわけがない」
アホードの言いたいこともわかる。追われているリズリット王女が自分から姿を見せるなんて信じられないことだ。
「俺は一度王都で見たことがある!」
「あのお方はリズリット王女で間違いない」
「うそ⋯⋯本当にリズリット様ですか⋯⋯」
どうやら村人達の中にリズのことを知っている人がいたようだ。ニナさんも信じられないといった表情でリズを見ている。
これでアホードにもリズが本物の王女だと認識出来ただろう。
「くっくっく⋯⋯僕はなんて運がいいんだ。もうこんな村などどうでもいい」
アホードは不気味な笑い声を発しながら立ち上がる。その表情には先程見せた恐れは見られなかった。
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