第16話 リズリット

 思わず声を出してしまったので、全員が俺の方に視線を送ってきた。


 名前:リズリット・フォン・ムーンガーデン

 性別:女

 種族:人間

 レベル:8/100

 好感度:A

 力:45

 素早さ:75

 防御力:50

 魔力:432

 HP:62

 MP:192

 スキル:魔力強化D・簿記・料理・掃除・神託

 魔法:光魔法ランク3

  称号:腹ペコハンター・ムーンガーデン王国元王女・聖女


 名前を見てこの子が何者なのか察してしまった。この女の子⋯⋯リズリットは、これから向かおうとしているムーンガーデン王国のお姫様だ。しかも元がついているということはクーデターが起こって、逃げてきたという訳か。これはとんでもない子に会ってしまったな。

 そしてスキルの神託でセレスティア様の声を聞いたのだろう。

 リズリットは嘘など言ってなかったのだ。


「あの⋯⋯そんなにじっと見られると恥ずかしいです」

「ご、ごめん!」


 そうだよな。女の子をじっと見るなんて失礼だよな。だけど今のは故意ではないけど、さすがは王女様と言うべきか、整った顔をしている。くりっとした目に左右対称の顔、可愛らしくずっと見ていたい気持ちに駆り立てられる。


「え~と⋯⋯セレスティア様の言葉を聞くことができるのは本当みたいだ」


 結論を述べるとマシロが信じられないと言った表情をする。

 これで魚を食べられた恨みで、リズリット王女を攻撃するのを止めてくれるはずだ。


「神の地で暮らした青年が、私のことを導いて下さるとセレスティア様は仰っていました」

「何故ユートが天界から来たことを知っているのですか!」

「えっ?」


 おいおい。マシロがリズリット王女の言葉を聞いて、思わず問いかけてしまった。


「今このネコちゃん喋りましたよね?」

「ニャ、ニャ~」


 マシロが今さら猫の真似をしているが、もう遅い。


「私⋯⋯初めて見た時から思っていました。なんて可愛いネコちゃんとワンちゃんなんだろうって」


 リズリット王女はマシロを抱き寄せて頬擦りをし始める。


「もふもふしてて可愛いです」

「や、やめて下さい! 私はネコじゃなくて誇り高き聖獣ですよ!」

「やっぱり喋りました。私⋯⋯動物とお話するのが夢だったんです」

「く、苦しい⋯⋯」


 マシロはリズリット王女の胸に埋もれ、息が吸えないでいる。だがマシロにとっては地獄かもしれないが、人によっては天国と言える状況だろう。


「マ、マシロさん、大丈夫ですか?」


 窒息状態のマシロを心配してノアが声をかける。だがその行動がいけなかった。今度はノアがターゲットとしてリズリット王女に抱きしめられてしまった。


「うぅっ!」

「ワンちゃんも可愛いですね。あなたから来てくれてとても嬉しいです」


 先程のマシロと同様に、ノアがリズリットの胸に埋もれている。だが代わりにマシロが解放され、新鮮な空気を吸うことが出来ていた。


「ふう⋯⋯ノアの尊い犠牲は無駄にはしません。あなたは私の心の中で永遠に生き続けるでしょう」

「勝手に殺すな。それと助けてもらったのに最低だな」

「こっちは危うく息の根を止められる所でした」

「マシロが息の根を止めるって言ってたこと、聞こえてたんじゃないか?」

「そこまで言うならあなたも同じ苦しみを味わったらどうですか」


 代われるものなら代わりたい。だがそんなことを口にした日には、俺への信頼が地に落ちるだろう。


「ユート様もぎゅっとされたいのですか? いいですよ」

「えっ?」


 リズリットは俺達の話を聞いていたのかノアを解放し、両手を広げる。

 いやいやいやいや、会ったばかりの男を抱きしめるなんてダメでしょ。高貴な人は一般人とは違う常識を持っているのか?


「いや、それよりどうしてリズリット王女がここにいるのか教えてくれませんか?」


 とても魅力的な提案だけど、ここは何とか堪える。今はリズリット王女の事情を聞く方が先だ。


「⋯⋯全てセレスティア様の仰る通りですね」

「えっ? どういうことですか?」

「お名前⋯⋯」

「名前?」

「私、まだお名前を申し上げていませんよね?」

「あっ!」


 リズリット王女の言葉に動揺して、つい名前で呼んでしまった!

 いや、もう色々バレているから今さらか。


「俺は相手の能力を見ることが出来るんだ」

「女神の御使い様⋯⋯そのお力を私にお貸しいただけないでしょうか」

「御使い様はやめてね。ユートでいいです」

「わかりましたユート様。私のことはリズとお呼び下さい」

「リズ王女ですね」

「リズです。敬語もなしでお願いします」

「えっ? さすがに王女様を呼び捨てにすることは⋯⋯」

「リズでお願いします」

「わ、わかりました⋯⋯いや、わかった」


 顔は笑顔だけど圧を感じて思わず頷いてしまった。だけど敬語が得意ではないので、助かるといえば助かるけど⋯⋯


「それで私がここにいる理由ですけど⋯⋯ユート様! 私にお力を貸していただけませんか!」


 リズは深々と頭を下げ、何故ここにいたのか語るのであった。

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