第15話 ベッドで寝ていた女の子

「何? まさかこの子が犯人?」


 女の子はまるで自分の家のようにぐっすり寝ている。

 けどこの子が魚と肉を食べた犯人として、こんな所で寝るか普通。捕まえてくれって言ってるようなものだ。

 そうなるとこの女の子は犯人じゃない? でもノアは犯人はこの部屋の中にいるって言ってたしなあ。何だかよくわからなくなってきたぞ。


「とりあえず無防備なうちに息の根を止めましょう」

「ダメだろそれ」

「何故ですか? 私の魚を食べたことは万死に値します」


 この猫、物騒なことを口にするな。

 本当に女神に仕える聖獣なのか?


「まだこの女の子が犯人と決まった訳じゃないだろ?」

「そうですね」

「それに例え犯人だとしても、息の根を止めるのはダメだ」

「⋯⋯わかりました」


 問いかけに対して間があったし、俺から目を逸らしている。絶対に納得してないよな。


「え~と⋯⋯すみません」


 俺は女の子を起こすため肩を揺する。すると女の子は目を閉じたまま言葉を発した。


「う~ん⋯⋯もう食べれません」

「クロですね。やはりこのまま息の根を止めましょう」

「だから待ってくれ。それとそろそろ喋るのをやめようか」


 やれやれ。それにしても何でその言葉が出てくるのか。益々マシロの殺意が大きくなったぞ。


「起きてくれ。ここは君の部屋じゃないぞ」


 今度はさっきより強く揺すってみる。


「うぅ⋯⋯はっ! ここは⋯⋯」

「船室のベッドの上だよ」


 俺は女の子の問いに答えた。

 だが寝起きのためか、女の子の視線がまだ定まっていないように見える。

 そしてようやく俺のことに気づいたのか、ベッドの上で土下座をし始めた。


「申し訳ありません!」


 な、何だ? 突然謝ってきて。これはどういう意味で土下座しているんだ。

 とりあえず事情を聞く前に、マシロを抱っこしておこ。

 女の子が魚を食べたって言ったら、マシロが襲いかかりそうだからな。


「その謝罪はどういう意味かな?」

「それは⋯⋯お肉とお魚を食べてしまったことと⋯⋯」


 女の子の言葉を聞き、マシロが俺の手から抜け出そうと暴れる。

 やはり抱っこしておいて正解だったな。


「ベッドで寝てしまったことです」


 女の子は謝罪してきたけど、何だか腑に落ちない。そもそもどうやって部屋に入ったのか。部屋には鍵がかけられているから、入ることは出来ないはず。そしてさっきも思ったが、何故ベッドで寝ていたか。食い逃げするつもりなら、ベッドで寝ているのはどう考えてもおかしい。

 それに気のせいかもしれないが、言葉遣いもそうだけど、何だか所作の一つ一つに気品を感じるのは気のせいか?


 船長に突き出すにしても理由は聞いておきたいな。


「お腹が減っていて、満腹になったから眠くなってベッドで寝てしまったということかな?」

「お腹が空いていたというのは事実ですが、全ては女神様の御心のままに」

「えっ?」


 なんか宗教染みたことを言ってきたな。もしかしてこの子は信仰者なのか?


「それはどういう意味なのかな?」

「女神様が夢で教えて下さったのです。夜中に船に乗船し、この部屋のクローゼットに隠れ、魚と肉が提供されたら食し、ベッドで寝れば救われると」


 え~と⋯⋯女神様が夢で? 何だかとんでもないことを言ってきたな。これが本当ならすごいことだけど。


 ん?


 マシロが俺の手を軽く引っ掻いてきた。

 そして視線を向けるとジェスチャーで、リビングに連れていけと言ってきた。


「ごめん。ちょっとここで待っててもらってもいいかな?」

「わかりました」


 俺はマシロを抱っこしたまま、ノアを引き連れてリビングへと向かう。

 そしてリビングに到着するとマシロが小声で話しかけてきた。


「あの女、ヤバイです。現実と夢が区別出来ていないのでは? 私はすぐに断罪すべきだと思います」


 確かに女神様が夢で神託をくれたなどおかしな話だ。だけど日本からきた俺にとってこの世界は、魔法があったり魔物がいたりと常識外なことばかりだ。だから神託を聞く能力があっても、不思議ではないと少し思っている。


「本当のことかも知れないですよ。女神様の声を聞くことが出来るなんてすごいなあ」


 マシロとは逆にノアは女の子の能力を信じているようだ。


「あなたはバカですか。そんなことでは悪徳業者に騙されて新鮮ではない魚を買わされてしまいますよ」

「でもあの方が嘘を言っているようには見えません。ノアさんにはどう見えますか?」

「そ、それは⋯⋯」


 どうやらマシロの印象でも、あの女の子は嘘を言ってないように見えるようだ。


「このような時にセレスティア様がいらっしゃれば真実を見抜いて下さるのに」

「そうですね。セレスティア様には相手の真実を見極める能力がありますから」

「それなら俺も出来るぞ」

「「えっ!」」


 突然二人が大声で驚いた声を上げる。隣の部屋にいる女の子に聞こえてしまうぞ。


「セレスティア様みたいに全てとは言えないけど、相手の能力とか称号くらいなら」

「ふふ⋯⋯う、嘘はダメですよ。セレスティア様と同じ力があるなんて」

「でもユートさんは神聖魔法が使えます。本当のことでは⋯⋯」

「とりあえず確認して見るよ」

「そうですね。ですが安心して下さい。出来なくても笑ったりしませんから。出来なくて当たり前なんです」


 マシロは疑り深いなあ。でも何もわからない可能性もあるからな。

 俺達は再び女の子がいる寝室へと戻る。


「今誰かとお話をされていましたか? 声が聞こえたので」

「いや、隣の部屋の人かなあ⋯⋯たぶん」


 やはりさっきの声は聞こえていたか。二人とも迂闊に声を出さないでもらいたい。

 とにかくまずはこの女の子を見てみるか。


真実の目ヴァールハイト


 俺はスキルを口にすると立体映像が目に映り、女の子の能力の詳細が見えてきた。

 だけどこれは⋯⋯


「えっ!」


 俺は女の子の能力を視て、思わず驚きの声を上げてしまうのであった。

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