第14話 クリスマス
文化祭が来週に迫っている。
クラスではEIXTと看板に書いたり、バニーちゃんを作ったりと大変だ。しかし今いるのは教室ではなくボロボロの部活棟。
「ブロッコリー先輩、ヘッドホン先輩、遅れましたー。あ、居候先輩こんにちは」
「大丈夫ー。今ポスター作ってて、ヘッドホンが下書きしたからみんなで塗ってく。二枚同じデザインなのになんでコピーしちゃダメなんだろね生徒会はクソ」
皆さんお馴染みの文芸部である。
「俺の靴さ、去年の秋ぐらいからずっとお母さんのなんだよね」
わけのわからないことを言い始めたのは居候の元祖、居候先輩。
「どういうことだよ」
ブロッコリー先輩は交通研究部(文芸部のスペシャルアドバイザー(部員ではない)がいる)から借りたカピカピの絵の具を捻り出しながら聞いた。
「去年の秋のある朝のことだよ。
遅刻しそうで焦ってたら靴間違えてお母さんの履いてきちゃって。途中で気づいたんだけど、なんかこれちょうどよくね?ってなってそのまま履いてる」
説明されてもわけわからん。
「お母さん困っただろそれ」
「靴ないって困ってた」
お母さん!!犯人は居候の息子さんです!!
ていうかこの人は居候なのに、なんで当たり前のように手伝っているんだろう。
ヘッドホン先輩がいつにもまして静かだ。
うん。静かとかいうレベルじゃない。
部室の奥で膝を抱えて、ヘッドホンをつけて、存在を最小にしている。もはや目立ってる。
「あの…あれどうしたんですか?」
さすがの私も心配する。寝てるのか?疲れたのか?具合悪いのか?落ち込んでるのか?
「あー、俺ヘッドホンの起こし方知ってるからちょっとやってくるわ」
居候先輩はそう言うとスマホを持ってヘッドホン先輩に近づいた。
いや、起こしたいわけじゃないんだが。
「おいヘッドホン起きろ」
居候先輩は左手でヘッドホン先輩のヘッドホンをとり、右手で星野源の『恋』を大音量で流した。
ヘッドホン先輩は何が起きたのか理解できずに膝を抱えたまま、頭だけ上げて周りを見渡した。そして居候先輩の姿を捉えると、いや、流れている曲が『恋』だと気づくと、無言で居候先輩の手からスマホを奪い取ろうとした。それは今までに見たことのないほど俊敏な動きだった。爆笑しながらかわされていたが。
数秒間の格闘の後、居候先輩が折れて『恋』を止めた。
「そんなやなの?」
この日の準備には、文化祭で文芸部と一緒に部誌を販売する漫画ファンクラブの美少女先輩二人もいた。
なんで漫画ファンクラブじゃなくて交通研究部の方が絵の具持ってんだろ。
「ヘッドホンにはちょっと刺激が強かったか」
「いや別に刺激とかじゃないし」
ムカつく、と書いてある、前髪で見えないはずのおでこが見えた。
「とにかくおはよう」
「寝てねーし。自分の世界に入ってた」
いや、そっちの方が謎なんだが。
近くで同じく文化祭に向けて準備をしているであろう一年生集団がレミオロメンの『3月9日』を歌い出して、青春感をぶち上げてきた。
ので、我々は坂本龍一の『戦場のメリークリスマス』を流して対抗した。
「クリスマスってなんなんでしょう。
あれキリスト教のイベントですよね。カップルがいちゃいちゃする日じゃないんですよ。なんで日本にあるんですか。消えればいいのに」
しばらくして可愛いリボンのついたスカートを履いたテディが可愛い声で捲し立てた。
「ツリー見てるカップルとか本当にムカつくじゃないですか。消えればいいのに」
リア充撲滅強行派。
「外に出なければいいんだよ」
隣のクラスのジャージちゃんが隣で切なすぎることを呟いた。
「クリスマスぐらい外に出ようよ!!悲しいよ!!」
私が思わずつっこむと、ジャージちゃんは慣れているという風にこう答えた。
「クリスマスと思わなければいいんだよ」
見習いますわ…。
そんなことを話しているうちに、気がつけば一年生集団は歌うのをやめていた。
また一つ青春をねじ伏せた。
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