第10話 ベクトル

「東京から日本を引いてイギリスを足したら何になるでしょうか」

文芸部部長、ブロッコリー先輩によるクイズタイム。

「はいっ!!」

私は、真っ先に手を上げた。

「どうぞっ」

「ロンドンです」

「正解っ!!」

「えなんで?」

ヘッドホン先輩、居候先輩、ピンク先輩は、頭上に?マークを浮かべている。

「東京=日本の首都なので、そこから“日本”を引くと“首都”が残ります。そこに“イギリス”を足す=ロンドンとなるわけです」

私が胸を張って説明する。

「東京とイギリスって単語近いじゃん?共通点と相違点みたいなのをどうやらグラフに書けるらしいんだよベクトルってのは。超面白くね?」

「こゆこと?」

居候先輩は、ヘッドホン先輩から奪ったiPadのメモ機能に式とグラフを書いた。

「そうそうそう、知らんけど」

「でも俺やっぱ納得いかないな。だって今の例えだといくらでも要素を細分化できそう」

「ですよね。なぞなぞだからすぐ答えましたけど、真剣に考えるとモヤモヤします」

ピンク先輩の抗議に私は頷いた。

「他の例は何かないの?」

「うーん例えばそこの扇風機にドラムを足したら洗濯機になるってことじゃない?」

ブロッコリー先輩は、冷房がない部室に、心なしかの涼しさを贈ってくれるおんぼろ扇風機を指さした。

「それは意味の話じゃなくて機能の話になったような?」

ヘッドホン先輩は首をひねる。

「ていうかそれなら扇風機から風を送るという要素を引かないと」

私は口を挿む。

「やっぱどこまでも細分化できるだろこれ〜」

ピンク先輩は抗議する。


というような知的好奇心が刺激される議論を、夜の7時ぐらいまでやり、その日の文芸部の活動は終了した。


ちなみにブロッコリー先輩は将棋をしながら、ヘッドホン先輩は韓国語を勉強しながら、居候先輩は数学の問題を解きながら、ピンク先輩はデュエマしながら、私は麻雀をしながら参加していた。

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