風光る
家猫のノラ
第0話 振り振られ
大雨の降る日、私の中学校生活は幕を閉じた。
合唱の指揮は友だちのクズ。何かを振る作業はどうやら手馴れているらしい。
上履きが、仕舞えなかった。
小学校の時は毎週末持って帰っていたのに、なぜか中学生になってからは長期休み前しか持って帰らなかった上履き。
そんな汚物を受け止めていた下駄箱はもうない。
また明日、上履きを取り出すことはない。
あ、私卒業するんだ。
自覚するのが遅すぎたかもしれない。
小学校からの幼馴染が告白されていた。
お、フらない。卒業式、傘の下でカップル誕生。
「じゃあな」
アルバムに寄せ書きをしてもらった後、校門の前でいつものようにクズが手を振った。
家が真逆の方向だから、毎回校門の前で手を振ってきた。
修学旅行で会長とケンカして仲直りできずにモヤモヤした後も、部活で校長先生に直談判してボロボロになった後も、委員会で揉めて何も決まらなくてイライラした後も。
どんな時も、君は一歩遠いところにいた。
人は冷たいと言うかもしれない。
だけど私はそれがすごく心地よかったんだ。
そしてどんなに全てに躓いていても、最後にはいつも「じゃあな」と手を振る。
私はいつも余裕がなくて雑に返していた。
土砂降りの卒業式。
視界の端に映る看板がどんどんぼやけていく。
「もう手ぇ振れないじゃん、ばいばいできないじゃん」
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