未来視によって起きる事
探究者
願いは曖昧ゆえにこそ、希望は微かなる道に見出される
「未来を見たい?やめとけやめとけ、そんなに良い物でも便利な物でもないぞ」
彼はギシリと木製の頑丈そうな古い椅子へ座り直し、こちらを見て来る。
「あ〜......ギャンブルで稼ぎたい、ね?危機回避の面でも見たい、ってそれは[高度な予測]の類いだな」
バサリと何らかの積み上がった書類を机から手で押し退け落とす、コップを置き飲み物をいれてる様だ。
「何が違うか?ってのはアレだ、[未来を観測したか、してないか]で決まる」
グビグビと呑んで、一息ついてから語り始めた。
「何だって良い、予測は予測だ。最も可能性が高い現象を過去や現在から推測して出した答えが未来予測」
「ほんでもって未来を見る、未来観測だな?それは可能だ。方法はどれでも良い、ラプラスの悪魔......原子の動きを1つ[予想や確率ではなく]完全に現在位置を観測出来るような技術で解明すれば芋ずる式に他も分かるはずだ」
「世界の構造式だな。ここまで分かれば[確率]が消える、もしもが無くなる訳だ」
「それによって起こる事象は[未来の確定化]だ、ここまでするのは世界が始まった時から決まっていたと確定付けてしまう可能性の1本化」
「もちろん何だって良い、それが[オカルト]や[超能力]であっても[未来が確定するなら予測では無く観測]になる」
「未来を変える?いや[それは不可能]だ、[変わった時点で観測では無く予測の域を出てない]、見えてしまう未来は変えられないのだ」
「ギャンブルで未来を見て、当たりを知っても[自分が負けていた場合]何をやってもその通りの未来になる、B-1と書けばいいと頭で分かっても[体が勝手]にR-2と書いていたみたいにね」
「自分が事故に遭う未来を変えようと[どれほど頑張っても]無意識にその通りとなる」
「だから便利なんて良い物じゃない。更に言えば[見ない方が行動に制限が掛からなかった]筈であり、グッと枝分かれして居た可能性が狭まる」
「こうした方が良いって奴だな。卵が先か鶏が先か、未来を観測するとはソレが未来になると言う事」
「もし隕石で人類が滅ぶ未来なんて見てみろ、変えられない滅びが確定するんだぞ?」
「なに?それは見ても見なくても同じじゃないか?それは違うぞ、今のところ原子雲として確率を求めて予想されている高速で小さく見えない物、だからこそ妄想や予想の域を出ない。その域を出なければ世界は回り続ける」
「なぜか、って?それは時間の概念を語らなきゃいけないから長くなるけど......端的に言えば、未来があるからこそ時間は進むって訳だ」
「先が無い未来へ人類は進まない、正確にはお前自身の話しではあるんだが......ザックリ言えば[行き止まりはそれ切り]なんだよ」
「[考えるだけ無駄]って奴だ。死んだらそれ切り、だが[生きている限り動ける]」
「[動けるとは選択出来る]って事だ、[それがどの様な物であれ]可能性は分岐する」
「その可能性を消滅させるのが[未来視]だ、きっと何とかなる希望を消し去る、未来を観測した時点でやる事が決まりその生に意味は無くなる」
「未来が見えないからこそ人々は価値を見出すのだ、明日滅びるなら財産など要らなくなるだろ?」
「そして未来が分かってしまうから[抵抗すらしなくなる]、[本当は別の動きをすれば生き残るとしても観測出来なくなる]典型的な未来観測依存だな」
「今まで多くの滅びの危機があったものの、分からないからこそ必死に生き延びて来た。ただそれだけの話し」
再び飲み物を呑み、一心地ついている。
「まあ......決定から逃れられる裏技みたいな物はあるにはあるけど」
「...未来観測した結果を誤魔化してしまえば[確定から逃れられる]可能性はある、雑な話し実は映画の内容や撮影セットでした〜なんて落ちを作れば行けないことも無いでしょう、たぶん」
彼は急に立ち上がり、バスケットの中から包装されたサンドイッチを取り出して元の位置に座り直す。スッと包装を裂いて食べ始めた。
「ムッムッ......私はねえ、少々怖いのだよ」
指を一本立てフラフラさせながら話し出す。
「[これ以上暴いていったらどうなる?]ってね?世界を知ろうとするのは結構だが、知らない方が良い事もあるのが世の中だ。[暴いた挙句の果て後悔するんじゃないか?]とかそう思うよ」
下手をすれば、未来観測とは人類の可能性を狭めるかも知れないのだから。
彼はそう語った。
未来視によって起きる事 探究者 @cca-tankyusya
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