魔法の薬
蒼天庭球
第1話 怪我を治すゴムバンド
「腰やったんだよねー」
学校に来て早々、首元の磁気ネックレスを日の光に反射させながら
「え、ガチ?やばいやん。バレー部の大会今週末じゃないっけ?」
大きめのリアクションで、でも迷惑にならない
程度のボリュームで話す。
「え、そう、だからさあー。またサポーター生活だよ」
「えー、オソロオソロ。うちも今日の体育は膝サポーター」
「部活やってないのに?」
「古傷古傷。中3の時のやつが響いてんの。マジだるい」
どんなことを言われても笑顔を崩さないで。
「ヤバすぎ。病院行きなよー」
「やだよ。病院きらーい。めんどくない?あれ。2時間待って診察5分とか。ほぼ夢の国だよ」
顔は笑顔で、なるべく高めのテンションで。
「え、それな。まじ病院とか行かなくてもなんでも治る道具欲しいわー。なんかそんなの持ってない?
「えー、何それ。うちはそこまで高性能じゃありませーん」
否定に聞こえないように、笑いに変えられそうな言葉で。
「え?ガチかー。ガチでやばいって。せっかくレギュラーなったのにー。あれ?でも、瑠璃香先週の傷もう治ってね?結構ヤバめのすり傷じゃなかった?」
ついにバレたか。隠し事はダメだって知ってたはずなのになあ。
「あ、気づいちゃった?治り早めなんよ。てか、トイレ行こ」
「あ、良いよ良いよー。日焼け止め塗りたかったし」
のってくれて助かった。気分悪くしてなくて良かった。
「1時間目から体育とかちょーハードじゃね?疲れるんだが」
「いやいや、しゃーないて。てか、日焼け止めって今日外?」
「外外。もう腰サポーターしたまま
今がチャンスかも。
「そんな麻弓ちゃんに朗報でーす。ジャジャーン。こちら魔法の道具『なんでも治る傷薬Lv.4普通のゴムに見えるブレスレットver.』でーす」
誰もいないよね?大丈夫だよね?手洗い場でキョロキョロ辺りを見渡す。
「えー、何それ。てか持ってんじゃん。なんでさっき言わなかったのさ。さっすがるりえもん。え、欲しい欲しい」
「もう、ごめんごめん。みんなに欲しがられても困るやん。あと1個しかないんだよね。だからそれあげるわ」
「え、ガチ神やん。え、効果的には?」
「えっとね、レベルは1から4までの4段階。これは1番強いやつ。どんな傷でも治せるって書いてるよ。塗り薬とか絆創膏みたいなのもあるし、タトゥーシールみたいなやつもある。まあ、これが1番学校で目立たなそうじゃん、と思ってこれにした。1週間以内の傷ならすぐ治るってさ。それ以外のに関しては、期間によって変わるって。1ヶ月前までは1週間、1年前なら1ヶ月」
わかりやすいようにゆっくりと、でも遅すぎないように。
「へー、エグ。え、じゃあつけたらすぐ治るやん。瑠璃香は2ヶ月つければ治るん?」
「そーそー。先月からつけてるからもうすぐサポーターさんともお別れ。夏前に治って良かったわ。サポーターのとこだけ色変わるもん」
嘘だよ。ほんとは2年前からつけてる。
「あー、それは嫌やわ。今日は長ズボンなん?てか、これいくら?払うで」
「いらん、いらん。誕プレ誕プレ。去年のあげてなかったし。ズボンかあ。今日の内容次第だなあ。今日なんだっけ?」
「テニスだってさ」
「え、テニス?なら長ズボンだな。元テニス部の実力見せてやる!ん、もう日焼け止め塗り終わったん?早ない?あ、日焼け止め塗ってトイレ行ってから行くから先行っといて」
「了解。ジャージ準備しとくね」
「ガチ助かる!ありがと」
麻弓は出て行った。
途端に肩に力が入っていくのがわかる。呼吸も浅く速くなる。シャトルランの前くらい心臓がバクバク音をたてている。膝が急に痛み出す。
思わず、手首をゴムごと握りしめる。
大丈夫、落ち着いて。深呼吸。自分の身体に集中しないと。足は地面についてる。大丈夫、大丈夫。SHR《ショートホームルーム》まであと5分。それまでになんとか──。
「瑠璃香!出欠体育でとるからSHRなしでいいってよ!行こ!」
扉を開けて麻弓が叫ぶ。
「おっけおっけ。手洗ったら行く」
鏡の前の自分をみる。怖いくらい綺麗に笑う自分の顔を。
大丈夫、いつも通り笑えてる。
楽しそうにできてる。
膝の怪我だってもう治ってる。
でも
まだ、心の傷は治ってない。
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