第2話 夜明け前の会議室

「おめでとうございます、あなたは自由です」


 自由の鐘を打ち鳴らし、この言葉が頭の中に降りてくる。そしてそれと全く同じタイミングで私に聞こえたもう一つの言葉。


「自由の鎖に繋がれている間、あなたは自由です」


 ハッと目を覚ますとそこはいつもの自分の部屋だった。


 言葉というのはもちろん人が作ったもので自然の物ではないのだけれど、どうしてもそこには力というかなんというか・・・パワーが密やかに隠れているような気がしてならない。


「明日、雨が降らなきゃいいな」


 といえば明日雨が降り、せっかくの遠足が中止になってつまらない授業が開かれる。


「明日、雨降ってくれないかな」


 と言えばカラリと晴れて、行きたくないマラソン大会が開催される。


 何ていうことをよく聞くことが有ると思うし、実体験をしたことが有る人もいるかもしれない。けれど現代科学的に言えば、こんなのは迷信で世迷言。そんなことはあるわけない。偶然そうなったとかそういう感じの反論になる。


 子供の頃、漢字に興味があった。その中でも一番惹かれたのは「漢字の作り方が気になる」だった。だから私は漢字検定とかそういう勉強的な方面ではなく、大人達には一切ほめられたことのない「漢字の成り立ち」とかを気になると調べたりしていた。


 象形文字(しょうけいもじ)というのを聞いたことが有るかもしれない。簡単に言えば物の形をそのまま字にしたやつ。例えば山とか川とか。見たままを表したやつ。指示文字(しじもじ)というのもある。これは形が無いもの例えば上、下とかそういうの。


 これ以外にも当然、○○文字のようなものが存在するのだけれど、そこら辺はまあ専門家に任せるとして。とりあえず漢字に限らずとも文字には必ず「素になっている物」が存在する。多分、似たようなもので星座とかもそうでみずがめ座とかしし座とか。星を点にして線で結んで「これ、どう見える?」みたいなやつに近いのかもしれない。


 かなり話が変わってしまうのだけれど、何をして生きていこうか?という漠然とした疑問にぶつかることがある。ぶつかるタイミングは様々だと思う。やりたくもない受験勉強をしている時とか、働きたくも無いのに就職活動をしている時とか。


「なんで、今こんなことしてるんだろう」


 と感じるときに思うことが多いのかもしれない。しかも決まって苦しい時。みんなでワイワイ何かをやっている時には一切感じないのに苦しい時に限って「なんでこんなことしてるんだ?」っていう感情が出てくる。


 でも、その感情は嘘じゃなくて本当の事だから仕方がない。


 やりたくないこととか、うわーこれ面倒だなーとか。人によってマチマチだけどそういう風に思う物事が絶対に有ると思う。そういう物事にぶつかった時、大人たちに相談数ると大抵の場合はそこから「逃げてはいけない」と口を揃えて言う。けれど実は「逃げてはいけない理由」をしっかり説明できる人はあんまりいない。だから本当に嫌なことからは逃げてもいいんじゃないのか。と私は思っていた。


 まあ、そんな話は置いておいて。自分が何をしたらいいのか?という答えに付いて言えば「そんなの知らん、自分で考えろ」というのが答えになる。


 だから私はその言葉に甘えて「自分で考えた」ことをやろうと思うわけです。


 言葉に引っ掛かりを感じる。言葉にざらつきを感じる。頭の中とか心の中に引っかかってそのままくっついている状態が続く感覚が私の中には子供の頃からあった。


その言葉は「自由」(じゆう)と「由来」(ゆらい)だった。


 自由は何となくわかるかもしれない。英語で言うとFreedomとかlibertyとか。だし、よく言う「自由な発想」とか「自由な生き方」とか。そういうのをテレビのCMとか先生から言われたことが有ると思う。


 美術とか図工の時間に「ここから先は自由時間にしますので、自分の描きたいものを自由に描いてください」とかそういう感じ。


 もう片方の「由来」というのは「いわれ」とか「来歴」とかそんな感じの意味で、何かがある時、そこには絶対に前がある。つまり歴史があるということ。これを読んでいる人にも、書いている私にも由来がある。どこで生まれたのかとか。そういうの。


 この2つの言葉の引っ掛かりは子供の時凄く大きかったのだけれど、大人になるにつれて薄れていった。それは多分、周りがそうしたのかもしれないし自分がそうやって気にしなくなったのかもしれない。


 子供は暗闇を怖がる。けれどある程度年を重ねると部屋の電気を全部消して眠れるようになる。だんだんと見えていたものが見えなくなっていくようなそんな感じなのかもしれない。


 それを忘れかけていた時、ある研究室から声がかかる。


「それ、忘れちゃだめだよ。あんたの会議室、もっと整えよう」


 手を描けるとそこにはドアがあった。

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