第5話 演習後半戦2

琥珀の母の名は翡翠といって琥珀と同じ戦術オートマタであった。

翡翠は琥珀とは違って最新式の重火器を扱い、あらゆる戦場で活躍した日本でも屈指の実力者だった。

やがて翡翠は日本の三大名家である毛利に嫁いだ。

毛利家は名家の中でも群を抜いて、戦力に秀でており完全な実力社会である。

そんな家に生まれた琥珀は、最強であった翡翠の子というのもあり、周囲から大いに期待されていた。


翡翠「この子はこの国に幸福をもたらすわ」

翡翠「今日からあなたは琥珀よ」


翡翠は国のために戦い、国民に幸福を届ける存在として琥珀と名付けた。

だが琥珀が実際に扱えた武装は刀と弓といった武装の中ではとっくに廃れたものであり、毛利家の人間は手のひらを反すように琥珀に冷たく接した。

ショックを受けた琥珀は母である翡翠に助けを求めるが、翡翠から帰ってきた言葉は辛辣なものであった。


翡翠「触らないで、欠陥品」


それ以来琥珀は心を閉ざし、離れにあった別邸で一人寂しく過ごしていた。

そして6歳の時、祖母である毛利カエが別邸に訪ねてきた。

カエは孤独であった琥珀に優しく接し、人の喜びを教えたのである。

それから学園に入学し、天也と出会ったと琥珀は真奈に伝えた。


真奈「そんな過去をお持ちだったんですね」

琥珀「わしは実家と同じようにこの学園でも問題児じゃった」

琥珀「天也はそんなわしと、共にいようと言ってくれたのじゃ」

琥珀「あ!今の話は天也には内緒じゃぞ?」

琥珀「あやつにはこれ以上、心配事を増やしたくないからのう」

真奈「わかりました」


するといつの間にか後ろで聞いていた3人が泣いていた。


美穂「そんなつらい経験をしたのですねぇ・・・えぐえぐ」

あかり「琥珀さんつらい時は私が慰めますから・・・う、うぐ」

美紀「帰ったらお菓子あげるね・・・ひぐ」


琥珀「おぬしら勝手に盗み聞きしよって・・・」

真奈「まぁまぁ琥珀さん、いいじゃないですか」

真奈「ここにいる人たちは、この演習を通じて仲良くなれました」

真奈「これはもうお友達と言っても過言ではないです!」

琥珀「そうか・・・」

真奈「これからも仲良くしてくださいね」

琥珀「分かったのじゃ・・・」


その後琥珀以外の少女たちは、疲労が蓄積していたのもあって、ぐっすりと眠ってしまった。

一方その頃、美結と桜は森の中で迷子になっていた。


美結「ここ何処よ」


桜は息を切らしながら美結の問いに答えた。


桜「完全に迷ってしまいましたね」

美結「雄斗達は独断で先に行っちゃうし、もう散々だわ!」

桜「一度引き返そうにも、ここがどこだかわからないんですよ」


美結たちは昼間から迷い続けていたのもあり、その間歩きっぱなしであった。

桜は明らかに体調が悪くなっておりこのままでは途中で力尽きてしまうだろう。

その時近くの茂みから音が聞こえた。


美結「誰!?」


茂みをよく見ると、茂みの上に大きな黒い影が見えている。

やがてその影が月明かりに照らされると、影の正体が判明した。


美結「なんでこんなところに熊が・・・」


熊の正体は前長2Mにも及ぶ巨体を持っているツキノワグマであり、美結と桜のことを今にも襲い掛かろうとしていた。

美結は恐怖のあまりその場にへたり込み、身動き一つ取れなかった。

すると近くから、男が叫ぶ声が聞こえた。


男「ふせて!」


その瞬間訓練用の銃の発砲音が響き渡り、熊は発砲音に驚いてその場から逃げていってしまった。

男は熊が逃げたのを確認すると、美結たちのもとに駆け寄ってきた。


男「けがはありませんか?」

美結「どなたかは存じませんが、助かりました」

美結「このお礼は後日・・・」


美結が男の顔を見上げると、そこにはこれまでさんざん見下してきた相手である天也の姿があった。


美結「なんでこんなところに天也が・・・」

天也「それこそこっちのセリフだよ」

天也「ここは指定範囲外の危険地帯だから、梶先生に頼まれて見回りをしてたんだ」

美結「でもあなたは一応生徒なのよね?」

天也「入学する前に取った猟銃を扱える免許とか持ってるから山にはくわしいんだよ」


天也の言う通り、天也の手には実弾の入った猟銃を持っていた。


美結「あなたここに来る前はどんな生活してたのよ」

天也「それは・・・もう思い出したくない」


天也はここに来る前の厳しい修行時代を思い出していた。

あまりの過酷さに今でもその時のトラウマが夢に出てくる。


美結「けどお礼は言うわ、その・・・ありがとう」

天也「どういたしまして」

美結「それと庶民なんて言ってバカにしてごめんなさい」

天也「僕はそこまで気にしてないけど、琥珀が一番傷ついているだろうからあとで謝ってくれると助かるよ」

美結「わかったわ」


ようやく二人のわだかまりは無くなったが、隣にいた桜が苦しみだした。


桜「あが!痛い・・・」

美結「桜!?大丈夫!?」


美結がおでこに手を当てると、信じられないほど熱くなっていた。


天也「体に限界が来たんだと思う、急いで運ぶから手伝って」

美結「わかったわ」


それから天也達の拠点に桜を運び込み、数時間ほど寝かせた。

その間美結がつきっきりで看病していたのもあり、桜の意識が戻る頃には体調がすっかり回復していた。


琥珀「人騒がせな連中じゃわい、なぁ天坊?」

天也「とりあえず無事でよかったよ」


美結は琥珀の姿を確認すると、頭を下げて謝罪した。


美結「琥珀さんあの時はごめんなさい」

美結「あの言葉はあなたにとって最悪な言葉だったと思うわ」

美結「私にできることがあれば償いをさせてほしいの」

琥珀「そうか、ではやってもらうとするかのう」


すると琥珀は美結を床の上で四つん這いににさせて、美結の背中に座った。

そして美結のお尻をバチン!と叩いた。


美結「ひぐぅ!!!」


その瞬間美結は痛みで体をのけぞらせてしまい、そのまま体勢を崩してしまった。


琥珀「これでは罰にならんじゃろう」

琥珀「ほれ、もう一度体勢を戻すのじゃ」


それから琥珀は何度も美結のお尻を叩いた。

ようやく終わる頃には、美結のお尻は赤くなっていた。


美結「ぐへぇ・・・」

天也「なぁこれ、まずいんじゃないのか?」

天也「琥珀があまりにも叩きすぎて美結の様子がおかしくなった気がするんだが」

琥珀「すまん天坊、途中から楽しくなってしもうた」


この日琥珀の行動によって、美結が何かに目覚めてしまった。

それ以来琥珀は美結に付きまとわれるようになるのは別の話である。

ちなみに海斗と雄斗も後から合流した。

どうやら美結たちの姿が見えなくなってしまい、必死に探していたそうだ。

この日Cグループはようやく一つにまとまることが出来た。












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