軍を首になったのでオートマタの少女達を集めて派遣会社を経営します。

りくりく

過去編

第1話 天也という男

黒木天也くろきてんやはもともと日本の三大名家の子供として生まれた。

その家の名前は天野家あまのけであり、主にオートマタの武装を製造する事業を行い財を得ている。

だが天也は天野家の当主である天野五郎がメイドとの間に作った子供だったため、天野家の人たちには家族として受け入れられていなかった。

それでも母である美咲みさきは女手一つで天也を大切に育ててくれた。

だがある日、敵国である月家に雇われた暗殺者が屋敷に侵入し、当時天野家の継承候補第一位であった由良ゆらが襲われてしまった。

暗殺者はあと一歩のところまで由良を追い詰めたが、最後に美咲が由良を庇ったことで暗殺は失敗に終わってしまった。


ーーーーーーーーーーーー


8年前・・・


天也は母親である美咲が運び込まれた手術室の外で椅子に座って待っていた。

すでに4時間以上の時間が経過しており、その間天也はなんども母の回復を祈っていた。

天也の隣には由良の姿もあり、天也をやさしくなで続けている。


天也「由良様、母は大丈夫なのでしょうか?」


天也の声はすこし怯えており、その恐怖の対象は自分であると由良は判断した。

天也にとって由良は血のつながりはあれど汚れた自分とは違って、天上に生きる人間という認識を持っており、軽々しく口を利いていいのかわからない存在だった。


由良「大丈夫ですよ、美咲さんはあなたを置いていったりはしない人です」


それからさらに数時間が経過し、ようやく医者が手術室から出てきた。

すぐさま由良は医者の元に駆け寄った。


由良「美咲さんの容体はどうでしょうか?」

医者「ご家族の方ですね、状況を説明しますのでついてきてください」


医者に言われるがまま部屋に案内されると、部屋の中には体を検査するモニターや機材が置かれている。

医者はホワイトボードを由良の目の前に持っていき、美咲の状態について説明し始めた。


医者「美咲さんは下腹部に3発、腕に1発、そして頭に1発の弾丸を受けています」

医者「幸い致命的な損傷を受けなかったので命に別状は無いのですが、問題は脳へのダメージです」


医者は脳の写真を見せると、確かに銃弾によって大脳の一部が欠けていた。


医者「この大脳を銃弾がかすった際、意識を司る脳幹がダメージを受けてしまい、美咲さんは現在昏睡状態になっています」

医者「脳は肝臓などの臓器とは違って、一度失えば再生することはありません」

医者「このままでは美咲さんはこの先何十年と眠り続ける可能性があります」

由良「そう、ですか・・・」


それを聞いて由良は暗い顔をしていた。

天也もそれを感じ取ったのか、うつ向きながら涙をこらえている。


医者「一応彼女を回復させる方法はあります」

由良「本当ですか!?」

医者「はい、ですがこの方法はあまりお勧めできません」

由良「それでも美咲さんは命の恩人なんです!どうにか助かる方法はないんですか!?」


由良が必死に医者に美咲を助ける方法を聞いていると突然医者は立ち上がり、近くの棚からある書類を持ってきた。

書類にはオートマタ計画という題名が書かれており、医者はその書類を開くと、あることが書かれたページを見せてきた。


医者「こちらは去年アメリカで実施されたとある実験について書かれたものです」


由良がその書類を手に取りしばらく読んでみると、そこには事故によって昏睡状態になってしまった資産家の娘をオートマタに改造し、再び日常生活を送れるようにするという実験について書かれていた。


医者「こちらにある通り美咲さんをオートマタとして改造することで、再び日常生活を送れるようにすることは出来ます」

医者「ですが、この実験でかかった費用は数十億にも上ります」

由良「そんなにかかるんですか!?」


医者は初めにオートマタの仕組みについて話し始めた。

オートマタは人工的に卵を受精させた後遺伝子を組み換えられた改造人間である。

内臓などは人間と酷似しているため、子供を作ることも可能だ。

またオートマタから生まれた人間はすでに遺伝子を組み替えられているため、必然的にその子供もオートマタの適性が高くなる。

実際に現在のオートマタは最初に作られたオートマタの卵をベースに作られており、今は3世代目のオートマタが多い。

基本的に次世代のオートマタほど性能が向上するが、脳が情報を素早く処理するために簡略化されるためできることが少なくなってしまう。

例として料理が出来るオートマタがいるとすると、そのオートマタは料理の腕はプロと遜色がないほど上達するが、掃除が大の苦手になってしまう。

これは使用できる武装にも適応され、ライフルを使えるオートマタはその他の重火器は不器用になってしまうのだ。

次に生身の人間をオートマタに改造する費用が高くなる原因は、卵から作られたオートマタと違って、生身の人間は遺伝子が複雑になっていることが挙げられる。

特に脳は簡略化されたオートマタと違って複製が非常に難しく、その分作成にコストがかかってしまうのだ。


医者「具体的に一般的なオートマタは一体につき数千万ほどの費用が掛かります」

医者「一方生身の人間をオートマタへ改造手術するには多くの科学者と大型の設備が必要なため、数十億という莫大な費用が掛かるんです」


そんな大金を動かせる人間は、この場にはいなかった。

天野家の資産をもってすれば可能ではあるが、美咲のような庶民のために数十億もの大金をだすはずがなかった。


天也「僕が兵士になって稼ぎます!」

由良「天也くん、それはさすがに無茶ですよ」

天也「でも兵士になって戦果を挙げれば、たくさん稼げるんでしょ?」


天也の言う通り、兵士となり戦果を挙げれば特別手当として国から多額の報奨金が支給される。

国で一番稼いでいる兵士の年収ともなるとその額は数億円に上ると天也は知っていた。

それから天也は病室を出ると、由良にあることを頼み込んだ。


天也「由良様、僕が兵士になれるように手配してくれませんか?」

由良「兵士ですか・・・」

天也「はい、母が昏睡状態の今、天野家に僕の居場所はありません」

天也「それならばどこかに養子として出した方が、天野家としても得だと思うのです」


天也の言う通り、今までは母の献身によって天也は屋敷に住むことを許されていた。

だが母のいない今、天也を天野家に置くメリットは無くなっている。

このままではどこかに養子に出されることは、天也も肌に感じていた。


天也「天野家の親戚には、兵士を育成している家があると聞きました」

由良「はい、代々優秀な兵士を輩出している黒木家ですね」

天也「できればその家に養子に出してほしいのです」


由良はしばらく考えた後、ある決断を出した。


由良「分かりました、それと天也くんの母親である美咲さんについては私が責任をもって預からせていただきます」

天也「本当ですか!?」

由良「はい、命を救っていただいたお礼としては程遠いですが、せめて入院費用は負担いたします」

天也「ありがとうございます!」


それから天也は由良の計らいによって無事に黒木家の養子となった。

黒木家には天也の他に8人の家族がいる。

黒木家当主、黒木善十郎くろきぜんじゅうろうとその妻である小雪こゆき

二人は60を超える老体にも関わらず、現役で戦場で戦っている兵士でもある。

そしてその子供である美由紀みゆきには婿養子の拓郎たくろうがいる。

この二人もまた優秀な兵士であり、現在は兵士の養成所で講師をしている。

美由紀たちには4人の子供がおり、である。

姉妹の中で最も戦闘能力の高い長女の咲、武装の開発に長けた次女の由利、勉学において神童と呼ばれた三女の愛理、最後に幼い赤子である四女の南である。

天也が黒木家を訪れた当初、4人の姉妹は初めて弟ができるとはしゃいでいた。

当主である善十郎も天也を歓迎しており、天也自身もはじめて姉弟が出来たことを喜んでいた。

黒木家では当主の善十郎や3人の姉妹の指導の下、天也はあらゆる能力を身に着けた。

それから天也が黒木家に訪れて早5年の月日が経ち、ようやく兵士の学校に通うことになった。










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