保健室の吸血鬼

天知ハルカ

前編

「なあ、あの席のやつ全然教室来ないだろ?」

「なんでも薄暗い保健室のベッドで

近付いた奴の血を吸って、被害者はもう何人も…」


あの他愛もない噂話を思い出す。

山本は擦りむけた腕に絆創膏を貼り

曲がって上手く貼れなかった事にため息をこぼした。


その正面のカーテンは風で優しくたなびき

ベッドの中の陽光がその中にいる人物を何だか神聖なものに仕立てる。


そこにいるのは、例の噂の「吸血鬼」だ…


くだらない、

山本は視線を他へ向ける。


と、ばさばさと本が落ちる音がしてハッとする。


ヤツのそばの床に教科書が散らばる。


自然とため息が出る。

落とした当の本人は小さく寝息をたてている。


色素の少ない髪、まつ毛は長く

カーテンで揺れる陽光が彼を照らすと

一層白く透けるような肌。白いカッターシャツ…


山本は落ちた本を拾った。

彼が落としたのだろうか?

彼のものだろうか?


ふっと右腕に温度が。



「けが?」


山本は息を呑む。

声のする方へ顔を向ける。


彼が、吸血鬼が、

山本の腕を掴んでいた。


つづく

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保健室の吸血鬼 天知ハルカ @amatiharuka

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