愛の連絡
天川裕司
愛の連絡
タイトル:(仮)愛の連絡
▼登場人物
●加古川 真守(かこがわ まもる):男性。20歳。大学生。
●鏡 静香(かがみ しずか):女性。20歳。大学生。真守の彼女。
●ニュースキャスター:女性。30代。一般的なイメージでOKです。
▼場所設定
●真守の家:都内にある一般的なアパートのイメージで。
●街中:喫茶店や工事現場付近の道路など一般的なイメージで。
NAは加古川 真守でよろしくお願いいたします。
(イントロ+メインシナリオ+解説:ト書き・記号含む=3827字)
イントロ〜
皆さんこんにちは。
皆さんはスマートフォンを持っていますか?
最近はパソコン1択に絞る傾向もあり、
スマートフォンを解約する人達も増えているようです。
今回はあるカップルに起きた悲惨かつ奇妙なお話。
メインシナリオ〜
ト書き〈喫茶店に真守が1人でいるイメージ〉
俺の名前は加古川 真守(かこがわ まもる)。
今年20歳(はたち)になる大学生。
俺には少し前に付き合った彼女がいる。
今年で交際2年目。
彼女の名前は鏡 静香(かがみ しずか)。
静香と俺は高校の頃から同級生で、
大学も同じ大学を2人で選び進学した。
俺達はこの頃から既に結婚を約束しており、
学業・プライベート共にとても充実していた。
俺は静香の事を心の底から愛しており、
静香も同じく俺の事を愛してくれていると思う。
とにかくそんな仲睦まじい俺達の関係が、
あの日を境に悲劇のどん底に落とされたのだ。
ト書き〈少し過去を振り返るイメージ〉
ト書き〈その喫茶店に2人でいる〉
真守「なぁ静香、今度2人でどっか行かねーか?ほらお前、前に水族館とか動物園に行ってみたいなんて言ってたじゃねぇか」
静香「ほんと?嬉しい♪じゃぁそうだねー、アクアリウムもいいけど動物園がいいかなぁー。私、動物大好きだし、ほら今度やってきたパンダのアンアンちゃんも見てみたいし♪」
真守「動物園かぁ、いいなぁ♪」
静香「あ、でも待って、プラネタリウムもいいかもね。ほらついこの前、神保町に出来たじゃない、あのプラネタリウム」
俺と静香はこんな感じで、
「次のデートでどこに行こうか♪」
なんてプランを立てていた。
(コーヒーを引っくり返す)
真守「あっ!」
静香「きゃっ」
俺はその時つい話に勢い余り、
身を乗り出した時に
テーブルの上のコーヒーを引っくり返してしまった。
そのコーヒーが静香の服にかかってしまったんだ。
真守「わ、悪い悪い!大丈夫か!?」
静香「うふ、大丈夫だよんこれくらい♪」
そのとき静香はブラウスもスカートも白一色で統一していたから、
コーヒーのシミはひどく目立った。
真守「ほんとごめん、お前その服、一張羅だったんだよな」
静香「だから大丈夫だって♪それより今度のデートはプラネタリウムで決定ね♪」
静香は全く気にせず、そんな感じで許してくれた。
それまでにもこんな事が一杯あったが、
全部こいつは許してくれる。
俺はどうもおっちょこちょいでいけない。
でもその度こいつは笑顔で許してくれて、
俺には勿体ないほど優しくて可愛い彼女だった。
ト書き〈5月12日、携帯電話解約〉
それから数日後、5月12日の昼過ぎ。
真守「ふぅ。どう切り詰めてもやっぱり金が無いなぁ」
俺はアパートで一人暮らし。
バイトを2つ掛け持ちしていたが、どちらも給料が安くて稼げない。
生活費だけで飛んで行き、貯金もほとんど出来ない状態だった。
真守「仕方ない、携帯電話、解約するか」
いろいろ切り詰めて判断した結果、
携帯料金が余分だ…と言う事に行き着き、
俺はこの日携帯電話を解約した。
静香との連絡はパソコンですればよい。
ウチにはWi-Fiが付いてるから、
Wi-Fi料金を払うだけで連絡のやり取りは出来る。
まぁWi-Fi料金を払う必要もあったから、
携帯電話を解約した、と言っても良い。
静香「あ、そうなんだ。わかった」
静香にもその事は伝えておいた。
でも携帯は解約してもいろいろ使い道はある。
YouTubeも見れるしLINEも出来るし、
Skypeもインストールすれば出来る。
メールもGmailを使えば出来るし、
携帯を解約したところでそれほど困る事は無い。
だから俺はその後も携帯を所有する事にし、
静香ともLINEやビデオ電話、
あるいはパソコンの電子メールで連絡のやり取りをする事にした。
ト書き〈事故〉
そんな感じで次のデートがプラネタリウムに決まり、
ほくほくした時間を過ごしながら、
次に静香に会えるのをマッタリ楽しみにしていた時だった。
真守「う、嘘だろ…」
静香が事故に遭って亡くなったのだ。
ある日の大学からの帰り。
工事現場付近を歩いていた静香の頭上に、
ビルの建設工事をしていた工員が誤って鉄板を落としてしまい、
それが静香を直撃し、凄惨な状態のまま亡くなったと言う。
俺はそれから静香の実家へ何度も行った。
本当に亡くなったのかどうかを確認する為に。
どうしても信じられなかった。
でもその静香の身に起きたニュースは、
テレビでも報道し始めた。
真守「嘘だ、嘘だ!」
静香が亡くなったのは本当だった。
静香の両親もずっと泣き伏せたまま…
「生前は静香が本当にお世話なりました」
そんな悲しい事を俺に何度か言った。
俺はもう抜け殻だった。
暫く大学へ行く事もせず、ずっとアパートに篭り、
テレビも見ない、新聞も雑誌も読まない…
そんな毎日が続いていった。
真守「静香…どうして…どうしてこんな感じで俺の元から去ってしまったんだ…俺これからどうしたら良いんだよ…お前が居なきゃ俺…もう何にも…」
何にもする気が起きなくなった。
ずっと部屋の床の上に寝転んでる俺。
5月の涼しい風が、少し開けた部屋の窓から入ってくる。
その風に吹かれてカレンダーがパラパラめくれる。
(自分の携帯を見ながら)
俺は寝転がりながら、
これまでの静香との軌跡を辿っていった。
静香と俺との思い出の中に返って行った訳だ。
真守「ハハ、そう言えばこんな事、言い合ってる時もあったなぁ」
今までのメールのやり取り。
静香といろんな場所へ行って撮ってきた写真。
とにかく俺は、静香との思い出になるものを
全て隈なく見て行った。
その時…
真守「ん、あれ?このメール…」
その時ふと気づいたが、携帯のメールの中に、
静香から新しく送られていたメールがあるのに気づいた。
(メール内容:静香のセリフの形で)
静香「この前の服に付いたコーヒーのシミ、全部きれいに落ちたからもう気にしないでね♪」
そのメールの着信日は5月12日(13時40分)。
おそらく事故で亡くなる直前に静香は送っていたんだろう。
真守「あいつ、こんな事まで…」
最後まで俺を気遣っていた静香。
俺はまた泣いた。
俺はふとまたテレビをつけた。
部屋の静寂に少し耐えられなかったからだ。
バラエティ番組や歌番組なんかをやっている。
CMでは今度できた新しいプラネタリウムの宣伝もしていた。
真守「プラネタリウム…もう行けなくなっちゃったか…」
いちどはテレビを消そうとしたが、
何となくつけっぱなしにしていた。
そして又、俺は静香との思い出に浸り続ける。
その時ふと俺の耳に、あのニュースの声が入ってきた。
キャスター「先日の午前11時頃、工事中のビルの上から鉄板が落下し、それが道を歩いていた女子大生を直撃し…」
解説〜
今回はラストを見れば、解る人にはすぐ解ったでしょうか。
今回の意味怖ヒントは、
「時間」と「携帯電話のアドレスに送られてきたメール」
です。
まず静香が事故に遭った日時を確認してみましょう。
ラストの場面でニュースキャスターが…
「先日の午前11時頃、工事中のビルの上から鉄板が落下し、それが道を歩いていた女子大生を直撃し…」
と伝えます。
この「午前11時頃」と言うのが
公式報道されている事からも分かるように
静香が事故に遭った正式な時間です。
ですが真守の携帯電話に入った静香のメールは、
どれもその事故が起きた時間のあとだという事が分かるでしょう。
真守が携帯電話を解約した日は5月12日の昼過ぎ。
その時に真守は自分が携帯電話を解約した事を静香に伝え、
静香からの返信を貰っています。
更に後半ラストの場面でも、
真守は静香との思い出を携帯電話の中に辿りながら、
その携帯電話のメールの中に静香から送られていた
新しいメールがあるのにも気づきました。
「携帯のメール」とある事から
これはLINEメールではありません。
はたまたGmailで送られてきたメールでもありません。
つまりここで、
2つの意味怖的展開があったと言う事です。
1つ目は解約した後にも関わらず、
その解約した携帯電話にメールが送られていたと言う事。
携帯電話を解約すれば、
その電話番号もメールアドレスも使う事は出来ません。
自分から発信する事も着信する事も出来ないのに関わらず、
その携帯のメールアドレスが普通に使われていた、
と言うところに意味怖的な恐怖があった訳です。
これが「携帯電話のアドレスに送られてきたメール」の恐怖です。
次に「時間」の恐怖。
これはもう先に解説した通り、
またストーリーを見る限りすぐに解る事でしょうか。
あんな凄惨な事故に遭った直後の静香が、
どうしてメールを送る事が出来たのかと言う事。
つまりは真守を思う上で愛した静香の霊魂が、
現代機器である電子メールを使いその思いを伝えた…
そう考えれば解約後の使える筈のない
携帯アドレスにメールが送られてきた事、
また時間をさかのぼって不可能な状況で
連絡がなされた事も、
自ずと納得できるものになるでしょう。
逆に考えれば…いや少し見方を変えてみるだけで、
これは生と死とを超えた人間の愛がなせるもの、
愛する者同士がなせる超常現象…
そのようにも見て取れるでしょうか。
もし真守がこの事に気づき、
その後もこの愛による超常現象を利用して
更に静香との連絡交換を楽しもうと
その術(すべ)を覚える事が出来れば、
「死に分かたれた2人の愛が現実を超えて勝利を手にした…」
そう信じる事が出来るかも知れません。
現代はAI技術が発達し、
誰かのコピー人間が存在してしまうそんな世の中。
AIの力がそんな愛の力を宿すようになれば、
現実的にも愛する人の生き写しをそのAIロボットに見る事が出来、
死による悲しみは無くなるのかも知れませんね。
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=DPfYuWPIqcc
愛の連絡 天川裕司 @tenkawayuji
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