第3話 前略 覚醒しました
目を開く。映るは敵。湧き上がる全能感に身を任せ、俺はチカラを振るった。体から立ち昇る蒼い粒子が更に勢いを増し、引き伸ばされた時間の中、俺は鬼を殴り飛ばした。きらーん、と吹っ飛ぶ鬼。マンガみたいだなぁ(小並感)。やがて意識が戻って来ると口の中に違和感を感じて軽くえずく。
「契約者!?」
「ぷっ、ぺっ、あーお狐様?俺、多分覚醒?したっぽい……?」
おそらくはそうだろう。ペタペタとお腹を触る。先程抉られたはずの体はいつのまにか傷一つ無くなっている。極め付けはこのチカラ。さっき鬼から漏れ出ていた霊力(?)と似たエネルギーのようだ。口から垂れている血を拭う。自身の意のままに動く蒼い粒子に少々の薄気味悪さを感じているとお狐様は大きく息を吐いた。
「そ、そのようじゃの、あーもー死んだかと思ったぞ」
「悪い、心配かけた。……そうだ。3人は?」
「ん、とな」
ちょいちょいと微妙な顔をしたお狐様が示す方を向くと俺と同じように腹に風穴を開けたらしく、その部分の布が無いヒカル、首を落とされたらしく、周囲にスプリンクラーした痕がある神崎さんと花舞さんが、さらにはその全員が蒼い粒子を纏い、傷一つ無い姿で座り込み、困惑していた。
「全員な、覚醒したらしいのじゃ」
ビリビリと感じる圧力に、一歩後ずさると同時にお狐様の微妙な表情にも納得がいった。なるほどな?まあ何はともあれ、無事で良かったと言うべきなのだろう。
◇◇◇
結局、鬼には逃げられてしまった。鬼の痕跡は綺麗さっぱり無くなってしまったので追いかける手段は無い。俺が吹っ飛ばしたせいですね完全に。最後の一撃はかなり手応えがあったからしばらく動けなかったり……するといいなぁ。また狙われる可能性もあるわけだし。そろそろ陽も昇りそうだったので俺たちは各々帰宅した。ちなみにお狐様は俺についてきた。
数時間後、眠い目を擦り、俺は何とか学校に登校していた。もちろんお狐様も一緒。大人しくモンボ(紙)に戻りゃいいのに。覚醒とやらで会得した霊力(?)を
「おはよ、裕太、お狐様も」
「おはようさん、ヒカル」
「おはようじゃな」
「ちゃんと来たんだね。休んでもバチは当たらないと思うけど」
「こっちの都合だしな。まあすごく眠いけど」
「僕も」
ふわぁ、と同時に欠伸をしてくつくつと笑う。なんというか日常に戻って来た感がある。
「あ、神崎さん、花舞さん」
「暁くん、天田くん昨日はありがとうございます」
「ありがとー!」
「どういたしまして、と言っても最後まで守れなかったからな……」
「まー助かったからいいんだよ!私一日中寝かされてたらしいじゃん?自力では起きられなかったしあのままじゃ死んでたからね!」
何が楽しいのか花舞さんはけらけらと笑う。自然と視線が上を向き、花舞さんは顔を引き攣らせた。その視線の先を辿ると、いつもの如く小さな怪異。……力の代償というか何というか。
「怪異にはもう慣れたか?」
「ほんとにいるんだなぁって感じかな。ちょっと不気味だけど、まあ」
「私はちょっとダメですね。暗がりにいるのを見かけただけでびっくりしちゃいます」
「私も!一緒だね!」
にしし、とはにかむ花舞さんだが、どうも無理をしているような気がする。まあ初日でこれなら上出来だろう──そう、3人は霊力(?)に目覚めたことで怪異を見ることができるようになったのだ。一般人にはきゅうりのように実体化した怪異しか見られないはず。つまりはあれが見える3人はもう一般人じゃなくなってしまったわけだ。もはや怪異と向き合って生きる道しかない。
始業のチャイムが鳴った。
◇◇◇
ついつい話が弾んでしまって、俺は今日一日授業を真面目に受けているフリをしながらお狐様と話していた。
「にしても、いつの間に契約なんて結んだんだ?覚えがないんだが」
「この間部室で何度もこっくりさんやったじゃろ?お主は失敗したと思ったようじゃが、儀式は全部成功しておった。儂はあの後、あの女に捕まって契約書を書かされたのじゃ」
なんてこった、うちの部長が、すいませんねそりゃご迷惑をおかけして、しかしそれのおかげで助かったのも事実。最後は俺たちが謎の覚醒をしてうやむやになったとは言え、最初の火球で真っ黒焦げになっている可能性も全然あり得たのだ。いやいやそんな生易しいモノじゃ無い!全てを灰燼に帰す原初の炎的なブツだったんですよ!と俺の勘(?)が囁いてる。ふむ、反撃の術式も仕込みも発動せずに焼き尽くされた可能性が高いとな。……ほんと助かった。
無理矢理契約させられたお狐様には申し訳ないが後で部長に感謝しておかなくては。ちょっと後ろめたい気持ちでお狐様を見る。昨日初めて見た時と違い、霊力(?)に覚醒したおかげか一目で人間ではないと分かる。内包するそれが全然違うと言うか……そう、覚醒といえばである。
「覚醒したら死にかけ……いや、あれは多分死んでたと思うけどそれでこうも綺麗に治るものなのか?」
「いや、聞いたことはないが……確かに不思議じゃの?」
ふーむ?とお狐様と二人一緒に首を捻る。
「あの女に聞いてみたらどうじゃ?なんか色々詳しそうじゃしの」
「元よりそのつもりだ」
うむうむ、それがよかろう、と首肯するお狐様。
こんな話真面目に取り合ってくれるのは部長ぐらいだ。そうするしかないだろう。なんせ今や怪異は絶滅し、その姿を消したというのが大衆の一般論だ。数々の検証が行われ、絶対に安心であると政府が太鼓判を押したその説は実際に怪異を見たもの以外にはもはや否定する必要も無い真実。側から見れば俺は天動説を必死に唱えている連中と大差ない。行こうか、とお狐様に声を掛け、ざわざわと騒がしい教室を後にする。
その昔は妖怪やら幽霊やらお化けやら魔術やら霊能力やらは全てが妄想、空想の産物、創作物の中だけの話であり、仮にいたとしても見えないのだから自分に関係はない、偶には宗教勧誘、詐欺師の道具。そんな認識が一般的だったそれら怪異が徐々に認知されるようになっていった。つまりはその時期、見える人の人数が大幅に増え、映像に映ることが多くなったことで世界的に怪異の存在が認められるようになったのだ。
人間というのは何でも利用する生き物だ。怪異が見つかって以降、偉いおっさんの命令で国が競って霊力や魔力を真面目に研究し、霊能力やら陰陽術やら魔法や魔術、錬金術なんかを作り出し、時には科学技術と組み合わせてみたり、新たなエネルギーとして利用してみたり、さまざまな技術が生まれ、消えていき、人間の生活は豊かになったかに見えた。
もちろんその裏では非人道的な実験が日夜行われ、陰陽術の伝統が根こそぎ奪われ、怪異の被害に遭う人間が続出していたわけだが。
それを放置したツケが来た。それこそが数十年前に起こった大戦。世界に溢れた怪異がついに人類に牙を剥いたのである。しかしながら人類は以外としぶといものでなんやかんやあって大戦は終結。人類の勝利に終わった。その後怪異はその数を急速に減らし、もはや消滅したものと思われている。霊媒師、霊能力者やオカルト科学者、ともかく色んな怪異の専門家が世界中の端から端までどデカい機器を携えて血眼で探し回った結果として怪異は絶滅したとの結論が出された。
「そんなことあるわけ無いのにな」
「うむ、古来より人妖は表裏一体。怪異は人間の闇より生まれ、人間は怪異の餌となり、殺し殺されが常であるというのになぁ?」
「それはなんか違う気がするけど、まあ表裏一体ってのには同意見かな」
人間が存在する限り、怪異もまた存在する。それが世界のシステムなのか、はたまた人間の持つ性質なのか知らないが、大昔からそれが常識だ。それをどうも忘れてしまったらしい。怪異が絶滅したと結論付けられてしまったせいで怪異と戦うために集められた専門家のほとんどが廃業し、多くの技術も戦火に呑まれ、失われた。
「バカだよなぁ人間って」
「そうじゃのう」
怪異は絶滅したわけではない。見える人がほとんどいなくなり、機械を潜り抜ける術を覚え、怪異の数が減り、その結果、生き残りの多くが身を潜めることになった。怪異は反撃の機会を虎視眈々と狙っているのである。その事実を知るのは一部のいまだに怪異が見える人間のみ。つまりは俺や部長のような人間である。まあ今やヒカルも神崎さんも花舞さんもと3人も増えてしまったわけであるが。
「そういえば部長って多分覚醒してるよな?」
「あれで未覚醒は流石にないじゃろ」
「だよなぁ」
みんなついてこれたぁ?余裕?クソ設定ですね?わからん?まあ大丈夫。作者にもわからないのでね。*注意、この設定は変更の可能性があります
殺人きゅうりから @akaki440
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。殺人きゅうりからの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます