殺人きゅうりから
@akaki440
第1話 殺人きゅうりの怪
「なあ、あの噂聞いたか?殺人きゅうりの話!」
「いや、知らないな。なんだそれ?」
昼休み、ワイワイガヤガヤと騒がしい教室でいつものように弁当をつついていた時のこと。
「殺人きゅうりは殺人きゅうりだよ!ほら、あそこの席!
今朝からね、と付け加えたヒカルの指す方を辿ってみればなるほど確かに一つ席が空いている。
俺はなるべく怖い話は正確な情報を仕入れたい感じのヒトだ。好きだからではなくその反対。いざ幽霊やら何やらに襲われた時に対処できるように狙われた理由から対処法まで根掘り葉掘り聞くことにしているのだ。そのせいで俺の部屋には今までに聞いた都市伝説をまとめたノートがあったり、怪しいお守りや
「その話ちょっと聞かせてもらえます?」
と問いかけたのは俺ではなかった。いつの間にか俺の隣に立っていた女生徒である。振り向くと、そこにいたのは我らが委員長であった。
「あ、委員長……」
青ざめたヒカルを見て、俺は思い出した。そういえば委員長は花舞さんとかなり仲が良かったはずだ。普段の様子から見ても親友と言っても差し支えないほどである。親友が殺人きゅうりに殺されたなどという噂を聞いてよく思わないのは当然のことだろう。
「あ、あのこれはただの噂で……すいません、もうしません」
あ、負けた。なんとか言い訳しようとしたヒカルだが、委員長の眼光に屈し、頭を下げた。俺もヒカルと一緒になって頭を下げ、そのままの体勢で委員長の沙汰を待つ。殺人きゅうりの噂については後で聞くしかないかな……と俺が考えていると委員長は言った。
「あ、いや謝って欲しいとかじゃなくて……もっと詳しい話を教えて欲しいんです」
◇◇◇
「昨日、ちょっとした肝試しをしないかって琴音に誘われたんですけど用事があったから断ったんです。でも
委員長の話はそのようなものだった。確かにそんな噂話を聞けば詳細を知りたくもなるだろう。俺たちは—―というかヒカルは――快く殺人きゅうりのうわさについて話すことにした。その旨を伝えると委員長は顔をほころばせた。
「ありがとうございます!みんな詳しく聞こうとしても逃げ出してしまって困ってたんです!」
どうしてですかね?と首をかしげる委員長にさっきみたいな聞き方してたらそりゃあダメでしょうね、と俺と、多分ヒカルもそう思った。
「えっと、1週間くらい前からですかね。旧校舎に動くきゅうりがいるって噂が立ち始めたんです。結構盛り上がってて目撃報告もどんどん上がってきてました。それで昨日、花舞さんがきゅうりの正体を調べに行くって言ってたんですけど、今日登校してないからきゅうりに食われたんじゃないかって話になっているんですよ」
ヒカルの話は酷くあっさりしたものだった。俺たちが昨年度の最初の方まで使っていた旧校舎、現校舎から少し離れた場所にあるそこは2、3年のうちに解体されるとかいう話でそれなりに老朽化が進んでいて不気味な雰囲気を漂わせている。花舞さんがきゅうりの噂を確かめに行ったそこできゅうりじゃないにしても何かがあったのかもしれない。
「それにこの話。今朝、部長から聞いた話だしね。それだけで信憑性は十分じゃないかな?」
「ああ、じゃ絶対間違いないな」
部長というのは俺とヒカルが所属しているオカルト部の部長のことだ。占いをすれば百発百中、儀式も大体成功する、そんな神秘の塊のような人で謎の情報網を持っている。そんな彼女の言うことならば間違いのない情報なのだろう。
「となると、旧校舎での目撃を最後に行方不明なのは確実として、殺人きゅうりの話にも信憑性が出てきたな……」
「えっ、ホントだ!やばいじゃん!花舞さん殺されちゃうよ!?」
助けに行かなきゃ、とか叫ぶヒカルの口を塞ぐ。親友の前でいう話じゃないでしょうが。チラ、と委員長の様子を伺えばさっきのような怖い雰囲気に戻ってしまっていた。どうも自分を責めているような気がするのは気のせいじゃないだろう。引き止めればよかったと顔に書いてある。
「……貴重なお話、感謝します」
「待って」
俺は思わず立ち去ろうとする委員長の腕を掴んでいた。
「1人で行く気だったでしょ?」
「……そうですけど」
「危険すぎる。殺人きゅうりは信じなくてもいいけど、もしかしたら人に襲われたのかもしれないんだぞ?」
あり得なくはない話だ。少なくとも殺人きゅうりよりはホームレスにでも襲われたという方が信憑生が高い。しかし委員長は太もものホルダーに手を翳して言う。
「大丈夫です。私、射撃の成績全校生中2位なので」
「だとしても、1人で行くのはやめろ」
「そうだよ、委員長。行くなら僕らを連れて行きなよ」
はい?
「こいつ、こう見えて射撃成績1位なんだ。それに都市伝説についてもよく知ってる。結構頼りになるんだ。できれば行くのはやめて欲しいけど……まあ、行くなら僕たちもついていくからさ」
おい待て勝手に決めるな、と言いたいところだがなんかもう言い出せる雰囲気じゃなかったしそのまま1人で行かれて何かあったら寝覚めが悪い。トントン拍子で話が進み、その日の夜中に旧校舎へ侵入することが決まったのだった。
「それじゃ、7時に旧校舎校門前で集合だね。裕太、期待してるぜ」
「ああ、わかった。用意しとく。それに、こういう時のために集めてたモノだしな」
「委員長もそれでいい?」
「……わかりました。でも、とりあえず委員長はやめてください」
「あ〜ごめん。名前まだ覚えてなくてさ」
2年生に進級してそろそろ2ヶ月立つんだけどな。ヒカルは相変わらず他人に興味のないやつだ。委員長も──お前も覚えてないじゃん?黙れ小僧!──若干呆れた顔で自己紹介をする。
「
「うん、覚えた!僕は
◇◇◇
時間はぶっ飛んで約束の時間。すなわち午後7時。旧校舎校門前にはきちんと全員が集まっていた。去年まで通っていたはずの校舎は老朽化によるものかそれとも見放されたからか、ずいぶんと汚らしく見えた。
「全員集まったな。んじゃ、これを渡しておこう。小型トランシーバーとライトとお守り、塩と除草剤と御神酒の入った水筒と祝福された銀の弾丸。それと部長にもらった護符。効果があるかは知らん」
それと秘密兵器、式神入りの紙、これは一枚しかないので懐にしまっておく。俺がひょいひょいとカバンから荷物を取り出してみせるとヒカルは自慢げな顔に、神崎さんは微妙な顔になる。
「言っただろ神崎さん。こいつこういう時強いんだ。なあ裕太、殺人きゅうりに会った時の対処を教えてくれ」
「殺人きゅうりは多くの人間に目撃されている。つまり妖怪とか幽霊とかの特別な人じゃないと見られない存在じゃなくてバケモノの類だ。ホラゲで言うなら倒せる敵か怯ませられる敵。つまり雑魚ゾンビみたいなやつだと思うから物理的対処も十分効果があるはずだから普通に撃ってみるのが一番だ。それがダメなら除草剤、塩、御神酒を混ぜた水筒の中身をぶっかける。もしも相手がきゅうりの幽霊だった時は効くんじゃねえかな。一応銀の弾丸も用意したけど高いから全部効かなかったときだけ使うんだぞ。ほら、神崎さんも」
「……ありがとうございます」
「そんじゃ、こっちに入り口がある。ついてきてくれ」
少し歩いて学校の裏手に回る。高いフェンスの端に一枚の板によって隠された穴があることを俺は知っていた。先輩から教えてもらった秘密の通路だ。
「こんな道が……」
「あ〜たぶん先輩の誰かがこじ開けたんだろうな。──っと、あっちに足跡が続いてるな」
足跡を辿った先には不用心にも開いていた扉があったので俺たちはそこから教室棟に侵入した。打ち捨てられたこの場所はただの夜の学校とは一線を画す不気味さがあった。俺たちは誰からともなく銃を抜き、慎重に歩みを進めていった。
「琴音ぇ?いないのぉ?」
神崎さんのか細い声が辺りに響く。道中で職員室だった部屋に寄ったが鍵どころか中に何もなかったので扉が開いている部屋だけを見て回っていた。既に半分ほどを探し終えたが花舞さんの姿は見当たらない。僅かに残る痕跡も途絶えてしまったのでもはやしらみつぶしに探すしかなくなった。ちょうど緊張も緩んできた頃合い。ホラーゲームではたいていこういう時に何かが起こる。それは現実でも例外ではなかったようだ。
「ん?何だこれ?」
「ヒカル?何か見つけたのか?」
「やばっ──」
ヒカルの驚声に続き、閃光、そして轟音。音と光はヒカルの銃に違いない。慌てて振り向いた俺と神崎さんの後ろにいたはずのヒカルはこの一瞬のうちにいなくなっていた。
「──神崎さん」
「はい!」
俺たちは即座に背中合わせになり、周囲の警戒を始める。ゆっくりと銃のライトで照らしながら廊下の奥に目を凝らす。壁、床、天井、怪しい影はない。
「異常なし」
「こっちも──ッ!」
神崎さんの体が震え、極度の緊張を示す。出たか!チッ、と神崎さんが舌を鳴らす。後ろを警戒しろ、のサインだ。振り向きたいが神崎さんの言う通り、今背後から奇襲されるのが一番マズイ。必死に前だけを見て思考を巡らせる。シュルシュルと壁を這いずるような音と不気味な気配がする。
「撃ちます」
「了解」
閃光、轟音。不気味な呻き声と共に青臭いきゅうりの匂いが漂ってくる。再びの発砲。さらにもう一度。グシャリ、と音がして周囲に静寂が戻る。聞こえるのは神崎さんの激しい呼吸音だけだ。しばらくの後、落ち着いた神崎さんは囁く。
「確認を、お願いします」
「わかった」
護符を一枚取り出して放り投げる。気休め程度だが魔のモノが嫌がるらしい。振り向くと憔悴した様子の神崎さんの視線の先に鮮やかな緑色の死骸があった。──本当にいた。神崎さんが銃をリロードする音もほとんど耳に入らないままゆっくりと殺人きゅうりの死骸に近づく。
見た目は人間大のきゅうりのようでその中ほどには大きな穴が空いている。周囲に散らばっている蔓はかなり太く、これに囚われれば引きちぎるのは難しいだろう。遠い方からだんだんと黄色に変色し、枯れていっているが一際目を引く足のように付属した蔓で移動していただろうと容易に想像できる。ただ、直接の殺傷能力は低そうだ。見る限り、尖った葉やウツボのような口があったりはしない。
「待てよ……?」
この個体に消化器官のようなものはついていない。しかしわざわざ人間を連れ去ったということは何か目的があるはずだ。よくあるパターンに当てはめて考えればおそらくは養分にするためだ。しかし食べられない獲物を連れていく意味はない。つまりは人間を食べられるボスきゅうりがいるか、もしくは──
「そういうことかッ!」
スマホを取り出し、画面に映る光点を睨む。小型トランシーバー付属の発信機の位置を示すそれはこの校舎の中に3つあり、1つが移動を続けている。ヒカルの発信機だろう。しばらくジリジリと移動していた光点は数秒ののちに止まった。場所は予想通り。
「神崎さん、2人の行方がわかった。屋上に行こう」
殺人きゅうりがどこから湧いてきたのか考えた。下の方はほとんど隅々まで探したから後は屋外かここよりさらに上階。さらに言えば旧校舎の屋上には大きな菜園があったはずだ。おそらくはそこが殺人きゅうりの巣なのではないかと考えた。敵は植物なのだ。畑から育つに決まっている。野生のきゅうりの可能性も無くはないが畑があるのだから真っ先に確認に行けばよかったと後悔する。
「琴音ちゃん……お願い、無事でいて──」
などと呟く神崎さんを見てしまったら尚更だ。俺は見ていなかったので不気味な気配を感じた程度だが直接殺人きゅうりを見てしまった神崎さんはしばらく体の震えが止まらないほどだった。多少の精神耐性訓練を受けている神崎さんがこうまで怯えるとは相当やべー植物に違いない。早いところ救出しないと2人とも精神崩壊してしまうかもしれない。
階段を登りきり、屋上へと辿り着いた。薄ぼんやりとした月明かりに照らされる屋上に目を凝らしながらせめて足音を立てないようにこっそりと侵入。大きなタンクやソーラーパネル、よくわからない配電盤を避けて進む。視界が開け、大きな菜園が見えた。菜園の中央付近には4匹の二足歩行のきゅうりが居て、しきりに蔦を動かしている。やはりここが奴らの巣のようだ。実際に動いているところを見たら怖気がした。
「止まって、少し様子を見よう」
「うん」
隙を見て2人を救出したいところだ。見たところきゅうりたちはを蔓と葉で土を掬い上げて、何かにまぶしているようだ。懸念していたボスきゅうり的存在は見当たらない。それにしても………鞄を探る。あ、ちょうどいい石発見。岩塩だ。効くかもしれないから入れておいたやつ。投げる。落ちる。大きな音が響く、がきゅうりたちに反応は無い。
「よし、突っ込むか」
「ちょ、」
何か言いかけた神崎さんを置き去りに1発、2発、3発、4発。全弾命中ヘッドショット。きゅうりのヘッドがどこかについてはさまざまな意見があるだろうが動かなくなったから無問題。バッタリと前のめりに倒れたきゅうりたちは急激にしおしおになって蔦が変色し始める。銃声が辺りに響いたが増援の気配はない。あれで打ち止めだったらしい。
「神崎さん、二人ともいたよ。多分無事」
「あ、うん。すぐ行く」
ふむ、ちょっとぼーっとしてたけど大丈夫そうだ。畑の真ん中、少し掘り下げられたそこに二人はすっぽり入っていた。上から土がかけられていて半分以上埋まってしまっている。顔からかけられてたら今頃はヒカルはともかく花舞さんは死んでいただろう。運が良かった。いや鮮度を保つためかもしれないケド、何にせよ今回は銃が効くくらいの雑魚で助かった。これで3度目の討伐か。次のバケモノも上手くやれば殺せるだろうか?その次も、さらにその次も、そうしたらいずれきっと………
「暁くん!」
「あ、な、何?どうかした?神崎さん」
「琴音ちゃんが目ぇ覚まさないの……」
顔面蒼白の神崎さん。しかしその腕の中の花舞さんはどう見ても眠っているだけである。「……ぱふぇ?」などと寝言も呟いて幸せそうだ。一応メディカルチェック。ピピッ。問題なし。
「いや、寝てるだけだと思うけど……」
「そ、そうなんですか!?ほんとですか!?」
全然わからん……と呼吸チェックを行う神崎さんに簡易メディキットの診断結果を見せるととりあえずは納得した。俺もヒカルを起こすとしよう。ペチペチと頬を叩く。んぐ、と呻いてヒカルは目を覚ました。
「……裕太?二人は?」
「あっち。二人とも無事だ」
「そ、そうか、無事なら良かった……?」
そう言ったヒカルだがどこか腑に落ちない顔をしているように思える。
「……?きゅうりならもう品切れだと思うぞ?」
「きゅうり……いや、きゅうりじゃなくて……そうだ!や、やばい!逃げ、逃げないと!あいつ絶対四天王とかそんな感じだって!」
「落ち着け、きゅうりならもう全部倒したぞ」
「きゅうりじゃなくて!」
「く、クソガキどもめ。貴重な苗を全滅させてくれおってぇ」
突然、横合いからジャギジャギな声がした。そちらを見やると一人の人間……ではないな、これは。初めは普通の人間のように見えたそいつはみるみるうちに姿を変え……?????ナニコレ?????……肥大化した頭。ムキムキな体。赤い肌。手には金棒。鬼……鬼かこれ?ぬらりひょんと鬼の混血?鬼って赤い肌なの?それってデフォルメされてたからじゃなかったの?困惑する俺の前で推定鬼はさらに炎を纏った。さしずめファイヤぬらり鬼……しかもエレメンタル種であったか。
「疾く死ね」
金棒が振るわれ、炎が球体になり、俺たちへ向けて飛んでくる。神崎さんと花舞さんを引っ張り、ヒカルと一緒に俺の後ろへ。少々の仕込みは出来たがそれ以上の行動はできそうもない。俺たちの冒険はここで終わり。先生の次回作にご期待ください!
とはならないんだなこれがぁ!まだ最終手段がある!この体に刻んだ反撃の道連れの呪いがなぁ!俺は死ぬが、これでとりあえず二人は助かるはずだ。呪いが起動するか、仕込みが効くかは知らんが何とかなれ。何とかなったら生き残りが増える。ならなかったらみんな死ぬだけだ。あ、じゃあどっちにしろ次回作にご期待になるのか。炎は目の前まで迫ってきていた。走馬灯を見る間も無く俺の体は蒸発し……たりはしなかった。
間に合わなかったぜ☆ちなみに今気がついたけど一切服装や外見についての描写がないのは忘れてたのと服に詳しくないからです。調べるのめんど……まあセリフとかから適当に想像してね。(2話への弁明)
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