第20話 思い通りにならない

「勇太が西園様とお付き合いしてるなら」

「だから、それは…」

「形だけだったとしても、お付き合いしてるのに他の女の人と二人きりでいるのは違うと思う」

「…」

「私だったら嫌だし、勇太もそういうの嫌いでしょ?」

「そうだけど…」


「…私は、今日、ちゃんと勇太に謝る事が出来て…言えなかった事が言えて、良かったって…思ってるから、それで大丈夫」

「莉緒…」

「勇太におめでとうって…笑って言えるように頑張るから」

 前をまっすぐ見て話す彼女を、見つめることしかできなかった。

「…送ってもらっていい?明日も仕事なんだ…。勇太もでしょ?」

「…うん、わかった」

 もう一度走り出した車が高速を降りる頃、目を閉じていた彼女に声をかけた。最寄りの駅でいいと言う彼女に、危ないからと無理を言って、マンションの前で車を停めた。

「ありがとう、おやすみなさい」

「おやすみ」

 彼女の姿が見えなくなるまで見送ると

綺麗な月が出てることに気付いた。


 次の日、会社に出社すると、親父の秘書が呼びに来た。社長室に入ると、先客がいた。

「おお、来たか。麗衣さんがお待ちかねだぞ」

 上機嫌の親父が俺を手招きした。

「おはようございます。勇太さん」 

「…なんで?」

「勇太、わざわざ来てくださったんだぞ。その言い草はなんだ」

「いいんです。朝から押しかけて来たのは私なんですから」

「お前に話があるそうだ」

「わかりました、ここではなんですから、下の応接で」

「ここでかまわないぞ、結婚の打ち合わせなら、私も聞いときたいしな」

「そういうのでは無いです」

 親父にこれ以上誤解させたくなくて、彼女を自分の部署の応接室に連れていった。

「ごめんなさい。どうしても話したくて」

「いや、こっちこそ一方的に電話でなんて、失礼だったよね」

「勇太さんが言ってた忘れられない人…と再会できたんですか?」

「ああ…」

「そう…なんですね。その方と結婚されるんですか?」

「そのつもりだけど、今すぐは無理だろうな」

「お父様が反対されてるからですか?」

「どうしてそれを?」

「勇太さんがもし私以外の人を連れて来たら、全力で阻止するから安心してほしい、今までもそうしてきたからと」

「…」


「私、勇太さんが好きです。諦めようとしたけど…やっぱり無理…でした」

「麗衣ちゃん?」

「勇太さんがその人のことが好きでもいいです、このままでいたいです」

「それは無理、親父にもちゃんと言うから」

「その人に迷惑がかかってもですか?」

「…それは…」


「私頑張ります、頑張って好きになってもらいます」

「そういうことじゃなくて…」

「それだけ言いに来たんです」

 俺の言葉を待たず、彼女は部屋を出ていった。


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