第11話 アジトに全員そろって作戦会議。

 俺の部屋をアジトとして、みんなでの作戦会議が始まっていた。


「んじゃ、そろそろ話し合い始めっか。新木、メンバーはこれで全員なのか~?」


 座布団に座った池神が俺に問いかけてくる。みんなの分のお茶を配り終えた俺も、座布団に座りながら答える。


「うん、俺が呼びたかったのメンバーはこれで全員だよ」


 俺、池神、水無月さん、静原さん、金堂さん、そしてベランダにいる平沢先生。これが、現在アジトに集まったチームである。


 ちなみに隣の叔母の部屋には麻里さんと犬養先生もいるが……彼女たちは作戦とは直接的には関係はないのでこのメンバーで話し合いを開始する。


「オッケー。じゃあまずわたしたちの目的だけど、油婆をぶっ倒す! でいい?」


「なんか、めっちゃ抽象的だな……まっ、間違ってはないか。みんな、あいつをどうにかして懲らしめたいと思ってるわけだしな」


 水無月さんの言葉に池神がつっこむ。確かになんか漠然としているが、スローガン的な意味ではよさそうだ。


「ええと……じゃあ次は、具体的にどうやってぶっ倒すかを決めていく?」


 静原さんの提案にみんなが頷く。さらに、これまで黙って話を聞いていた金堂さんも口を開いた。


「ぶっ倒すってのは……油婆のヤツに教師を辞めさせるとか、そういう感じか?」


「そうだね……けど、油婆の両親は教育界で有名な人物で、しかも学校側に多大な寄付をしているっていう後ろ盾があるから、現状かなり難しい」


 俺もそう補足を加える。


「そうなんだよな~。やっぱ現実的なのは、警察に通報するとかか?」


「そうだね。けど、現状油婆は暴力を振るっているとか、決定的な証拠がないからそれも難しいと思うよ」


「うーん、なかなか難しいね」


 と、俺たちが行き詰って議論が止まりかけていたとき。


「証拠ならあるんじゃない」


 ベランダでタバコを吸っていた平沢先生が、なんか俺の洗濯物を持って室内に入って来た。


「てか新木くん、雨降って来たからこれしまいなよ……ってうわぁっ!」


「えっ……――ぐえっ!」


 平沢先生はベランダと部屋を繋ぐ窓の段差につまづき、俺の方に倒れ込んできた。どうやらいつものドジっ子属性を発動してしまったようだ。


 なんか、全身に柔らかい感触と温もりが……。


「いててて……ご、ごめんよ新木くん」


「だっ、大丈夫です……。それより、さっき言ってた証拠って……」


 俺が起き上がり、先生の持って来てくれた洗濯物を室内に干しながら問いかけると、彼女は体をさすりながら続けた。


「あれ、誰か聞いたことない? 油婆が後輩の教師をいじめてるって噂」


 どうやら油婆は生徒たちが下校した後、後輩の教師に暴力を振るったり、物を破壊したりといった行為をしているという噂があるらしい。


「マジで最悪だな……アイツ」


「けど、もしその証拠を掴めれば……油婆を学校から追い出せるかもしれない……!」


 と、わずかな希望が浮かび始めていたとき。


――ガチャ、と玄関が開いて麻里さんが入って来た。


「おーい、守。これでなんかうまいもんでも取ってみんなで食いな」


 俺が玄関に近づくと、麻里さんはそう言って数枚のお札を俺の手に握らせてきた。


「えっ、いいんですか……こんなにもらっちゃって」


「いいんだよ、気をつかうな」


 後ろからついて来たみんなも麻里さんにお礼を告げたり、頭を下げたりする。


「なぁ守、転校してすぐに、こんないい友達をこれだけ連れてくるとかさ……おまえ、それだけ人から信頼されるもんを持ってんだよ」


「麻里さん……」


 前の高校で、冤罪をかけられて、誰も信じてくれなくて……そんなことを言ってくれる人なんて誰一人としていなかった。


「新木。おまえの叔母さん、めちゃくちゃいい人だな」


 麻里さんが部屋に戻った後、立ち尽くす俺の肩に池神が手を置く。


「……うん」


 俺は涙ぐみそうになるのを必死にこらえながら、ただ一言だけそう答えた。

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