第10話 いい人たちがみんな集まってくる展開。

 放課後、今日も俺は水無月さんや静原さんと会話を交していた。


 そんな中、教室の扉から1人の男子生徒がやってくる。


 教室はざわめき出すが、当の本人は気にした様子もなく俺の方へと歩いて来る。


「よっ、新木。こっちもホームルーム終わったから一緒に帰ろうぜ」


 先日仲良くなった池神 陽平だ。俺は彼と、お互いに呼び捨てで呼び合う仲になっていた。


「おう、池神。お疲れ様」


 俺がそう返すと、さらに教室中が騒がしくなった。


 暴力事件を起こしたという噂が広がってる転校生の俺と、去年からぼっちになって落ちぶれている陽キャが楽しそうに話しているからだろう。


「池神くん……」


 水無月さんは池神が姿を現したことに驚いた表情を浮かべる。


「ごめん、池神くんは助けてくれたのに、わたしなにも出来なくて……」


 静原さんが申し訳なさそうにうつむく。しかしそんな彼女たちに、池神は何事もなかったかのように明るく話しかける。


「おいおい、そんな顔すんなって……俺は別におまえたちのこと恨んじゃいねぇよ」


 俺は今日の朝、彼のクラスに行って池神にお願いをした。放課後、水無月さんと静原さんに会ってほしいと。


 彼女たちは池神を孤立させてしまったことに負い目を感じているようだが、彼はきっとそんな風に思っていないと思ったからだ。


「去年のことなら、俺は俺の意思で油婆に文句を言ったんだ。それで今、お前たちがあいつから目を付けられてないなら何よりだよ」


「池神くん……」


 と、彼らが和解を交す寸前のところで鎌背や取り巻きのやつらが割り込んできやがった。


「おいお~い、なにカッコつけたこと言ってんだよ池神ぃ」


「水無月ちゃん、静原ちゃん。そんなボッチや暴力転校生いいからさ。放課後俺たちと遊ぼうぜ」


 しかし、俺たちは全員彼らに一切の反応を示さず教室を出る。


「は? おい、俺を無視すんなよ!」


 俺はあらかじめ水無月さんや静原さん、そして池神に話しておいたのだ。放課後鎌背のやつらが邪魔をしてきたら無視をしようと。


 呆気にとられたように吠える鎌背は、まさに文字通りかませ犬だった。


 #


 俺と池神、水無月さんと静原さんの4人は帰りの電車でボックス席にみんなで座っていた。


 彼らの中でのしがらみは、すべて解かれたようだった。


「にしても油婆のヤツほんと最悪だな」


「ほんと、どれだけ人をおとしめれば気が済むんだって感じ」


 俺たち4人が考えていることはみな同じだった。どうすれば油婆を懲らしめることができるか。


「わたしたちで、何とかできないかな……」


「なんとかやってやろうぜ。俺たちで、協力して……そうだ、どっかに集まって、油婆のクソ野郎をぶっ叩く作戦を考えないか?」


「いいじゃん。集まるとしたらやっぱファミレスとか? けど、この辺のファミレスで話してたら、いつ誰に聞かれるかわからないし……」


 と、そんな彼らの話を聞いているうちに俺はあることを思いついた。


「それならさ、俺の家に来る?」


「えっ、新木くんの家? いいの……?」


「うん。俺の家って言っても、叔母さんが借りてくれてる部屋なんだけど。あと、他にもこの作戦に呼びたい仲間がいるんだけど――」


 数十分後、俺はみんなを連れて帰宅した。叔母さんに挨拶を済ませると、みんなを部屋に招待する。


「すごい……新木くんの部屋広いね」


「ほんと、なんかアジトみたい!」


 水無月さんと静原さんが楽しそうにはしゃいでいる。


「てかさ、新木の叔母さんめっちゃ美人だな……しかもなんつーか、めっちゃエロいし……」


 池神が耳元で、小声で囁いて来る。だろ、と俺も誇らしげに答える。


 わかるぞ、麻里さんを目にしたら大抵の男が虜になることだろう。胸フェチにも尻フェチにも太ももフェチにも刺さるし。


 しばらくの間みんなでそんな会話をしていると、インターフォンが鳴った。


「悪い、遅くなったな」


 そう言って、金堂さんが入ってくる。


「大丈夫だよ、今みんなで集まってたところだから」


 俺は彼女を招き入れて、みんなに紹介する。


 そしてさらに、すでに到着していたもう1人の人物も口を開く。


「あのさ、なんで私まで招待したわけ?」


 ベランダでタバコをふかしながら黄昏ている平沢先生だ。


「平沢先生だって、油婆の横暴な行為をどうにかしたいって思ってるんじゃないですか?」


 俺が問いかけると、彼女はこちらに視線を向けてそうかもね……とだけ呟いた。


「まっ、私は面倒な仕事を抜ける口実ができるならなんでもいいよ」


 そう言うと、再び彼女は薄暗くなっていく空に視線を向けて煙を吐き出す。


 ちなみに隣の麻里さんの部屋には今、彼女の友人である養護教諭の犬養先生も遊びに来ているようだ。


 俺がこの高校に転校して来てから出会った、信頼できる人たちが全員そろっていた。


「それじゃあ始めるか、油婆を倒すための作戦会議を」

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