第3話:時空間異常
ベースキャンプ
原田が双眼鏡を覗いて如月がアノマリーに日本語を教えてる様子を観察している。
原田に背を向ける形で銃の手入れをしながら谷口が話し始めた。
「あのアノマリーは日本語を理解していたわけじゃなかったんだろ?俺だったらそれに気づいた時点で逃げ出してるね」
「ええ、僕だってそうします、ジェスチャーを交えながら意思疎通に成功したそうですよ、すごいですよね」
原田は双眼鏡を覗いたまま返答する。
「で、結局は現実改変者ではないって結論か?」
「わかりません、対象から1.5m周辺でヒューム値に異常は見られなかったそうですが、報告ではもっと近づけばヒューム値の低下を観測できる可能性があると言っています、どちらにせよ能力の発現は対象の体表近くのみとかなり限定的みたいです」
「あまり芳しくねぇな、あの能力がある限り"確保"も"収容"も出来ねぇじゃねぇか」
「そうでもないですよ、一応スクラントン現実錨を搭載した護送ヘリの要請を行っていますが、様子を見る限り友好的なアノマリーです、能力解除にも応じる可能性があります」
「ま、如月の嬢ちゃん次第ってところか……ところでよ、あのアノマリー、何だと思う?」
「さあ……宇宙人ですかね?」
「宇宙人じゃあねえだろうよ、俺の知ってる限り宇宙人ってのはもっと賢いさ、地球人の集落を破壊して回るとかそんなバカなことはしねぇ」
相変わらず原田は双眼鏡を覗き続けている。
「じゃあ、谷口さんは何だと思うんです?」
「……あいつらはこの世界のルールというか常識ってもんをまるでわかってねぇ、派手に暴れたら報復されるに決まってんだろ? あまりに無知すぎる……たぶんこの世界のもんじゃねぇ、召喚されてそのまま放置とか、たまたま迷い込んだとか、そういう感じだ」
「召喚された悪魔とか異世界漂着者とかですかね」
「それに近いもんだと思ってる、だからこの付近に……」
谷口がそう言いかけたところで、付近を巡回中の機動部隊員から通信が入る。
「綾戸村ベースへ連絡、送信したGPS座標に中型の時空間異常とその付近で仮称トカゲゴリラ型アノマリー数体を発見しました、至急、サイト-8107へ隠蔽処理班の派遣を要請してください」
谷口は原田の双眼鏡を引っぺがして得意げに笑って見せた。
「ビンゴ!だ」
*
あれから何時間経っただろうか、すっかり日も落ちていつの間にか設置されていた工事現場用投光器が辺りを照らしている。
バタバタバタバタ……
けたたましい音が遠くから近づいてくる、スクラントン現実錨を搭載した護送ヘリだ。
人型実体は空を見上げてこうつぶやく
「へりこぷたぁ」
「そうだね! これだよね! へりこぷたぁ!」
如月は"いろんなのりもの"と書かれた絵本の”へりこぷたぁ” とルビの入ったイラストを指しながら、うんうんと同意しながら緊張交じりに尋ねる。
「乗ってみたい?」
「うん」
よし! と心の中でガッツポーズをして如月は次の段階に進む決心をする。
人型実体は体育座りの体勢をとっているが、相変わらず地面をえぐり続けている、つまりまだ能力は発動中なのである。
スクラントン現実錨を搭載した護送ヘリに近づけば、能力は強制解除されるかもしれないが、不興を買う恐れがあるので、出来れば自発的に解除してもらうのが理想だ。
「ええと、君の体の、ソレね、ええとなんだろう、それが出てると"へりこぷたぁ"に乗れないの、止めることって出来る?」
如月は自分の体をペタペタ触りながらなんとかこの能力の解除が出来ないか必死に説得を試みる。
すると人型実体の体が一瞬ふわっとしたかと思うとそのまま地面に接地した。
(ああああ!! やったぁーーー!! 助かった!!)
ひとまず窮地を脱した安堵感からか、人型実体に対し幼児に向けてするような、えらいえらいといった頭を撫でるような仕草をしてみせた、もちろん接触はせずに。
そうこうしてるうちに護送ヘリが数m先に降り立ち、数名の機動部隊員がぞろぞろと出てくる。
念のため身体には触れないよう慎重に人型実体を護送ヘリのところまで誘導し、安全性を隊員たちにアピールして護送ヘリに乗せてやった。
と同時に如月はそのまま地面にへたり込んだ、確保成功だ!自分はやり遂げた!満身創痍になりながらも隊員たちに、どうぞ行ってください、といったジェスチャーをした。
まだアノマリーとのやり取り中のジェスチャー癖が取れていないのだ。
「エージェント如月! 何をしている! 君も来るんだ」
如月は、おいおい、私はやり遂げたんだぞ! という意味合いで"冗談でしょ?"的なジェスチャーをしながら、しきりにもう安全だと再度アピールする。
「このアノマリーと意思疎通に成功した人間はまだ君だけなんだ、もう少しだけ頑張ってくれ!」
隊員たちも必死である。
結局ヘリの格納スペースに如月と人型実体のみを搭載し、隊員たちは前方の乗員スペースに再度搭乗し護送ヘリは無情にもサイト-8107へ向かって飛び立った。
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アイテム番号:SCP-X1751-JP
オブジェクトクラス:Euclid
特別収容プロトコル:現在、SCP-X1751-JPはカバーストーリー"鉱山資源調査"に基づき、サイト-8107管轄下の鉱山資源研究施設に偽装された収容施設に収容されています。
SCP-X1751-JPは常に遠隔カメラで映像を記録し、異常が発生した場合は収容施設に駐在する機動部隊が対処します。
説明:SCP-X1751-JPは20xx年5月1日未明頃発生したと推測される、福島県小沼郡綾戸村の山林に存在する高さ5m幅5m奥行約50cmほどの時空間異常です。
同日、少女の姿をした人型実体(以下、SCP-X1751-JP-A)と多数の異形実体(以下、SCP-X1751-JP-B)が綾戸村を襲撃したことで現地住民が地元警察へ通報、同県警察署に潜伏していた財団エージェントが通報を傍受し、陸上自衛隊に偽装した財団機動部隊い-2が綾戸村へ急行、そのままSCP-X1751-JP-Aを含む、多数のSCP-X1751-JP-Bと戦闘状態に突入、戦闘終了後に付近を警邏中の機動部隊員によりSCP-X1751-JPが発見されました。
SCP-X1751-JP-A及びBの詳細はアイテム番号:SCP-X1751-JP-A及びBの項を参照してください。
一連の事件はカバーストーリー"武装テロ組織掃討作戦"として処理され、綾戸村住民及び地元警察関係者にはクラスA記憶処理が施されました。
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アイテム番号:SCP-X1751-JP-A
オブジェクトクラス(暫定):Euclid
特別収容プロトコル(暫定):SCP-X1751-JP-Aは現在サイト-8107現実改変者用収容室にスクラントン現実錨を常に稼動させた状態で収容されています。
説明:SCP-X1751-JP-Aは SCP-X1751-JPから出現した、身長:138cm、体重:32kgの少女の姿をした人型実体です。
SCP-X1751-JP-Aに対する財団機動部隊の標準装備による攻撃は未知の方法によりすべて無効化されました。
SCP-X1751-JP-Aは日本語への関心を見せため、財団エージェントによる交渉作戦が実行され、作戦開始から四時間後には二~三歳程度の日本語能力を習得。
その後、同エージェントの説得により確保、一時的にサイト-8107現実改変者用収容室に収容されました。
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アイテム番号:SCP-X1751-JP-B
オブジェクトクラス:Safe
特別収容プロトコル:SCP-X1751-JP-Bは現在サイト-8107地下、強化鋼板で補強した5m×5m×5mの収容室に収容されています。
説明:SCP-X1751-JP-Bは SCP-X1751-JPから多数出現した、体高2.3m、体重280kg、有翼の霊長類型異形実体です。
SCP-X1751-JP-A を伴い近隣の村を襲撃していた為、陸上自衛隊に偽装した財団機動部隊い-2が対処に当たりました。
SCP-X1751-JP-Bに対しては財団機動部隊の標準装備である銃火器攻撃が有効であり、一体確保後、機動部隊い-2によりSCP-X1751-JP-Bは殲滅されました。
背中にコウモリの翼に似た器官を有していますが、空を飛んだ姿は目撃されておらず、飛翔機能はないと推測されています。
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