第6話 山頂のサバイバル

 翌朝、ユユイは食事の準備をした。酒場で厨房に立っていたこともあり、料理は手慣れている。

 枯れ木を集めて火の魔法で焚き火を作ると、準備していたフライパンで卵やら塩漬け肉やらを焼いた。


「ありがたくいただくとするよ」


 約束の通り、シノキスと半分にして食べる。もともと一人分しか用意していないので、物足りない。


 すると、原っぱから白髪の大男がこちらに歩いてきた。


「すまぬ。少し火を借りてもよいか?」


 エントデルンの手には二匹の息絶えた兎。ユユイは火を譲ると、エントデルンは手早く兎を捌いて、火で焼いた。


「一つ提案があるんだが、おぬしたちは魔法使いだろう? どうだ、ワイバーン退治でわしと組むか?」

「ぜひ、お願いします!」


 ユユイは即答した。

 

 登山での一件で、エントデルンと組みたい気持ちはあったのよね。

 エントデルンは竜族の血を引いた重騎士系の勇者。魔法と物理攻撃に強く、格闘技も超人的だと聞いている。

 私たち魔法使いの最大の欠点は、魔力を練り上げる詠唱中の無防備な時間だから、この間だけ壁になってくれる人がいれば、ずっと戦いやすくなるはず。

 そして竜族は長寿で有名で、エントデルンの見た目は三十代だけど、たぶん人間の歳でいったら、五十ぐらい。戦闘経験は私たちとは比べられないくらい差がある。

 

「僕からもお願いするよ」

「うむ。そう言ってもらえると嬉しい。では、これは契りだ」


 焼けた兎肉を半分にして棒に刺すと、ユユイとシノキスに渡した。


「ワイバーン討伐のため、互いの背中を兄弟のように守ることを誓おう」

「「おーッ」」

 

 これで合っているのか……。

 

 兎肉での誓いは初めてだったが、エントデルンにあわせて、ユユイとシノキスは焼けた兎肉で天を突くように掲げた。

 

 

 朝食を食べ終えてから、ワイバーン討伐に向けてのフォーメーションなどを確認してその日は終わった。


 夜、エントデルンは外で寝るということで、シノキスがほっと安堵する。

 エントデルンの身長は見上げるほど高いので、テントで寝たいとなると二人は確実に追い出されることになるからだろう。

 

「なんか、勇者には申し訳ないわね」


 ユユイがテントに入りながらつぶやく。


「彼は野宿があたりまえだって言っていたから、いいんじゃないか。僕は無理だけど」

「あんたね……そんなこと言うんだったら、自分でテントを買ったらどう」

「君には悪いけれど、じつはもともと君の買ったテントで寝るつもりだったんだよ。いわゆる、長期的な計画ってやつさ」


 どこがじゃ。人に依存してばっかりだから、そうなってんじゃないの。ダメ男め。

 

 そう口に出すの堪えて、ユユイは眠りについた。

 

 深夜、テントの入り口に掛かるぶ厚い布が風で揺れて、ふとユユイは目を覚ました。

 風かと思ったが、地面を踏みしめるような音がした。体を起こすと、人影がテントから出ていくのが見えた。


「だれ!?」


 はっとシノキスも目を覚ます。


「しまった! 無限袋が盗られた!!」

「ええっ!」


 ユユイは慌ててテントを飛び出し、人影を探す。

 どこにも見当たらない。


「くっ! まずい!」


 まだあと六日もあるというのに。

 食料を現地調達するにしても、志願者が11名もいる山頂では限界がある。

 

 短杖ワンドを取り出して、空中に向けて光の魔法を唱えた。

 

 打ち出された光の球で、山頂が明るくなる。

 茂みに潜んでいた盗人が、あぶりだされるように鮮明になった。


「こら! まて!」


 もう片方の袖から短杖を取り出し、水の魔法で早撃ちする。連射した一発がくるぶしに当たり、盗人は藪のなかに転がった。


 ユユイは杖を片手に藪に入ると、狩人ハンターの格好をした志願者が両手をあげて、降参の格好をしていた。


 どうやら狩人ではなく盗賊シーフだったみたいね。

 袋から物資を出して料理しているところを見られてしまったのね……。


「無限袋はどこ!」

「……ここだ。返すから勘弁してくれ」


 立ち上がった盗賊は無限袋をユユイに渡す。

 すると、茂みの暗闇からもう一人の盗賊がユユイに飛びかかってきた。


「杖を奪え!!」


 油断したユユイは杖を握られて、発射した水の魔法は夜空に消えた。

 

 片手からもう一本の杖を出して魔法をお見舞いしようとしたとき、杖を握っていた盗賊の体が突然宙に浮かんだ。


「なっ……!!」


 持ち上げたのはエントデルンだった。

 ユユイは杖を放すと、盗賊はまるで猫のように持ち上げられて、もう一人の盗賊に投げつけられた。


「ぐわっっ!!」


 自分と同じ重さのものを受け取って、耐えられず、また地面にたたきつけられる。

 二人は頭を打ち付けたようで、失神してしまった。


「助かったわ。ありがとう」


 取り返した無限袋を持ちあげて、ユユイは礼を言った。


「礼には及ばない。仲間だからな」


 エントデルンは男をつまんだときに取り返した杖をユユイに渡した。


「素晴らしい反応だった。さすが『小太鼓叩きの黒魔法使い』だ」

「うっ……」


 ダサい通り名がエントデルンにまで……褒め言葉よね、きっと。


「あ、ありがとう」

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