第5話 過去の勇者師団

 重騎士のフル装備の男と、白髪の大男は互いに向かい合ったまま、ほとんど動きがない。


「このまま殺し合いを始めてもいいぞ。もしくはレスリングのように相手の背後をとるか、殴り合いのように失神するまでとするか。好みのやり方を選んでくれ」


 楽しむように白髪の大男が決闘のいくつかの条件をあげる。


「じゃ、じゃあ……殴り合いで失神するまでだ」


 重騎士の男はそう答えた。

 

 それはそうだろう。

 あごがガードできる立て襟のような鎧だし、素早い動きのない殴り合いがずっと重騎士にとって有利だ。


「よかろう。わしの名はエントデルンだ。おぬしの名は?」

「ランブルライト……だ」


 それを聞いていた金髪の男が、首を傾げた。


「エントデルン……? ん……エントデルン……! まさか、勇者の!」


 重騎士もハッとして、エントデルンと名乗った白髪の男をじっと見つめる。


 エントデルン……第33勇者師団の勇者。

 竜族と人間の混血。

 肌がつるつるしていたのは、たぶん竜族に見られる鱗化ね。


「ち、ちょっと待ってくれ……整理するから」


 手を広げて重騎士はストップの合図をだす。

 金髪男とコソコソ話をしたあと、ゆっくりと道をあけて、土下座した。


「すみませんでしたー! この鎧はやっすい木製の鎧です。勇者師団の重騎士というのも嘘です。すみませんでしたー!」


 二人の男は揃って頭を下げた。


「ぬお、そうなのか? なるほど、知的戦略というやつだな。完全に騙されたわ。本気で正拳突きして、体ごと貫くところだったわ」

「ひい……」


 慌てふためきながら、重騎士はニセの鎧を脱いだ。

 冷や汗を拭うエントデルンは冗談で言っているわけではなさそうだった。


「危ないところだったな、やはり詐欺師というのは、本当に頭の回転こそが命運を分けるものだなあ」


 エントデルンは妙に得心しながら、岩間の一本道に入っていく。ユユイたちもエントデルンに付いていき、土下座の二人を尻目に先に進んだ。



 なんとかユユイたちは夕方までに頂上についた。

 頂上は台地のようになっており、膝ほどまで伸びた雑草地帯が家一軒分ぐらいあり、その先に大きな岩がゴロゴロした岩場のエリアがある。

 岩場には枯れ木が二本生えているのがかすかに見えた。

 

 王国の紋章を付けた騎士団長のカインが、第一関門を突破した志願者を確認している。


「うーん。予想より少ないな」


 ユユイは頂上を見回した。

 たしかに、頂上には数十名しかいない。

 たぶん、様子見だけで志願した者がほとんどだったのだろう。事前に試練があるということは知らされていないし、調査隊が組まれることも初めてだったからだ。

 

「よーし。日が暮れたので、いま頂上にいる志願者が第一関門突破だ! おめでとう!」


 パチパチパチとカインは手を叩いた。その音を聞いて、第一関門を突破した志願者たちが、カインの前に集まった。


「では、ここから調査隊選考の第二関門、一週間のサバイバル生活に入る。……とはいっても、じつは第三関門のワイバーン討伐までここで行うことになる」

「なるほど。ここは、ワイバーンの巣なんだな?」


 エントデルンの言葉にカインはうなずいた。


「そのとおり、およそ一週間後、巣に戻るワイバーンを倒してもらう」

「話の腰を折るようで恐縮だが、ワイバーンを倒した人が調査隊に入れるのか? みんなで協力して倒すのもありなのか?」


 シノキスがハンカチで汗を拭いながら質問してきた。


「もしワイバーンを知っていれば、そんな馬鹿な質問はしないはずだ」


 カインの回答にカチンときたシノキスは下唇を噛んだ。


「ワイバーンは強力なモンスターだ。協力して戦わないと、食い殺されるだろう。私は遠くから戦闘の様子を観察して評価させてもらう」


 カインは志願者たちを置いて、頂上から姿を消した。

 残された志願者は11名だった。

 戦士っぽいのもいれば、魔法使いや狩人ハンターっぽいのもいる。


 テントの場所を確保するため、原っぱと岩場の間の平坦なところにユユイは移動した。


「さて、ここがいいかしらね。シノキス、テント出して」

「承知しました」


 無限袋に手を入れて引っ張ると、テントの部品が出てくる。

 

 なかなか便利な奴ね。……まあ、私が買ったテントなんだけど。そして便利なのは魔道具なんだけどね。

 

 テントを組み終えたあと、中に入って横になる。すると、あとからシノキスもテントに入ってきた。

 

「僕も横になろうかな。気になるようなら、ここにローブを掛けようか」


 二人で組み立てたテントだから、まあいいでしょう。図々しいけどね。

 ユユイは横目でシノキスを見ながら、軽くうなずくと、シノキスはテントを二つに区切るように、目線の高さに紐を張り、ローブを掛けた。

 

 こういう気遣いが女心をくすぐるんでしょうな、きっと。まあ、私のテントなんだけどね。

 そう思いながら、ユユイはしばらく休憩をとった。

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