第43話 お嬢様は嫉妬したい
「えー、本日は我が高校の体育館から、バスケ部の練習試合の様子をお送り致します。解説は南条麗華さんをお迎えしております。麗華さん、本日はよろしくお願いします」
「はーい、解説の麗華でーす!って誰に向かって実況してんの?周りから見たら不審者だから辞めなさいよ」
「なんとなくやりたくなっただけだ。気を紛らわせないと暑くて死んじまう」
「大げさねぇ。体力つけなさいよ」
「いや、ただでさえ暑いのに体育館とか蒸れて地獄だろ。よくこの中で運動なんて出来るよな」
「麗華の言う通りよ。明日は運動しに行きましょ」
俺と麗華に挟まれている美雨まで参戦してくるが、断固お断りだ。せめてもう少し涼しくなってからにしてくれ。
今日は涼が所属するバスケ部の練習試合だ。大会は日程的に応援行けなかったからせめて練習試合くらいはと来たんだが......。
体育館はクーラーなんて無いからまさに地獄だ。2階から見ているだけでも選手たちの熱気が伝わってくる。
「——涼が味方を利用してピック&ロールで相手を翻弄してシュート!よし!決まった!」
「豚がシューロールを食べてどうしたって?」
「
「んな事言われても専門用語なんて覚えてねぇよ」
中学の頃は試合を見に行くと麗華が隣で解説してくれたが、半分くらいは聞き流してたし覚えていない。
またも涼が攻めていくが、相手も点を取られないように必死だ。涼が止まった瞬間にシュートさせまいと相手選手が手を伸ばす。が、涼は後ろに跳びながらもシュートを放ち、見事決めてしまった。
「おお、すげえな。アレなんだっけ。フェ......フェードアウト?」
「フェイダウェイな。勝手に選手消すなや」
「似たようなもんだろ。もっかい見たいな、フライアウェイ」
「フェイダウェイって言ったよな?聞く気ある?」
「......怜央と麗華って仲いいのね」
麗華と遊んでいると、美雨が割り込んできた。少し頬が膨らんでいる気もする。
「そうか?中学の時からこんなもんだぞ。まぁ俺にツッコミを入れてくれる貴重な人材ではあるな」
「勝手に漫才コンビにすんなや。私には涼っていう大事なパートナーがいるんですぅ!」
「涼じゃツッコミ力不足じゃないか?それじゃ天下は取れないぞ」
「だから漫才やらねえって言ってんだろ。美雨、安心してね。怜央を取るつもりなんかこれっぽっちも無いから」
「分かってるわ」
取るも何も俺は美雨の物じゃないんだよなぁ。美雨も分かってると言いつつ俺の腕に引っ付くのやめてくれない?
時折麗華の解説を挟みつつ3人で騒いでいると、いつの間にか試合は終わっていたようだ。涼の活躍もあって無事に勝利してチームメイトと喜びを分かちあっていた。
と思いきや、全員がこちらを向いて「あざっしたぁ!!」と礼をした。え、なに怖っ。大して応援もしてないんだけど?
対戦相手の人たちも何事かと見てきて恥ずかしいので3人揃って下に降りると、涼が近寄ってきた。
「応援ありがとな!」
「それよりさっきの礼はなんだよ。いきなりすぎてビビったぞ」
「いや〜、それがさ......楠が見てると知ったらみんなテンション上がっちゃってさ。俺たちが勝てたのも女神様が見ててくれたからだ〜とか言い始めてそれで......」
「へ〜?女神様だってさ。良かったな」
隣をチラッと見ながら揶揄ってみると、美雨はサッと俺の背中に隠れてしまった。いや、隠れるのはまだいいとしても俺の背中殴らないでくれる?
「お、噂の女神様じゃーん!」
「女神様のおかげで勝てました!あざす!」
涼のチームメイトが近づいてくると、美雨は完全に俺と同化してしまった。
「あー、悪気はないんだがそう呼ばれるのは恥ずかしいらしい」
喋らない美雨の代わりに弁明すると、背中にドンドンと衝撃が伝わる。それ、肯定なの?否定なの?つーか俺の背中は楽器じゃないからやめろな?
「ほ〜ん?なになに、女神様って佐藤と付き合ってんの?」
「えっまじ!?」
「付き合ってねぇよ。友達だ、友達」
だから背中叩いて会話するんじゃねぇっての。何か言いたいならちゃんと喋れ。
「でも友達でも羨ましいわ。俺たちなんか話すことすら無いからな〜」
「ホントそれな。ていうか普段と雰囲気違くない?もっと近寄り難い感じじゃなかった?」
そういえば忘れてたけど、美雨は学校だと仮面被って他人を寄せ付けなかったんだっけ。こいつらは同学年だけど違うクラスだから俺と美雨が一緒に飯食ってるのも知らないのか。
俺にとってはすでにそうであるように。美雨にとっても素でいることが当たり前になっていればいいんだがな。
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