完璧と噂のお嬢様、プライベートは常識知らずのポンコツです。

もやしのひげ根

第1話 お嬢様・楠美雨



「——好きです!俺と、付き合ってください!」

「......えっと、気持ちはうれしいんだけど......私、好きな人がいるの。ごめんなさい」

 

 粉砕!玉砕!だいかっ——いや、やめておこう。変な人が来てしまいそうだ。

 とまぁ、こうして俺の片思いはあっさりと打ち砕かれた。

 

 

「はぁ~~~~~~」

「目の前でクソでかいため息をつくな。空気が濁る」

「いいだろ別に。つーか、お前が告れなんて言うからこうなったんだろうがー」

 

 俺の目の前でパタパタと手を振って濁った空気を循環させようとしている、爽やか王子こと茂木もてぎりょう

 中学からの親友であるこいつに「気になる人がいるかも」と相談したら、「よし、告れ!」なんてアドバイスといっていいのか分からないことを言われて見事に砕け散ったのだ。

 真に受ける俺も俺だが、今なら諦めもつくし良しとしよう。

 

「いいよなぁ、お前は。毎日彼女とラブラブだもんなぁ」

「まーな!いいぞ~彼女は。人生も心も豊かになる!お前もさっさと作れよ!そしたらダブルデートしようぜ!」

「さっさと作れたら苦労しねえわ。お前みたいなモテ王子と一緒にすんな」

 

 ダブルデートをしたいがために俺をけしかけた可能性まであるな。

 

「ははは、そんな褒めるなって。でも意外だったなぁ。てっきり玲央れおの好きな人ってくすのきのお嬢様だと思ったんだけどなぁ......」

 

 皮肉を言っても通じない。こういう爽やかさがモテる秘訣なのだろうか。

 そんな友人につられて教室の中心に目を向けると、そこには今日も多くの人に囲まれている一人の少女、くすのき美雨みうがいた。

 日本人でありながら金髪碧眼。先祖に海外の血が入っていて、それが濃く出たとかなんとか。

 身長は160cmほどで、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込むモデル顔負けの体型。まぁ女子の噂だし男子は見たことないから本当か知らんけど。

 容姿端麗、成績優秀、文武両道、品行方正、おまけに社長令嬢。その全ての言葉が彼女のためにあるのではないかというような人物。

 

 

「まったく、生まれながらにして勝ち組の完璧超人。天から二物も三物も与えられて人生楽しいんだろうなぁ。誰もが羨むお嬢様はよ」

「......そうかなぁ。少なくとも俺は羨ましいとは思わないかな。本当に人生が楽しいって心から思ってたらもっと笑うんじゃねえかな。ほら、毎日が幸せな涼みたいにさ」

 

 そう、彼女は笑わないのだ。

 愛想笑いくらいはするが、声を上げて笑う姿を俺は見たことが無い。

 お嬢様だからそんな下品なことはしないだけという可能性もあるが、そんな姿がどこか無理をしているような気がして窮屈に見えてしまうのだ。

 

「ま、そうかもな~。あ、そうそう聞いてくれよ。今週末はさ——」

 

 涼を例えに出したのがまずかったのか週末のデートプランを聞かされる羽目になり、俺は人だかりから目を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 朝起きて学校へ行き、授業を受けて帰ってダラダラゲームをして寝る。それを繰り返すだけの毎日。まさに庶民代表っぽい生活だ。

 彼女でもいればまた違うのかもしれないが、その希望すら潰えた。


 今日もまたいつもと同じ1日が始まる——はずだった。

  登校した俺の前にあるのは下駄箱。しかしその中に上履きと一緒に見慣れないものが入っていた。

 

「......手紙?」

 

 

 何これ?果たし状?ラブレター?俺なんかに......?ああ、そういうことか。

 封筒の中にもう1通手紙が入っていてそっちが本命。それを涼に渡してくれってところか。

 はぁ。あいつ彼女いるのになんでモテるんだよ。いや、モテるから彼女出来たのか?

 気が重いが差出人に返さなきゃ......と思って裏を見るも差出人の名前は書かれていない。

 このまま教室に持って行って涼に見られるわけにはいかないし......と、トイレの個室に駆けこんで鍵を閉める。

 覚悟を決めてそーっと封筒を開ける。

 中には手紙というか紙切れが1枚のみ。......あれ?涼宛のラブレターは?

 その紙には、綺麗な字で『放課後、屋上に来るように』とだけ書かれていた。

 ん?なんだこれ?屋上に呼び出してそこで涼宛のラブレター渡してくるのか?それとも恋愛相談か?

 つか来るようにってなんで上から目線なんだよ。何様なんだよ。

 

 いいだろう。俺の名前は書いてないし見なかったことにしてもいいんだが、一言言ってやろうじゃないか。

 

 

 

 

 

 放課後を待って、部活に行く涼を見送ってからこっそり屋上へ向かう。

 少し重たい扉を開けるとそこに立っていたのは、あのお嬢様——楠美雨だった。

 

「やっと来たわね。私を待たせるとはいい度胸じゃない」

「......その反応は相手を間違えた、とかじゃなさそうだな」

 

 何様だよってまさかお嬢様だったとはな......。

 

「で、何の用だ?」

 

 まさかこのお嬢様が涼のことを......?いやそれはないか。話しているところすら見たことないし。

 

「あなた、昨日のお昼休みに私のこと話していたでしょう?」

 

 げっ、聞こえてたの?地獄耳かよ。

 え、俺どうなっちゃうの?退学?まさか沈められちゃうの?この歳で海の藻屑と化しちゃうの?

 

「そんなに怯えなくてもいいじゃない。別に怒ってないわよ」

 

 それ、実は怒ってる人がいうやつじゃないの? というか怯えるなって方が無理だろ。

 楠といえば、知らない人はいないというほどの超巨大グループだ。そのトップの娘に呼び出されれば誰だって怯えるっつーの。

 なんでそんなお嬢様がこの学校にいるんだか。お嬢様専用学院とかないの?

 

「まぁ、どうしても謝りたいっていうなら、許してあげないこともないけど?」

 

 ほら、やっぱ怒ってんじゃねえかよ。

 

「申し訳ありませんでした!」

 

 腰を90度に折って頭を下げる。俺は庶民代表だからな。ここは素直に謝っておくに限る、

 

「言葉だけの謝罪なんていらないわ。......ひとつ、教えてほしいことがあるの」

 

 理不尽の権化かよ。って教えてほしいこと?お嬢様が、庶民の俺に?

 

「なんでしょうか」

 

「——ねぇ、恋ってなにかしら」

 

 







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新作です。ラブと米とシリアルを混ぜ込んだ作品を書いていきますので(なんか違う)、フォロー・☆・♡で応援いただけると幸いです。

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