第9話 アリサの適性魔法の正体は。

 城の中は静かだった。


 誰もいない、そう思わせる静寂さ。


 今王城に忍び込めば、眠れるお宝を盗み放題。


 盗賊は考えるだろう。


 階段を登る。


「お母様?」


 一段、また一段登るごとに母、マーレの顔は緊張していた。

 アリサを握る手も無意識に強くなっている。


「い、痛いです」


 我に返り、手を離すマーレ。


「ご、ごめんなさい......アリサ、大丈夫?」


「はい......」


 アリサは先程まで握られていた手を後ろへ。

 見えないように回復魔法を発動した。


 若干、赤くヒリヒリしていた痕は綺麗さっぱり無くなっていた。


「お母様、具合が悪いのなら。今日は帰りませんか」


 流石に見過ごせない。ここまで衰弱している表情を出すお母様。


「わたくしは大丈夫です」


 アリサの目線に合わせるマーレ。


 アリサの手がマーレの両手に握られる。


「良いですか、アリサ。決して貴女のせいではありません。どんな未来になってもわたくしたちはアリサを見捨てません」


「............はい」


 お母様の言っている意味が分からなかった。


 歩き進めると豪華な装飾がある大扉が目についた。


 中に入ると、玉座に座る髭を生やした白髪のおじいちゃんがいた。

 隣には......多分、若い女性だと思う。


 胸がデカい。太ももが太い。ウェーブのかかった髪は艶がいい。女性でも見惚れる魔性。見た目は女子高生と見間違える女性。でも、雰囲気や所作は年齢を重ねた大人の女性だった。纏っている魔力も練度が高い。師匠と同等かそれ以上の実力者。


 美魔女ってやつなのかな〜


「久しいな。マーレ」


「ご無沙汰しています。ゼウス様。ユノ様」


 白髪のおじいちゃんことゼウス・フォルゴレ。この国の王様。

 隣にいる女性はユノ・カサミエント。ヘスペリデス魔法学園の理事長をやっている有名な人物だった。


「私に継承は要らないわよ。マーレ」


「一応、国王の御前ですし」


「なら、昔みたいに”先輩”と付け加えてもいいわよ」


「昔、”先輩”と言ったら殺されかかった事があったので。遠慮しておきます」


「あれは、何処かの小生意気な後輩ちゃんが、敬称と一緒に私の年齢を暴露したからでしょう」


「なんのことか。マーレには分かりかねる内容です」


 不敵に笑い合う両者。額に手を当てるおじいちゃん国王。


「ゴホンッ!」


 咳払いが一つ。


 黙るお母様とユノ様。


「まずは、良くきてくれた。で、その子が」


 ゼウス王がアリサを見る。嬉しそうな顔、優しい瞳だった。


「はい。アリサ、ご挨拶」


 カーテシーを行う。片足を斜め後ろの内側に引く。もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばす。目上への者に対するあいさつ。


「お初にお目にかかります。アリサ・カエルムです」


 白銀の髪が靡く。碧色の眼は国王に向けられた。

 笑顔だった。王様がアリサを見る表情は孫に向けたものと似ていた。


 アリサはユノに連れられる。

 テーブルの上には水晶が置かれていた。


 教会で見た水晶と同じだった。


「結構、大きいんですね?」


 教会に置いてあったのは、ソフトボールサイズ。しかし、アリサの前にはハンドボールサイズの水晶。


「では、アリサさん。水晶に手を置いてください」


 アリサは手を置いた瞬間に、白い光が部屋を満たす。

 回復魔法を使った時と同じ魔法発動を示す眩い光。


「おぉ!」


 光は止む。水晶の内部が白いモヤ。内部を漂うモヤは生きているみたいだった。

 ユノは水晶を持ち、王様のところへ。

 神妙な面持ちだった。


 アリサの魔法適性が分かるや、ゼウス王は額に手をやる。

 深刻さがアリサにも伝わる。


 ユノが説明し出す。

「アリサさん。貴女の魔法適性は”回復魔法”」


 私はほっとした。師匠も私の魔法適性は”回復魔法”と教えてくれた。

 これで、実は別の適性があったなら、師匠の家でも壊そうと考えたほどだ。

 あとは、家族に真実を話すだけか。もう少し、鍛えてからお披露目しようと計画していたけど、仕方がないか。


 アリサは有頂天だった。対照的にアリサ以外の顔は青ざめていた。


 ユノの言葉が吃る。

「アリサさんの魔法の波動は......聖女と同じです」


 うん? 聖女......誰それ??


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訳あり令嬢 〜聖女に転生した元魔法少女、筋肉や物理攻撃の力技に興味を持つ! 麻莉 @mariASK

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