土の記憶(上)【旧石器時代歴史怪奇小説・短編】
柿倉あずま
第1話 序
或る晴れた休日。折り重なる山々の麓に有る電車駅を降りた俺(駿河台辰実・獣医師・30歳)は、駅舎の前を横切る二車線の道路を下って、駅からだと見下ろす位置に有った川も横に見るようになった所に有る、例の男の宿泊している旅館に至った。
二車線道路から、木の塀で囲われた旅館の敷地内に脚を踏み入れる。普通乗用車10台程駐車をできる砂利の庭の奥に、小高い山を背景に、二階建てで木造の、茶と黒を基調としたシックな建物が佇んでいる。
先日、俺の暮らす田舎町(ここから電車を乗り換えつつ1時間程の所に有る)にて、奇妙な生物の目撃談が有った。目撃談と言っても、世間にもその田舎町にも有名な話しではない。俺独自に本屋の万引き事件を捜査で、本屋向かいの家に住む小学生に話しを聞いた時の証言だ。万引き事件が有った日に、本屋からゴリラ人間が数人出て来たの言うのだ。小学生の横に立っていた両親は、小学生はその日風邪のせいで熱を出していたので、勘違いだと思うと釘を刺してきた。ただ小学生は、両親からスマホを借りて検索して、一つのイラストを俺に見せて「この絵にそっくりだった」と言った。その絵は「INBOU」というサイトのもので、俺より先に万引き事件を独自捜査していたスタッフが小学生に対して「こんな生物ではなかったか」と紙のイラストを見せて来たものが、数日後こうしてサイトに掲載されたのだ。
それから俺は、「INBOU」に万引き事件を調査する町の獣医師としてコンタクトを取った。本日、この旅館にて、取材班兼イラストレーターの男と会うこととなった。砂利道をじゃりじゃり言わせつつ、重厚感有る玄関に至った。
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