特別

いつもより長め。

曖昧表現の限界に挑戦。きっとこれくらいなら許される……よね?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「いよいよ明日かぁ」


「そうですね、意外とワクワクしてます」


ついに明日は待ちに待った……と言うほどでも無いけれど、楽しみにはしていたコラボ枠争奪杯の開催日だ。


V人生初となる大規模イベントの主催を務める事への緊張と高揚。人と関わることをやめたからこそ知り得なかったイベントの熱を初めて知った私は少しばかりソワソワしていた。


優勝者3名とコラボをしなくてはならないと言うのは少々……いや、かなり憂鬱ではあるが自分でうだうだと悩んでいるよりかは幾分かマシだろうと結論付ける。


明日のことに思いを馳せていると不意にお腹に回された腕にギュッと力が入る。


「陽菜?」


後ろから私のことを抱きしめている陽菜は黙ったまま体を密着させてくる。


「……雪はさ」


「うん?」


「コラボ楽しみ?」


「いや、全然ですけど。むしろ憂鬱です」


正直に心の内を明かす。コラボしたいって思ったのは陽菜だけでそれ以外の人と積極的にコラボがしたいなんて思っていない。今でも勢いで他の人とコラボするなんて言ったことを後悔している。


「……私だけだよね?全部、何もかも私だけ……そうだよね?」


「どうしたんですか?何か嫌な事でも?」


「いい、なんでもないや。あぁ〜キャラじゃないなぁ……今の忘れてね!」


声色は明るい。……だけどそれはいつもの明るさじゃない。無理やり、絞り出すような明るさだ。


きっと……なにか無理をしている。


「ねぇ、陽菜。ちゃんと話してくれないと私、分かんないです。不安な事とか、気に入らないこととか。全部話して欲しいです……」


「あはは……ごめんね、こんな私で。なんか良くない時期なのかなぁ……病み期?とにかく気にしないで〜!」


「……話さないならもう家に入れてあげません。鍵返してください」


「え!……それは、困るなぁ」


こんな弱った陽菜を見るのは初めてでどう対応すればいいのか分からない。だから私なりの対応をさせてもらおうと思う。


「ほら、鍵出して下さい。それに、いつまでくっついてるんですか。離れて下さい」


「ねぇ、話す、話すから。そんな酷いこと言わないで……」


「全く……私も言い過ぎました。どんな事でも話して欲しいんです。だから……信用してください」


くるっと体を回転させて陽菜を抱きしめる。突き放すという行為は陽菜にとって、かなりのダメージを与える様だ。それは私と一緒にいたいって気持ちを表しているように見えて少しばかり嬉しかった。


「あのさ、私、雪が色んな人とコラボするのが……不安なの。もっと言うと……嫌なの。

絶対にないってわかってるけど、雪が私を捨てて他の人のとこに行っちゃいそうで……私以外の人と仲良くなったら私は……もう、要らないかもって……」


「……陽菜は私の事をあんまり理解してないみたいですね」


「え?」


「私、言いましたよね。信じるのが怖いって。裏切られたくないって。私は今までにそれを嫌になるほど受けてきてるんですよ?それを他の人にするとでも?する訳ないじゃ無いですか!陽菜は……たった1人の大切で、特別な人です!手放すわけないじゃないですか。こう見えても私、独占欲ありますからね!陽菜が他の人とコラボしてる時はモヤッとしますし、なんだろうこの気持ちって思ってました。


やっと気づけた。陽菜は私にとって何にも代えがたい特別な人です!陽菜が居なきゃ、私またひとりぼっちなんですけど。嫌ですからね!ちゃんと最後まで面倒見てくださいよ!責任とって下さいよ!ずっとそばに居てください!」



知ってる。この気持ちは……
















そういう感情だ。長らく忘れていた感情。


思い出させてくれた。辛く苦しい思い出しかないけど私は陽菜に恋して良かったって思う


「うん、うん!ずっとそばに居る!私も、雪がいちばん特別な人……いちばん大好きな人だよ……!あぁ〜コラボ前に言えて良かったよぉ……ずっとモヤモヤしててさ……」


私達はどちらからともなく顔を近づけキスを交わす。こんな状況でするのは結婚式なんかでする誓いのキスのようでドキドキする。


唇と唇がくっつくだけの行為。人によってはそう捉えるかもしれないけど、私はただこれだけでとてつもない幸福感を得ることが出来る。


キスを続けていると少しずつこちらに体重を掛けてきて体が傾く。


……これは、もしかして?


「ん、ちょっと陽菜……?」


「雪は……どこまで許してくれる?」


そう言って私の背中とベットが出会うまで体重を掛けて押し倒してくる。


……もしかしなくても、そういう事?


「陽菜……陽菜はどこまで許して欲しいんですか?」


「全部。どこまでだって許して欲しい。特別なんだって印を刻ませて欲しい。深くまで雪を知りたい。だから……良いよね?」


ふふっと笑って一言。


「欲張りですね。でも……許してあげます」


その一言を皮切りに陽菜のスイッチが入る。

体を纏う邪魔な布を丁寧に、剥ぎ取ろうとする。


……え、これ、結構恥ずかいしんだけど


「ね、ねぇ。陽菜……?その、服着たまま……ってダメですか?」


「え?……逆にエロくない?」


逆にエロいの?ちょっとよくわかんないけど……


「恥ずかしいから、それでいいです」


「じゃあ、ブラだけ外していい?」


「まあ、そのくらいなら」


そう言うと服の中に手を入れホックを片手で外してしまう陽菜。


……なんか手馴れてない?


まだ何も始まってないのにも関わらず、胸のある一点が主張をしていて顔が熱くなるのを感じる。


絶対バレてるし……死にそう……


あえてそこには触れないような触り方に吐息が漏れる。じんわりと体中に熱が籠り息が乱れる。


乱れた息を整えようと呼吸を意識して行っているとそれを妨害するかの様にキスが降ってくる。


唇に、首筋に、鎖骨に、腕に、お腹に、太ももに。段々と下へ下へとキスが降りていく。


特別を体中に刻み込む。至る所に赤い跡が増えていく。特別なんだって思う気持ちと比例するように印が増えていく。

チクッとした痛みが幸せに変換されて頭を支配する。


気づけばキスは唇まで戻ってきており陽菜のスベスベとした右手はお腹の少し下に進もうとしていた。


「良いですよ……進んでも」


肌と布の隙間を縫って手が進んでいく。誰も触れることの無い場所に辿り着くとドロリとした物が手を汚す。


「ちゃんと感じてくれてるみたいで嬉しい」


妖艶な笑みでこちらを見下ろす眼差しには熱が籠っていた。


スラリと伸びる中指は私の奥深くを知ろうと進んでいく。たかが指1本。たった1本の指の動きに翻弄される私は何度も何度も、視界を白く染めた。

目の奥がチカチカとする。体に力が入らなくなるまで……特別な行為は続いた。


明日……配信出来るかなぁ


そんな一抹の不安を抱えて泥のように意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る