第4話 暗黒黒炎竜さんは見た目がロリ(ショタ)。


 俺は鏡の前の自分の姿を見て、装いをチェックした。


「なんとかなるものだな、色々……」


 俺は紛れもなく雄なのだが。

 なぜか声は女の子……というか声変わり前の少年のように高く。

 身長も小柄で華奢。ほんでもって長い紫髪のせいで大体100%娘に間違われる。


 なぜと言われても困る。

 人化の魔術を使うと、この姿になってしまうのだ。

 髪は切れば、もちろん短くなるのだが、普通の人の二倍ぐらいの速度でにょきにょき伸びる。

 そもそも髪を切った程度で誤魔化せるものでもなく。

 ショートカットの女の子と思われるだけだ。

 もう腹を決めてこの姿をしていた。


 あとエルフのような尖り耳。

 これもどうしようもない。

 なので、エルフの血が混ざっているらしい、と説明するしかない。

 これは全くの想定外なのだが、5年間この姿でいて全く成長しない容姿も「エルフの血が~」で勝手に言い訳がついた。



 俺の人化の術は、あるレベル以上の竜族には大体みんな備わっている能力だ。

 幻術ではなく、肉体そのものを人化している。

 そのせいでバレにくい(というかほぼバレようがない)メリットはあるが、性質上、細かく姿をいじれないのだ。


 もしかして見た目が幼いのは、俺がドラゴンとしてそれぐらい若いってことか?

 精神年齢を参照してくれないか?


 鏡に映った姿は胸がぺったんこなこと以外は華奢で小柄な少女で、動きやすいボトムスとチュニックを着た姿は、無念な事に、最強最悪で凶悪で邪悪な黒炎竜という俺様の真の姿と真逆のものだ。

 まぁいい。

 真の姿、真の力を見せたところでギャップでおののく姿を見るのも小気味いい。


「レーヴァ、まだ準備できないの?」


 と。

 扉のむこうから声が響く。

 声の主は俺の見知った少女。

 ネーヴェだ。


「今いくよ!」


 扉を開いた先には、15,6ぐらいの可憐な娘。

 ネーヴェの姿があった。

 女性の割に上背がありスタイルもいい。隣にならばれると俺が小さく見えるのだが、一緒に行動することが多すぎて慣れすぎた。

 彼女とは旧知の仲で、もう3年ほどの付き合いがある。

 人間の一日は目まぐるしく、ドラゴンの時のそれを忘れるようだ。


「……」


 ネーヴェは、俺の姿をねめつける様に目を細めて、じっと上から下まで見てくる。


「? なんだ?」


「いや……。君との腐れ縁もここまで続くなんてね」


「何を言っているんだ? 俺たち二人とも騎手を目指していただろう?」


「そうね……。ああ、出会ったころのことを思い出すとイライラが……」


「まだそれが尾を引いているのか? 言っておくけど勘違いしたのはそっちだからな!」


「それはそうだけど……」


 俺とネーヴェの出会いは、アカデミーの中等部で同じクラスになったことだ。

 席が近く、互いにユニコーンナイトの騎手を目指しているということで意気投合。

 ネーヴェはお金に困っているということで、ルームシェアする相手を探していたそうなのだ。

 俺は別にお金には困っていなかったけど(巣の中にあった金銀財宝の一部を換金した)。

 住所変更の手続きもろもろの人間の作業が面倒くさく、宿暮らしを続けていたのだ。

 ネーヴェが代わりにしてくれるとのことで、むしろ頼み込まれて、彼女とルームシェアして暮らすことになったのだ。


 だがネーヴェはれっきとした女の子で、俺はこんな見た目だが男。

 ネーヴェは、俺が女の子だと勘違いしてルームシェアを提案してきたのだ。

 ルームシェアしてすぐにネーヴェは勘違いに気づいたが、荷物も移動させてキャンセル料もつくということで、部屋にタオルの仕切りを作って妥協し、滅茶苦茶警戒されながら共同生活することになった。

 まあ俺は最強最悪で凶悪で邪悪な黒炎竜様だ。

 人間の女に欲情することはない。

 その内ネーヴェも警戒を解いて慣れてしまって、俺の前を下着姿で素通りするなどの無防備な姿をさらすこともあった。


 そしてユニコーンナイトの騎手の養成クラス。通称、白騎士科。

 2人揃って加入が認められて、貧窮していたネーヴェも奨学金を得て、春ごろから隣の部屋を新たに借りたということだ。


 説明不要かもしれないが、ユニコーンナイトの騎手──通称ホワイトナイトは、国防の要であり、男はもちろん、女の子にも人気な憧れの職業ナンバーワンだ。

 待遇がいい代わりに選ばれるのはもちろん狭き門。

 まあ最強最悪な俺様は何の心配もしてなかったが、ネーヴェは2人揃って加入が認められるか不安だった様子で、相当努力していた。

 横で呑気に居眠りする俺をやきもきしながら見ていた様子だ。


 なんでネーヴェがそこまでホワイトナイトを目指すのか、聞いても彼女は言葉を濁すし、俺も気にしてなかったけど。

 2人揃ってホワイトナイトの候補生になれたんだからいいんじゃないか?

 候補生になれただけで、一番の難関は突破したと言ってもいい。


 訓練やらなにやらまだ試練はあるわけだけど、基本的に真面目に授業を受けていて変な賞罰がつかなければそのままホワイトナイトになれるという。

 後は白騎士科で、序列何位で卒業して、どこに配属されるかだ。

 まあ俺は、ユニコーンナイトのノウハウをパクって、ある程度の目途が立ったら、とんずらするつもりなんだけど。




「それじゃいこっか」


「うん」


 ネーヴェにうながされて階段を降りる。

 俺たちが借りたのは主に学生用に貸し出された部屋で、中央がふきぬけとなっており、一階には食堂がある。

 量と味付けが濃く、そして安い。

 大食らいの俺も、食費を浮かしたいネーヴェも、いつも助かっている。


「お! お二人さん! 今日も一緒だねぇ!」


「マスターさん」


 食堂の管理者兼、宿の管理人も務めるエルムドじいさんが声をかけてきた。


「いやぁ、俺も鼻が高いねぇ。安さしか売りがない俺の宿から、2人もホワイトナイトの候補生が出るなんてさぁ」


 エルムドじいさんは、芝居臭く涙ぐむ。

 いや芝居じゃなくて本当に泣いている。

 年を取ると涙腺が緩くなるとか本人が言っていたなぁ。


「その言葉は後でとっておいてよ。あたしたちが主席と次席で白騎士科を卒業するまでさ」


「お! いいね! ネーヴェちゃんのその威勢の良さ!」


 ネーヴェは見た目の割に性格が勝気というか。

 時々こういう強気な発言を出す。

 ただ一緒の部屋で共同生活をした俺には、それは彼女なりの強がりで、自分に発破をかけるためのものだと理解している。

 ふ。ドラゴンである俺と違って最強最悪でない人間なりの瘦せ我慢ということだ。


 なお中等部の卒業成績はネーヴェが主席で次席が俺でした。

 だって実技はともかく座学が面倒なんだもの……。


「それじゃあいってらっしゃい! 2人とも!」


「うん、いってくる! じゃあね、マスター!」


「いってくるぜ~」


 無言なのもあれなので俺もエルムドじいさんに手を振る。


 俺たちの姿が遠くなったところでぼそりと、エルムドじいさんが呟く。

 その声は人間のネーヴェには無理だが、ドラゴンである俺の耳には届いた。


「ネーヴェちゃんはめっちゃ頑張っていたからわかるけど。あの不思議ちゃんなレーヴァまでホワイトナイトになるなんて、驚いたな」


 ふ。

 俺は世界で最強最悪で凶悪で邪悪な黒炎竜。

 見た目では測れない力があるのさ!

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