ゴブリンよりドラゴンが下ぁ!? 落ちぶれ暗黒黒炎竜のやりかえし

はむら いおん

一学期編

第1話 暗黒黒炎竜さんは落ちぶれた。

 腹が減って適当に潜り込んだレストラン。

 場違いなことに、俺が普段利用するような大衆食堂ではなく、貴族たちの令嬢や豪商などが利用する、お洒落なちょっとしたサロンだったらしい。

 席についてから後悔した俺だが、お財布的には問題ない。

 見た目だけ華美で、大きな皿にちんまりとしか乗らない料理の数々を想像して嫌気がさしたが、ここで席を立つようでは、場違いに気づいた俺がアホみたいに尻尾を巻いて逃げ出したように見られそうで、いらいらとしながら給仕を待つことにした。


 そんな俺の後ろの席からは、ページをめくる音が響いてくる。

 何事かと聞き耳を立てていると、何かの書評らしきものが聞こえてくる。


「ドラゴン、ですか……。最凶の霊獣……。でもありきたりですわよねぇ」


「あはは、色んな作品で主人公の強さをアピールするために引き合いに出すものですから、私なんかはもう食傷気味でして」


「おほほほ。私なんか、騎士小説で初めてドラゴンの存在を知ったものですから、幼いころはゴブリンの方が強いと思っていましたわ」


「あははは、違いない。今はドラゴンよりも、ゴブリンやオークに苦戦する冒険者の方が、エンタメ的に盛り上がりますなぁ」


 それを聞いて我知らず……


「ドラゴンが、ゴブリンより下だと……!?」


 溢れる怒気が、怒声となって喉から漏れた。

 生憎、今の体では声代わり前の少年のような声しかでないのだが。


 俺はぐるりと背後を振り返る。


 俺の形相に驚いた様子で、見るからに仕立てのいいドレスを着た貴婦人や貴族服のおっさんが俺を見ている。


「お、覚えていろよぉ!」


 俺は精一杯の声を張って宣言すると。

 あとはいてもたってもいられず、レストランを飛び出した。


 今は幼い人間の姿に扮しているが、俺の正体──。

 それは世界で最強最悪で、凶悪で邪悪な黒炎竜。

 レーヴァニル・ドラグニル様だ。




 これは人間たちに駆逐され、ドラゴンなどただのモブに成り下がった時代。

 その中で俺が反旗を翻す、ドラゴンの汚名を雪ぐ反撃の物語だ。

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