昔、いたところ

あらいぐまさん

第1話 始まりの場所

 春の近づく中、痩せ気味の男は、紺のオーバーコートの襟を、引き寄せた。やがて来る、春の到来を、待っていた。

 その男は、精神障碍者である。


 男の精神病の症状はよくなったが、彼の抱えている内部障害や、世の中で、流行りだしたコロナの影響、離職期の長さ(加齢)の為に、一般就労と言う選択肢を選べなかった。


 精神障碍者が、生きていくには、家に籠るか、地活(地域活動支援センター)に行くか、ディケアか、作業所に行くしか、選択肢が無かった。


 アパートを借りている為に、病状が悪化して、病院に入院でもする様になったら、多額のお金がいる。そう考えると、ある程度の資金を蓄えていなければならない……。

 そして、彼には、創作した小説を本にしたいと考えているから、どうしても、多めの資金を持っていなければならなかった。


 この男の名は、石崎貫一という……。


 貫一は、3年前の1月に作業所に、通い始めた。

 そこは、銀の大きなガレージで、天板のない中央に店舗と作業場があって、両脇が、2階の作りになっている、変わった構造になっていた。


 そこでは、20名程の人数の精神障碍者が、忙しなく働いていた。その中に貫一の友達がいた。その男は、争い事を好まない、温厚な性格で、時々、どもってしまう、愛きょうのある人だった。


 その男の名を、大島裕司という……。


 裕司は、余り、ファッションには無頓着で、背格好は中肉中背で、服装は、毎日、ジャンパーに、ジージャンで、過ごしていた。


 ある日、貫一は、作業所に行く時に使う、送迎車に乗って、作業所に着くと、そこに、裕司がいることに気づいた。

 貫一は、裕司に声を掛けた。

 「おはよう」

 「こう、こう、貫一さん、おは……」

 「今日は、いい天気ですね」

 裕司は、コクリと、頷いた。


 裕司と貫一は、べったりという訳でもないが、程々の距離間を保って、長い付き合いを、続けていた。そんな中、貫一は、他の利用者の皆とは、あんまり、深い付き合いが、出来なかった。

 貫一は、孤独だった。

 

 皆、孤独なんだと知っているが、貫一は、自分の矜持を捨ててまで、その孤独を癒す事は、したくなかった。

 仲間は、買い物に走ったり、異性に走ったり、お酒に走ったり、ギャンブルに、突っ走る。

 彼らは、破産するか、家族が補填して、申し訳なさそうに、生きているようだった。


 貫一は、考えていた。

……お金を使わないで、この孤独を、どう癒していけばいいのか? ……

これは、彼が、何をして、それについて、どう思い、その結果、彼は、どう孤独を癒して、思い続けた自分の願いの結末は、どうなるのか? と言ったマイ・ストーリーです……。

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