第15話
涼介は防犯カメラの映像や出入り記録を確認しながら、事件の手がかりを探していた。その時、ふとした偶然から、氷室玲奈の過去に関する情報が彼の目に留まった。彼はすぐに香織に連絡を取り、その情報について共有することにした。
香織は玲奈の過去について聞き出すため、再び彼女との会話の機会を作った。玲奈は最初は躊躇していたが、香織の優しい励ましにより、徐々に口を開いた。
「玲奈さん、私たちが調査を進める中で、あなたの過去の患者に関する情報が出てきました。その患者さんについて教えていただけますか?」香織は静かに尋ねた。
玲奈は一瞬目を伏せ、深いため息をついた。「そのことについては、あまり話したくないのですが…」
「私たちは真実を知る必要があります。あなたの過去がこの事件に深く関係しているかもしれないんです。」香織は優しく、しかし真剣な表情で言った。
玲奈はしばらく沈黙していたが、やがてゆっくりと話し始めた。「実は、数年前に私が担当していた患者さんがいました。彼はとても重い病気で、治療法が限られていました。私は彼のために最善を尽くしましたが、最終的には助けることができませんでした。」
「その患者さんの名前は?」涼介が尋ねた。
「田中誠さんです。彼はとても優しい方でしたが、病気が進行するにつれてどんどん弱っていきました。彼の死は私にとって大きなショックでした。」玲奈の声は震えていた。
「その処方箋は、田中誠さんに関するものだったんですね。」香織は静かに確認した。
玲奈はうなずき、涙をこらえながら続けた。「はい、その通りです。彼の治療に使うはずだった特別な薬が記載されていました。彼のために準備していた処方箋が、何者かに盗まれたなんて…」
涼介は玲奈の話に耳を傾けながら、事件の全貌が少しずつ明らかになるのを感じていた。「玲奈さん、その処方箋が盗まれた理由について、何か心当たりはありますか?」
玲奈は深く考え込み、やがて目を上げた。「実は、田中さんが亡くなった後、その治療法についていくつかの議論がありました。彼の病気に対する新しい治療法が研究されていたのですが、その研究が中断されてしまったんです。」
「その研究が中断された理由は?」香織が尋ねた。
「資金不足と、研究者の間での意見の対立が原因でした。その後、研究は完全に止まり、田中さんの治療法に関する情報も封印されました。」玲奈は悲しそうに言った。
「もしかすると、その情報を狙って誰かが処方箋を盗んだのかもしれませんね。」涼介は推測した。
香織はうなずき、玲奈に感謝の意を伝えた。「玲奈さん、貴重なお話をありがとうございます。この情報を元に、さらに調査を進めて事件の真相を解明します。」
玲奈は涙をぬぐいながら言った。「お願いします。田中さんのためにも、真実を明らかにしてください。」
香織と涼介は玲奈の話を元に、事件の真相に迫るための新たな手がかりを追い始めた。彼らは田中誠の治療法に関する研究者たちに連絡を取り、その背景を調査することにした。
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研究者たちへの連絡がつくと、彼らの間での意見の対立や研究の中断に関する詳細が明らかになった。特に、永井浩一がその研究に深く関与していたことが判明した。
香織と涼介は再び永井に接触し、彼の過去の行動について詳しく問いただした。永井は最初は抵抗したが、最終的には真実を語り始めた。
「確かに、田中誠さんの治療法に関する研究に関わっていました。私たちは新しい治療法を模索していましたが、資金不足と研究者間の意見の対立で、研究は中断されました。その後、研究の再開を望んでいましたが、上層部からの反対に遭い、断念せざるを得ませんでした。」永井は深いため息をついた。
「その処方箋が盗まれたことについて、何か知っていることはありませんか?」香織が尋ねた。
永井は一瞬黙り込んだ後、重い口を開いた。「実は、最近になってその研究を再開するための資金が提供されるという話がありました。そのために、田中誠さんの治療法に関する情報が必要だったのです。しかし、その情報が手に入らずに困っていました。」
「つまり、その情報を手に入れるために処方箋を盗んだのですか?」涼介が鋭く問いかけた。
永井は目を伏せ、静かにうなずいた。「はい、その通りです。田中誠さんのためにも、研究を再開することが私の使命だと思っていました。だから、処方箋を手に入れるために、あのような行動を取ってしまいました。」
香織と涼介は永井の告白に驚きながらも、彼の言葉には真実味が感じられた。彼の行動の背後には、田中誠に対する深い思いと、治療法を確立するための強い使命感があった。
「永井先生、あなたの気持ちは理解しました。しかし、盗みは許されない行為です。この件について、病院と協力して適切な対処を行います。」香織は冷静に言った。
永井は深くうなずき、反省の意を込めて言った。「もちろんです。全ての責任を取ります。」
香織と涼介は事件の真相を解明し、処方箋の行方を追う中で、氷室玲奈の過去のトラウマと永井浩一の使命感が交錯する複雑な状況に直面した。彼らの冷静な判断と鋭い洞察力が、事件の真実を明らかにしつつあった。
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