港町事件簿 医療編 医療界にメスを入れる

@minatomachi

第1話

春の柔らかな日差しが北九州市門司港を包み込み、街の石畳に温かな光を降り注いでいた。歴史ある建物が並ぶこの港町には、どこか懐かしさと新しさが交錯する特別な雰囲気が漂っている。その中で一際目を引くのが、新しく開業した「白南風(しろはえ)病院」だった。ガラス張りのファサードは太陽の光を反射し、まるで新しい時代の幕開けを象徴するかのように輝いていた。


病院のエントランスでは、白衣に身を包んだ医師や看護師たちが忙しそうに行き交い、患者たちが順番を待っている。受付カウンターの向こう側では、スタッフが笑顔で患者に対応し、最新の医療設備が整った診察室へと案内していた。その瞬間、遠くから救急車のサイレンが聞こえ、緊急外来のスタッフたちが一斉に動き出した。


「急患です!23歳の女性、腹痛を訴えています!」


ストレッチャーに乗せられた若い女性、草野亜沙美(くさの あさみ)が搬送されてきた。彼女の顔は青白く、痛みと不安が交錯した表情が浮かんでいる。汗が滲み、手足が震えているのが見て取れる。救急医の羽田隆一(はだ りゅういち)がすぐに駆け寄り、冷静に彼女の状態を確認する。


「彼女の症状は?」羽田は救急隊員に尋ねた。


「突然の激しい腹痛です。救急車内で血圧が急激に低下しました。」


羽田は一瞬、眉間にシワを寄せた。彼の瞳には経験豊富な医師ならではの疑念が宿っていた。普通の腹痛ではない、何か別の原因があるに違いない。彼は緊張感を保ちつつ、亜沙美の瞳孔反応と心音を確認した。脈拍は非常に弱く、血圧は危険なほど低下している。冷静さを保ちながらも、心の中では何かが引っかかっていた。


数分後、緊急治療室での懸命な処置もむなしく、草野亜沙美は静かに息を引き取った。死因はアナフィラキシーショックと診断されたが、亜沙美の家族はその説明に納得できなかった。健康で明るかった彼女が突然命を落とす理由が、そんな簡単なものだとは思えなかったのだ。彼女の母親、草野美咲(くさの みさき)は絶望と悲しみの中で唯一の希望を求め、地元で評判の「三田村・藤田探偵事務所」のドアを叩いた。


夜の静寂が訪れた門司港の街。探偵事務所の中には、鋭い目をした三田村香織と、頼れる相棒の藤田涼介が待っていた。美咲の涙ながらの訴えに、香織は胸の奥に痛みを感じた。彼女の心には、かつて自身が味わった悲しみが蘇る。それでも、香織の眼差しには決意が宿っていた。


「お願いします、娘の死の真相を明らかにしてください。」


涼介は静かにうなずいた。彼の心にも同じ決意が宿っていた。二人はお互いに目を合わせ、無言のままに共鳴した。この新たな挑戦が二人を待ち受けている。そして、まだ誰も知らない暗い秘密が、この静かな病院の中に潜んでいることを、二人はまだ気づいていなかった。

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