僕が彼女を探す旅
K.night
第1話 嘘の街
できるだけ優しい言葉を取り出して、君の周りに飾りたいな。
いつか君が夜の中にいる時、光る星になるように。
嘘にならないように見つめているから。
だって、ここは嘘の街。嘘みたいに白く大きな塔が立ち並び、嘘みたいな人々が白い屍みたいに歩いている。僕も嘘みたいに軽い体をフワフワ浮かせて歩いている。この街はいつだって、空にはネズミが這っているかのように薄暗い。灰色の、嘘の街。
「大嫌いよ」
「僕も、大嫌いだ」
ここは嘘の街だから、恋人達は相手をいかに悪く言うかが愛の証になっている。そんな恋人たちがうまくいくはずないだろう。だって、君の鈴の音のように美しい声が大好きだ、は君に声はまるでヒキガエルが潰れたみたいな声だね、って褒めるんだから。
だからね、僕は君をただそっと抱きしめるんだ。君の心臓が僕の腕の中でトクトク鳴って、それこそが愛を伝えるなによりの証拠になるからね。言葉だって全て優しいものに変えるんだ。
「空が美しい青色をしているね」
「ほら、聞いてごらん、美しい音色が聞こえるよ」
そう君に言って聞かせるんだ。嘘の世界が優しくなるように。君の微笑みが嘘にならないように。白い壁にアイリスの花が描いてある嘘の扉を開いて、君が微笑む。
「今日も不機嫌そうね」
「通りに音楽隊がいたんだ。それがね、ロバとイヌとネコとオンドリが面白い楽器を奏でていてね。オンドリのあの長い筒。あれはいったいなんだろう。美しい音色だったな」
「それは面白くない話ね」
そう言って君は不機嫌そうな顔をした。それが何よりもの僕の嘘が君へ届いた証。
「今日はどんなことがあったの?」
そう聞く君を僕はそっと抱きしめる。嘘に嘘を重ねるよりも、きっと必要なことだから。
さあ、しゃべらないで。そっと口を閉じて。
この街は嘘、嘘、嘘。嘘を星のように飾り、集めて太陽にして、照らされるはずもないこの街をなんとか塗り固めていく。それが正しいなんてわからない。それが、嘘の街だから。君のぬくもりがわからなくて、目が覚めた。
『探さないでください』
そう書いた白い紙切れ1枚残して。ここは嘘の街。嘘、嘘、嘘。
だから、僕は君を探す旅にでた。
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