ありふれた手記

Nova

第1篇「観賞魚の憂鬱」

チクタクと

チクタクと


仰ぎ見る天井に落ちる影

ゆらめく水面はもはやこの世のものではなくて

僕はきっと寝ぼけているのだ

目を擦るのすら億劫で


今は時計の針も天井を仰ぎ

窓の外は眠らない街

観られているのは他人か僕か

ゆらめく水面の狭間に泳ぐ


僕は煩わしく鳴く時計の針にうんざりとして

やっぱり砂時計にすれば良かったと

しょうもないことをぼんやりと思った

壁掛け時計は自分の仕事を

取られないようにとせっせと鳴いた


励めば励むほどに

僕の胸に重くのしかかる雑音

この雑踏の影をこよなく愛し

睫毛にかかる流れ星

チカチカと瞬く光にほんのわずかに怯みながら


「明日は会いに来てくれるかしら」


夢の中で

縋りようもない可能性に執着し

きっと明日になれば今日のこの憂鬱も

感傷的の一言に収納されて

押入れの底に眠るのだろうと

僕は再び瞼を閉じた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る