第11話 真田明奈と篤川優一の会話。
真田明奈とのさし飲みは、小田美貴の事が気になってしまうが、楽しい時間と言えば楽しい。
まず、会話にキャッチボールがある。
こうなると、目の前に今の真田明奈がいて、嫌でも比べる状況になると、小田美貴には小さな不満が生まれる。
年齢と立場的に責められる話ではないが、小田美貴は篤川優一を盲目的に見ていて、全幅の信頼、全肯定をしてくるので、篤川優一が万事においてリードしてきた。
話も聞き役に徹して、盛り上げるようなトーク運びを意識した。
それなのに時折見せるワガママというか甘えに振り回される。
真田明奈との会話が会話なら、小田美貴との会話は介助や介護に近い。
「近くに住んでるのに、本当に滅多に会わないよね」
「本当だ。真田は本当に住んでるの?」
「よくいうよ、篤川こそ住んでる?」
こんな会話で盛り上がり、「だから勝手にさ、篤川を幸運の存在にしてんだよね」と真田明奈が言い出して、篤川優一は「は?」と聞き返す。
「いや、ゲームであるじゃん、たまに出会うと凄くお金をくれたりするレアなキャラクター。アレだよ」
「あ、それわかる。滅多に見かけないから、真田を見た日って、卵の黄身が双子だった時くらいの感じだよ」
2人で盛り上がり、横のメンバーが気にならなくなる中、真田明奈は「あー楽しい」と言うと、ビールのおかわりを持ってきてくれた店員にスマホを渡して、「写真頼めます?」と言う。
店員は勘違いして真田明奈と篤川優一のツーショットを撮る。
真田明奈は撮ってもらった写真を見て、「ごめんなさい、全体のが欲しくて、すみません」と言い、全員でカメラの方を向き写真を撮る。
皆薄情というか、撮り終わるとまためいめいで話し出す。
「ツーショット、取っとこ。幸運のお守りにしておくよ」
「マジか」
篤川優一はそんな事を言いながらも、真田明奈のスマホに自分がいると思うと少し気分が上向く。
そんな時、真田明奈から「で?上手く行ってないの?聞こうか?」と言われた。
「え?」
「バレバレ、彼女と何かあったの?」
篤川優一がはぐらかしても、真田明奈に「付き合いの深さと長さをナメるんじゃないよ」と言われてしまう。
いよいよ折れた篤川優一は、小田美貴とのこの1ヶ月の話、その話をする為に、10月に彼女連れで出戻りしてきて、店を滅茶苦茶にして異動していった新卒社員の話からし始めた。
今の話までようやく話し、心が少し軽くなった気がする篤川優一に、真田明奈は「成程ねぇ、難しい問題だぁー」と言ってビールを煽った。
そして真田明奈はジッと篤川優一を見て、「で?本当に何もしてないの?」と聞いてくる。
「真田?」
「だって、そこで話が変わるじゃん。本当に何もしていないなら、彼女のお母さんが言うみたいに『気持ちも何もない』って疑われても仕方ないよね」
真田明奈は「どうなの?」と聞いてきて、続けるように「手は繋いでたよね?チューは?」と聞かれて、答える事も、嘘をつく事も【道が閉ざされる】と心の中で警鐘が鳴り響いている篤川優一。
だがまあ真田明奈には彼氏がいて、道なんかとうにない。
篤川優一は「したよ」と答えると、真田明奈は「なんだしてんじゃん。でも、そこ止まりなんだ」と言って、またビールを煽ると「まあ、この先はキツいよね。篤川は社会人になるし、自然消滅かな?」と続けた。
自然消滅、やはり皆そう思う。
思っていないのは小田美貴だけだろう。
篤川優一はそう思う。
「うん。そうなるだろうね」
「あら?やじゃないの?」
「よくわからないよ。俺が年上でバイト歴が長くて、そこに魅力を感じたなら、それこそ3月でその魔法は剥がれるよ。カボチャの馬車はやっぱりカボチャなんだよ」
篤川優一はそう言いながら、3月になって別の男がリーダーをした時、魅力を感じて乗り換える小田美貴の姿が見えた気がした。
それも恐怖のひとつだったと気づく。
あの小田美貴が自分の元を去り、新しいバイトリーダーに乗り換える姿に、モヤモヤしないといえば嘘になるが、それを見越していた。
まだ幼いからこそ、踏み込もうとはしなかった。
そんな答えが、前以上にハッキリと見えた気がした。
真田明奈は「ふふ」と笑うと、「やっぱり篤川のそういうところっていいね」と言う。
「真田?」
「そういう言い回し、カボチャの馬車、そういう言い回しが出来て、しかも気持ち悪さもない。いいよね」
真田明奈に「いい」と言われると、それだけで心躍ってしまう。
それは今も顔が浮かぶ小田美貴への申し訳なさや、新しいバイトリーダーに乗り換える姿を想像した時のモヤモヤを感じながら、やはり真田明奈は特別なんだと思えていた。
「ねえ、ならさ。なら私と年末年始を過ごしてよ。2人で初詣行こうよ」
「2人で!?」
「いいじゃん。話さなかった4年分話そうよ」
「彼女に悪い気もするし、真田にも彼氏がいるだろ?」
行きたい気持ちはある。
だが同時に、小田美貴への罪悪感と、真田明奈の彼氏に恨まれたくない気持ちもある。
口から出る逃げを打つような言葉、だが咎める存在がいなければ行きたい。
できるなら真田明奈が「いいじゃん、平気だよ。一生のお願い」と言ってくれる事を期待した。
目の前の真田明奈はジト目で篤川優一を見て、「篤川?イブに中学の飲み会に来る女に、そんな事聞くんじゃないよ」とドスのきいた声で言う。
察しろという事だろう。
篤川優一が「ごめん」と頷くと、「とりあえず決定だよ。篤川、連絡先教えて」と言い、真田明奈はメッセージIDの交換をしている間、「平気だって、彼女にはお断りの挨拶をしておくって」と笑いながらビールを煽る。
篤川優一は真田明奈を見て、心の中で「酔っ払い、小田美貴の何も知らないくせに」と悪態をつきながら、負けじとビールを煽り、「おかわり頼むけど真田は?まだ飲む?」と聞いていた。
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