大学で再デビュー
佐々井 サイジ
第1話
タイムラインにはメジャー速報とか有名なラーメン店の更衣室で盗撮が行われていたとか自分にとってはどうでもいいような情報ががっちりと連なっている。どうでもいいはずなのについタップしてどんな内容で、どんなコメントが書かれているかを見て、最終的にそのどれでもないオリジナルの持論を導き出す。他人と被らない意見をひねり出してふわふわとした優越感に浸る。でもそれを投稿することはなく、そのまままたタイムラインをスクロールする。万が一炎上したら怖い。でも炎上するほど自分は誰にも影響を与えないことくらいわかっている、つもり。
『だいがくつまんね』
インフルエンサーの投稿の間に挟まれた単なる愚痴にも指は敏感に反応した。高校で三年間同じクラスだった、同級生の堀内だ。いつも固まっていた五人のうち一人。でも二人きりになると微妙に気まずくてお互い差しさわりのない会話しかしない。それが終わればそれぞれ相棒のスマホと向き合うだけだった。
今はそんな堀内でも一緒の大学だったら、と思う。堀内でさえこんな投稿をしているということは同じ気持ちだろう。
『俺らのノリが特殊すぎたから周りとあわなくね?』
何のためらいもなく堀内の投稿に返信した。大学生の友達ができていれば引かれるような内容だが、そんな心配もする必要がない。
『それな!』
堀内の返信はいたって簡素で、どう返すべきか迷うものだった。最終的に同意を示すハートマークをタップしただけでSNSを閉じた。暗い画面にセンターわけの黒髪の自分が映る。大学に入学したて髪を染めるのはいかにも大学デビューしました感が出すぎててダサかった。だから、えらの張った顔の輪郭に合う髪型に変えた。いつも切ってもらっている人にオーダーするのは恥ずかしかったが、勇気を出してよかったと思っている。もっとも、この髪型で新たな人間関係をつくる恩恵は得られなかったけど。
もう一度SNSを開いて堀内のプロフィールを訪問し、フォロー数の表示されたところをタップした。一人一人確かめていると、堀内と同じ大学の同級生をかなりの数フォローしていた。
あいつ、『だいがくつまんね』とか投稿してたくせに、俺の返信にビックリマークつきで同意していたくせに、大学に馴染もうとして必死じゃねえか。
でも俺は内心気づいていたはず。『!』は感情表現ではなく、堀内と俺との微妙な距離感を象徴する記号ということに。「文字だけの羅列だとそっけなく思えるから『!』をつけておこう」と堀内が思考を回すくらいだから、二人きりのときに気まずかったんだろうな。
GWは楽しかった。下宿した高校の友達が帰ってきて、「まじでお前らと一緒の大学が良かった」の言い合いだった。その場には堀内もいた。自分だけではなかったという安堵、やっぱり俺たち五人は他の人より面白くて特別だという最確認もできた。
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