第23話 窮地に陥る増田達。そこに現れたのは……!?

 悲鳴が聞こえた玄関ホールに行くと、そこにいたのは怯える芦屋さんと屈強な大柄の男2人組にボコボコにされている京田の姿があった。


「オラオラオラ! こんなもんかよ彼氏くぅ~ん」


「弱っちい~、ほらほら早くしないと彼女さん連れてっちゃうよ~」


 1人は顔面に龍のタトゥーが入っている頭をちょんまげにセットした大柄な男だ。胸板が厚く、肥大化した上腕二頭筋から血管が浮き出ている。


 もう1人は金髪でサイドの髪を刈り上げた細マッチョの男だ。目付きが悪く、狐のように吊り上がった細目が特徴的だ。


「もうやめて! 本当にやめて! 京田君が死んじゃう!」


 芦屋さんが必死に呼び掛けるものの、男達は手を止める様子はない。俺はその状況にいても立ってもいられなくなって人目も気にせず渦中の中心に躍り出た。


「京田! 芦屋さん!」


「増田君……」


 京田からの返事はない。芦屋さんはかろうじて俺に気付いたようだ。涙を浮かべる芦屋さんを見て俺は堪忍袋の緒が切れた。勝てる算段はない。しかし、黙っていられなかった。


「お前ら、2人を離せ!」


 俺がそう言うと、大柄の人相の悪い男達が振り返って、俺の方を見た。


「んん~~? 何だぁテメエ。お友達か?」


「俺達が誰か分かって言ってんだろうな」


「知らないけどお前ら2人に何をした! 一体ここで何があったんだ!」


「すまん……、増田。厄介な事になってしまった……」


 さっきまで沈黙していた京田が、口を開いた。


「俺が……、トイレに行ってる間に……、あの2人組の男が芦屋さんにナンパしてて……、芦屋さんが断ったら……、アイツら強引に連れてこうとしたんだ……、だから……、俺が止めに入った訳だが……、こんなザマで申し訳ない……」


「余計な口叩くなテメェ!」


 事の経緯を説明した京田に腹を立てた大柄な男が京田の腹に蹴りを入れる。


「グホッ」


 京田は地面を転がってのたうち回った。


「京田ーーーー! やめろっつってんだろ! テメェら……。周りで見てる奴らも何なんだよ! これがおかしいと思わないのか! 警察に通報しろよ!」


 そう言うと、周りの人達は冷や汗を浮かべながら俯いた。良くみると皆拳を握り締め、下唇を噛んでいる。何だこの状況は? 何かがおかしい。


「クックックッ……、ガーーッハッハッハ」


「イッヒッヒ、ウハハハハハハ」


 男達が高笑いを始める。観客達が通報したくてもできない理由、それはーーー


「そりゃお前呼んでも無駄なのさ……、ここは俺達義由ぎよし組のシマ。法も警察も……俺達を裁けないのさ……」


 未だ嘗て俺はこんな理不尽を経験したことはない。


「そんな……、事が……、まかり通っていいのかよ……」


「ガキ、テメェさっきからうるせぇな。女もピーピー喚きやがって、大人しく付いて来ればいいものを……」


 大柄な男が芦屋さんに向かって拳を振り上げる。


「やめろーーーー!」


 芦屋さんは動けずにいた。それを見た俺は体が勝手に動いた。大柄な男の拳が芦屋さんの顔に到達する前に、俺は2人の間に割って入った。


「グガァッ!」


 まともに顔面にパンチを食らった。


 痛てぇ。経験した事ない痛みだ。脳が揺れて頭がクラクラする。俺は吹っ飛び情けなく地面を転がった。


「増田君!」


「なに出しゃばってんだテメェ!」


 心配そうに声を張り上げる芦屋さん。邪魔が入った事が気に食わないのか怒りを露にする男。


 ああ、こんな事する柄じゃないのに、出しゃばりすぎてしまったか。しかも相手怒ってるし、収拾つきそうにないな。でも、これだけは言える。


「……女子に手を上げる奴は……、男の風上にも置けない……」


 これが俺の信念。男、増田の騎士道精神。しかし、そんなものが男達に通用する訳もなく、


「そうかそうか……、じゃあ男のお前は殴り放題っていう訳だな!?」


 筋骨隆々とした右腕を振り回しながら、大柄な男がジリジリと俺に歩み寄ってくる。静観していた細マッチョの男も好機とばかりに俺に詰め寄って来た。


「ヒィッ!」


 俺はさっきもらったパンチで暫く動けそうになかった。体に鞭打ち、這って進もうとするが、頭がズキズキと痛み、その度に体が硬直する。


「ヒッヒッヒッ、芋虫みたいだなぁ! こんな大衆の前で痴態を晒す馬鹿ガキが!」


「俺らに向かって喧嘩売ったよな。どうなるか、その体で覚えろ!」


 至近距離から大柄な男の拳が、細マッチョの男の蹴りが放たれる。強引なフォーム、しかし威力は絶大。食らえばどうなるか、未知数だ。少なくとも病院送りになるかもしれない。いや、それでは済まないかもしれない。俺は覚悟を決め、ぎゅっと目を閉じた。


 次の瞬間、


「ウオッ!」「ガハァッ!」


 男達が反対方向に倒れた。何で? 俺何もしてないのに……。その疑問はすぐに解消される事となる。


「やめなさいあなた達! キヨシかギヨシか分かんないけど、子供相手に暴力を振るう奴があるかぁ!」


 俺の隣には、あのマネージャーさんの姿があった。拳を握り、戦闘体勢を取っている。てか、この人強すぎじゃない? あの筋肉ダルマみたいな男諸共吹っ飛ばしたぞ。


「何だぁこのババア、しゃしゃり出てくるんじゃあねぇよ」


「ババアとは失礼な! 私はまだ29だ!」


「聞いてねぇよ。てか何だ、お前もアイツらのようになりたいのか?」


 そう言って男が俺達を指差す。ああ、俺と京田の事を言っているのだろう。


「いいえ、私は守りに来たのよ……。をね。あんた達みたいな輩がのさばるからこの国は良くならない。本当に男ってクソだわ」


「何だと! 舐めるなよこのクソババア!」


 男達はマネージャーに向かって突進する。しかし、彼らは気付くのが遅かった。その言葉が禁句であることを。


「だから……、ババアじゃねぇって言ってんだろう!」


 ブチギレたマネージャーの無慈悲なる蹂躙が始まったのである。

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