幼馴染を守るためならこの人生!

葉气

第0話 プロローグ

 俺には大切な幼馴染がいる


 前田まえだ美紗みさ

 初めて出会ったのは小学二年生の春。

 俺の家の横に引っ越してきたのが美紗とその家族だった。


 初めは引っ込み思案で会話すらままならなかった。初めての環境だろうから当然だ。


 その時から、俺は常に美紗の横にいるようになった。学校へ行くのも、休み時間中も美紗のそばにいて見守っていた。


 少しずつ周囲の環境に馴染めたのか、美紗の性格が変わったのか、積極的に周りの人たちと交流をするようになった。


 いや、これが本当の美紗なのだろう。

 天真爛漫ともいえる明るい笑顔は自然と彼女の周りに人を集めていた。

 それが俺にとってはなによりも嬉しいことだった。


 中学生に上がって月日が経過した頃、周囲から弄られることがあった。

 たぶん年頃からくる性事情に敏感になるのだろう。


 付き合っているのか、どういう関係なのかと聞かれることが多くなっていた。


 それでも別に嫌な気はしなかった。否定することだけは嫌だったのだろう。美紗も同じなのか、二人して特に反論することはなかった。


 恋人になりたいとか、そういう感情はそこまで強くないにしても無いわけじゃない。


 ただ、俺にとっては生涯で一番大切と思えるのが美紗だ。

 特別な存在、とでも言うべきか。

 あの笑顔を守りたいと強く思った。



 高校生に上がった春、それは突然やってきた。


「会いたかったですわ、西条遥様」


 淀みの無い黒髪を腰下まで携えて何とも上品な笑みを浮かべるこの女性。


 とても整った顔立ちは芸能人と言われても普通に納得のいくものだった。


 これほど美人な人と一度でも会っていれば忘れるはずはないのだが、全く見覚えがない。


 申し訳なさそうな表情を見せながらそう言うと、頬を膨らませてあからさまに少し怒ったような表情を軽く見せてから経緯を説明してくれた。


 話を聞くうちに昔の記憶が蘇ってくるかのように一人の少女が頭に浮かんできた。


 それは今でも鮮明に記憶している。


 大前だいぜん冬子ふゆこ

 小学一年生のとき、たった一年間だけ同じ小学校に通い、そして二年生になる前に転校して行った少女。


 隣の席だったこともあり、一年間だけではあったがとても仲が良くなった。

 そして、俺の初恋の人でもある。


「遥、その人は……?」


 入れ違うようにして去って行った冬子とやって来た美紗。


 お互い知らないのは当然だ。


 二人の自己紹介が済んだところで、唐突に冬子が俺の腕に抱きついてきた。


 大衆の面前で大胆不敵な彼女の行動に、俺を含め多くの生徒が驚愕した。


「遥様……場所を変えてはいかがですか?」


 俺の腕に彼女の腕が絡みついた状態から少し力を緩めて手を握ってきた。

 そのまま俺の手を引っ張り大勢の前から逃げるうに去った。


 連れられたのは校舎裏の人気の少ない場所。


「な、なんだ冬子……」


 妙に身体に力が入ってしまうが、悟られないよう平静を装う。


「堅苦しい呼び方はお止め下さい。あの頃のように……ふーちゃんと、呼んでください」


 若干頬を赤く染めて照れた様子でそう言ってきた冬子に、不意にも胸の奥が一度大きく揺れた。

 心なしか心臓の鼓動が早くなっている。


 今の俺には美紗というかけがえのない存在がいる。

 しかしそれ以上に"初恋"という存在の大きさを認識した。


 高校生になって初めてのクラス分けは、美紗と離れ冬子と同じという結果になった。


 それからは冬子からの猛アプローチの連続。


 周囲の目など気にすることなく俺に対して好意をぶつけてくる毎日。


 どういう訳か席まで隣同士。そして教室内での位置。


 まるで小学一年生のあのときを完全再現しているかのようだった。


 受けきれない冬子のアタックにより、俺たちは付き合うことになった。


 付き合い出してから、冬子の距離が一層近くなった。

 授業中であるにも関わらず四六時中抱き着かれる日々。


 それに対して一切注意することのない教師たち。


 大前という名を知らない教職員はいないだろう。

 教育委員会の統括会長だけでなく、世界でも有数の大富豪である大前財閥。


 日本で最も影響力のある人物こそが大前ふみかず


 その大前文一と冬子の関係性は知らないが、密接的であることは明らかだ。


 夜は毎日のようにビデオ電話をし、朝になれば玄関前で待ち構えている。


 家を教えた覚えはないが、そこはあまり驚くことでもなくなった。


 これだけ縛られていてもあまり苦痛に感じないのは、おそらく俺自身も冬子に少なからず好意を抱いているからだろう。


 ただ一つ気がかりなのは、最近あまり美紗と会話していないことだ。


 学校では当然のように俺よりも友達の多い美紗は、常に仲の良いグループで楽しそうに談笑している姿を見かける。


 ただこれまで登下校時には横にいた美紗がいないことが少し寂しくも感じていた。


 今横を歩く冬子も楽しそうな表情をしているから嫌な気はしない。


 それから月日が経過したある日───


 

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