砂時計の王子 書物集

まこちー

『砂時計の王子(無印)』で読める書物

シャフマ王宮内 書庫

書庫


①シャフマ王国の歴史


1 王国歴 前 17年

現シャフマ王国ツザール村にて、ヴィクター・エル・レアンドロが誕生。金髪赤目、美しい白の肌。類稀なる記憶力と魔力を持ちながらもしなやかで華奢なその体はまさに神であり、誕生の瞬間からシャフマに住む人々の信仰を集める。



2 王国歴1年(1)


シャフマ初代王子ヴィクター、シャフマ王国を建国する。

それ以前のシャフマは紛争が絶えなかった。各地で地主が蜂起してのころし合いが日常であったため、秩序などないただの砂漠地帯であった。ヴィクターは生まれながらの神の力で人々を団結させ、王宮を建設した。シャフマ王国の永遠の歴史はここから始まったのである。



3 王国歴1年(2)

シャフマ王国建国からわずか一月も経たない時期に、愚かにもヴィクター王子に剣を向けた男がいる。彼はただの平民であり、ヴィクターとは何の関係性もないため、無知故の行動だった。ヴィクターはその寛大な御心で彼を許そうとしたが、王子をころそうとした男はシャフマ王国の法に則って処刑されることが決まった。ペルピシの処刑場で大罪人として処刑が行われ、シャフマ国民は安堵したという。ヴィクターはその神の体で無傷であった。



4 王国歴3年

ヴィクターの子である二代目王子が誕生する。王子の背中にあった赤い砂時計の紋様は二代目王子に継承され、ヴィクターからその神の力が消失した。シャフマ王国では国王ではなく王子が神である。ヴィクターは初代王子として息子を支えた。妻スーシェに看取られるまでの80年間、彼は側室を持たず、妻と子を愛し続けていた。


(以降はシャフマ王国歴代王子と貴族の変遷が記されている。宴をやった、小さな小競り合いがあったが解決をした等、取り立てるほどではないため割愛。最後のページにアレスト・エル・レアンドロ誕生の日付が記されていた)



②シャフマ王国の貴族 心構えの書


1 貴族であること

貴殿らは貴族であることに誇りを持つべきである。シャフマ王国においての貴族……エルという名はシャフマ初代王子ヴィクターを支えた証である。家によって様々な役割があるため、それを全うすべし。


2 貴族の種類 エル・ラパポーツ

ラパポーツ家はヴィクター王子の親友である………(塗りつぶされていて読めない)(後に書き足したと思われる名前すらも塗りつぶされている)の正統な子孫である。王子の執事として仕えることができる唯一の家のため、王宮騎士団への入団は禁止されている。


3 貴族の種類 エル・スティール

スティール家もヴィクター王子の親友であるローク・エル・スティールの正統な子孫である。王宮騎士団の騎士団長を代々務めることが義務のため、槍術や剣術を少年時代より勉強する。


4 貴族の種類 エル・オー(塗りつぶされている)

(この記述は焼かれていて読めない)



③秘伝の!!!!!!レシピ!!!!!!

(乱雑な字でタイトルが書いてある)(中を開くとパリパリと紙が少し破れてしまった)(茶色いタレや米がこびりついていて汚い)(おそらくアレストが書いたものだろう)(読みにくいが読んでみよう)


1 ヤキトリとの出会い

フートテチのニチジョウという土地から来た商人がヤキトリという妙な食べ物を持ってきた。あまり美味しそうには見えなかったが、肉だと聞いたので食べてみた。美味しかった。ひたすらに美味しくて毎日何十本も食べてしまうので、もう王宮でも作ることにする。


2 秘伝のタレ

ニチジョウのヤキトリには秘伝のタレというものがあるらしい。それは何十年も変わらずに使えるそうだ。すごい。お……ワタクシもそれを作りたいので魔法で作ることにした。失敗した。仕方が無い。やれることはやった。従者サンに任せてワタクシは寝る。おやすみなさい。(以下黒いインクで描かれた猫や犬のらくがきでページが埋められている)(メに似ている猫!ベに似ている犬!と大きな字で説明が書かれている)


3 (このページだけ字が綺麗になっている)(リヒターが書いたのだろう)

シャフマのヤキトリ タレ レシピ

(材料と分量が丁寧に書いてある)(中には虫の名前もあるが、見なかったことにしよう)


4 いざ実食!!!!!!!!

これは美味い!ニチジョウのヤキトリのタレにはまだ及ばないが、これから何十年もかけて改良をすればいつかは美味しいヤキトリがシャフマでも食べられるはずだ。ワタクシはそれが待ち遠しいと思った。隣に座っている女剣士も頷いている。信頼出来る仲間と美味しい物を食べる。俺はこの時間が一番好きだ。


(以降はアレストが他のフートテチ食……特にニチジョウとブンテイという土地の料理……に感銘を受け、自分で作って失敗したりリヒターやベノワットとレシピを考えてみたりという記録が残されている)(スシやギョウザなど、シャフマ王宮食堂で食べることが出来る料理の再現度が高いのは彼のこういう努力があるからなのかもしれない)




④シャフマ王宮 書簡集

(どうやら歴代王子の書簡の写しが見れるらしい)(ルイスはヴァンスとアレストの送ったものに興味を引かれ、手に取ってみた)(アレストのものは見つからず、ヴァンスのものだけが読める状態になっていた)


1

ステファーヌ・レイ・ストワード殿


元気か?そちらは特に寒い季節だろうが、シャフマは毎日暑い。

俺の子が妻の腹に宿った。俺の妻……お前も何度も会ったことがあるキャロルの体調はずっと安定している。これまでは俺は王宮から出られなかったからお前に来てもらうばかりだったが、王子が無事に産まれれば俺もストワードに行ける。雪というものを見るのが楽しみだ。また近いうちに書簡を送る。これからしばらくは王子の話になりそうだがな。


ヴァンス・エル・レアンドロ



2

ステファーヌ・レイ・ストワード殿


書簡ありがとう。返事がとても早くて驚いた。お前も書いていたが政治が安定しているから自由に書簡が送れているのだな。喜ばしいことだ。お前が気にしている王子だが、そろそろ生まれるらしい。この前の書簡でお前はまだ子を持ったことがないから抱き方が分からないと不安に思っていると書いていたが……お前も不安なことがあるのだと驚いた。聡明でなんでも出来るお前のことだ、子の抱き方くらい知っていると思っていた。と、いうか、結婚したい女がいると言っていたな。そろそろ生まれるならば、俺の子で練習するといい。ストワード国王が子どもを落としでもしたら大事件だ。まあ、器用なお前のことだ。そんなことはしないと思うが……。はは、また書き過ぎてしまって紙がなくなりそうだ。シャフマ王国はストワードとは違って財政難だからな、資源は無駄には出来ないと執事に怒られてしまう。そろそろ切り上げる。お前からの返事を楽しみに待っている。


ヴァンス・エル・レアンドロ



3

ステファーヌ・レイ・ストワード殿


今日、王子が生まれた。砂時計の紋様が背中にある、正統な後継者だ。髪の色が俺に似て、瞳と肌の色がキャロルに似ている。一目見て、コイツは大物になると思った……!キャロルも言っていたのだから間違いないだろう!紫の瞳はシャフマの平民の色だ。それを見てすぐに名前が決まった。シャフマで名前や地名に使われる傾向が高い字を組み合わせた、アレストと言う名だ。字が濁っていないと神の力が発揮されないと周りの貴族たちに反対されたが、コイツには関係ないことだ。俺はコイツには平民のようにのびのびと生きて欲しい。俺の一人息子はとてもかわいらしい。目を細めたときに赤が差すのも絵画で見る初代王子の面影を感じる。キャロルもそうだが、紫の瞳は感情が昂ると赤く光るらしい。感情と関係しているのだったら魔力が高いのかもしれない。シャフマ王子として生きる上で魔力は欠かせないからな。喜ばしいことだ。お前には来月のどこかでシャフマに来て欲しい。まだ首が安定しないが、子を抱いてみろ。俺の子だから、少し重いかもしれないが、練習にはなるだろう。


ヴァンス・エル・レアンドロ




4

ステファーヌ・レイ・ストワード殿


先日はシャフマで会えて嬉しかった。最近はアレストの夜泣きが酷く、あまり眠れていない。俺のときもそうだったが、子ども時代は特に砂時計が割れる危険が高く、常に見張りをつけないといけないのだ。手がかかるが、その分かわいいものだから驚く。お前も言っていたが、アレストはかなり顔がキャロル似だな。俺にはあまり似ていないように見える。性格はそっくりかもしれないが……そこに期待をかけるとしよう。アレストは泣いて暴れてばかりだが、食べるのがすごく好きらしい。キャロルの乳から絶対に口を離さない。これは乳離れが出来ても食費に苦労しそうだ。平民でなくて良かったかもしれない。王子ならば好きなだけ食べることが出来るからな。平民がはやく満足に食べられる国にしたいのだが、それも近い気がする。お前との関係がこんなに良好なのだ。俺は勉強が好きでは無いが……歴史書を読んでいてもこんなに親密に書簡を送り合うシャフマとストワードの王族はいなかったらしい。俺はずっと王宮で育っていたから友というものはよく分からないが、お前との関係はそう呼ぶものなのかもしれないな。


ヴァンス・エル・レアンドロ



5

ステファーヌ・レイ・ストワード殿


アレストはすくすく育っているよ。一歳になって、キャロルや俺の言葉も少し理解しているようだ。最近はよくスティール公の息子である三歳のベノワットが絵本を読み聞かせてくれている。彼らは気が合うらしい。大人になっても良い関係を築いて欲しいものだな。ベノワットはもう槍術の訓練をしていて、将来有望なことは間違い無い。騎士団長として立派になるのは喜ばしいことだ。アレストは案の定、毎日よく飯を食う。ぶくぶく肉がついてかわいらしいが……王子としては良くないかもしれない。ベノワットと共に槍術の訓練をした方がいいだろう。ステファーヌは好きな女とは上手く行っているのか?この前会ったときは舞踏会に誘いたいと言っていたが、どうなったか教えて欲しい。まあ、お前は俺と違って踊るのが上手いから振られるなんてことはないと思うが。返事を楽しみに待っている。


ヴァンス・エル・レアンドロ


(急に日付が飛ぶ)(中を抜かれているようだ)



10

ステファーヌ・レイ・ストワード殿


お前の息子が無事に生まれたようでよかった。実はラパポーツ公の息子もつい先日生まれてな、少し王宮内が騒がしい時期が続いたのだ。返事が送れて悪かった。アレストとベノワットは毎日ラパポーツ公の息子……メルヴィルの揺籃を覗いて微笑んでいる。アレストももうすぐ5歳だ。赤子のかわいらしさが分かるのだろう。なんだか急に弟が出来たような気持ちらしい。ベノワットと共にはしゃいでいる。お前は自分の息子をもう抱いただろうか。アレストを初めて抱いたことを思い出しながら優しく抱けたか?お前なら出来ていると信じている。お前は俺の友なのだ。これからもずっと信頼している。お前と俺が国王でいる限り、政治は安定するだろう。そして生まれた王子たちの代もそうであって欲しい。聡明なお前のことだ……きっと俺と同じ気持ちだろうがな。


ヴァンス・エル・レアンドロ


(以降もヴァンスとステファーヌは良好な関係を築いているようで、アレストとアントワーヌの成長について……お互いの息子が成人を迎えてからのことも報告している)(ルイスは最後の手紙を手に取った)



11

ステファーヌ・レイ・ストワード殿


ストワードの情勢が安定しているようで良かった。シャフマも至って平和だ。アレストが砂時計を継承してもこうであって欲しいと毎日思っている。しかし、アントワーヌ殿が結婚を考えているとはな……時が経つのは早いものだ。アレストは28歳になるが、まだ考えている相手はいないと言う。あと2年でシャフマが1000年を迎える。焦っているわけではないが、そろそろ……と考えてしまうのはあまり良くないことだろうか。先日もアレストに結婚の話をしてしまった。アレストは真摯に頷くだけだ。親としては納得した結婚が出来るように尽力したいが……あぁ、歳を取ると感傷的になってしまい良くない。それよりも今はお前の息子の結婚のことだ。戴冠式の前に結婚式をするそうだな。俺も戴冠式に参加しよう。アントワーヌ殿は字が美しくて良い男だ。戴冠式の招待状の宛名を一人一人書いたのだろう?ストワード国王にふさわしい男だとつくづく思う。お前がよく話している第二王子スタン殿もお前に似て聡明で高身長だ。二人が力を合わせれば、きっと良い政治が出来るだろうな。アレストとも良い関係を築けることを期待している。ストワードの歴史を示す王冠は傷一つないそうだな。シャフマの砂時計のようで美しいのだろう。それでは戴冠式で会おう。


ヴァンス・エル・レアンドロ

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