ラブコメ漫画の親友キャラに転生したけど、既に主人公が彼女持ちだった…

笑門福来

第1話

平凡なサラリーマンの休日が終わろうとしている。

夕飯も食べ、風呂にも入った。

後は寝る時間まで、趣味である漫画を楽しむコトに決めた。

数分後、読んでいた漫画をパタンと閉じてテーブルの上に置く。


「あー、こんな学園生活送って見たかったなぁ」


読んでいたのは、学園もののラブコメ漫画。

主人公が美少女のヒロインと出会い、青春の日々を過ごす王道のラブコメだ。


俺はラブコメが好きだ。

神絵から生まれるキャラクター達も好きだし、最終的に誰が選ばれるのかわからないドキドキ感が好きだった。

幼い頃からこういう生活に憧れる男の子は少なくないだろう。

俺もその一人だ。


しかし、俺の人生にそんな瞬間は訪れなかった。

いつかは、自分にも彼女の一人や二人出来ているだろうと思っていたが、いつの間にか社会人になっていた。


何がいけなかったのかはわからない…。

普通に仲のいい女子もいたし、大学では、合コンなどにも参加した事はある。


それでも交際人数は0。

やはり、顔なのか。顔面至上主義なのか。

別に顔も普通だと思うんだけどな…。


ソファから起き上がり、鏡で自分の顔を見る。

ふと鏡の反射で映った時計の時刻を見て、ため息を吐く。


「もう12時前か…。明日からまた仕事だ、今日はもう寝よう…」


だらだらと洗面台に向かい歯を磨く。

畳んでおいた布団を敷いて潜り込む。

明日の仕事内容を考えながら、憂鬱な気分で眠りについた。




小鳥の囀りが聞こえ、脳が朝だと判断する。

怠い身体を起こし、寝ぼけ眼を擦ると違和感に気づく。


…ん。どこだ…?ここ…。

「…いやっ!マジで、何処だよっ!!俺の部屋じゃねえっ!!」


周りを見渡すと、いつものワンルームのボロアパートではなかった。

誰かわからないグラビアアイドルのポスターが貼ってあり、どこかで見た事がある学校の制服が壁に干してあった。

よく見たら布団ではなく、ベッドになってる。


制服…、しかも綺麗だ。たぶん、新品。いつの間にか、寝惚けて何処かの学生の部屋に不法侵入しちまったか⁉︎

いや、ありえねーだろ!そんなことっ!!


両手で自分の髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き乱すと、再び違和感に襲われる。


髪の毛がサラサラだっ⁉︎そして長くなってるっ!!


…おかしい。

昨日までの自分はこんな髪質ではないし、髪型も短髪だった…。


視界の端に姿見を見つけ、恐る恐る前に立つ。

そこには、見知った顔が映っていた。


「…は?この顔…、どたばたの廣田友人ひろたゆうとじゃねーかっ!!」


身長は170ぐらいで平均的。

サラサラな長めの黒髪に黒目。

顔立ちが整っているイケメンがそこにいる。


は⁉︎何でっ⁉︎

何でこんなコトになってんのっ⁉︎

…もしかして、昨日俺がこんな生活を送ってみたいって思ったから⁉︎

うわっ、マジか…。

こんなコト、ホントにあるんだっ!

嬉しけど、嬉しいけど…


「…何で主人公じゃなくて、親友キャラの方なんだ。俺もヒロインとイチャラブな青春を送りたかったのに…」


この廣田友人という少年は、「どたばた〜そんなことってある⁉︎〜」というラブコメ漫画に出てくる主人公の親友キャラなのだ。

物語の内容は、高校生になった主人公、風間勝かざままさるが、個性豊かなヒロイン達と出会い、様々な事件を乗り越えて、各ヒロインのフラグを立てていく物語だ。


俺もどたばたの単行本は全巻持っている。

物語の美少女達に会えるのは、とても嬉しいのだが困った事がある。


この漫画は、まだ連載されたばかりで2巻までしか発売されていない。

だから、物語の結末を俺は知らないのだ。


あともう一つ。

それは俺、廣田友人の立ち位置だ。

実は彼、原作では影が薄い。全然、出番がないのだ。

親友キャラとは名ばかりのモブ。

それが2巻までの彼のポジションだった。


そして、一番困るのはこれから先、親友キャラとして重要な出番があったら対応出来ないコト。

もう廣田友人は俺になってしまった。

もし、出番があるのだったら申し訳ないけど原作崩壊だ。

俺には、どうする事も出来ない。


「さてと、現状確認は終わった。今日は、入学式だ。遅刻しないように気をつけないと」


無意識に出た言葉にハッとする。

高校の入学式。

それは、どたばたの原作開始を意味していた。


突然、頭の中に廣田友人の記憶が蘇る。

失礼な話、ちょっと陽キャなだけの普通な人生だった。

あんまり俺の過去と変わらない。

顔は段違いだけど…。


「何かこの様子だとマジであまり物語に関わらなそうだな。少し安心したわ。俺のせいで不幸になるキャラクターがいたら嫌だしな。皆んな平等にヒロインレースを頑張ってほしい」


一安心すると、お腹が空いてきた。

廣田くんの記憶だと両親は海外出張でいないみたいだ。

そんな裏設定、初めて知った。

部屋から出て、まずは洗面台に向かう。



◼️




ここは、頑張がんば高校1-Aの教室。

俺は窓際の一番後ろ、つまり主人公席といわれている前の席に座っている。

まぁ、親友キャラだからね。席の前後は基本だろう。


そしてこの、ふざけた名前の高校だが、文字通り何事も頑張れる子供を育てるという教育理念だそうだ。

先程終わった入学式で、校長先生がおっしゃっていた。

ってか、漫画の世界でも校長の話は長いのね…。


新入生達もぞろぞろと教室に戻り、担任の到着を待っていた。

そして、このクラスにはヒロインが多い。

入学式でも見かけていたが、モブとは別次元のオーラを放っていた。


意味わからんレベルで可愛いし、美人。

男女問わず、チラチラと見られているのがわかる。

これは、ヤバいわ。

主人公がめちゃくちゃ羨ましい!!


そしてそんな主人公くんは、原作通り幼馴染ヒロインと遅刻をしております。

入学式に寝坊するというあるあるをするのだ。

隣の家に住む幼馴染ヒロインは、一緒に登校するために健気に主人公を待っているのだ。


くそう、いいなぁ…。幼馴染。

前世でも、そういう存在が欲しかった。

お弁当とか作ってもらいたい。

異性の手作りなんて母さんと家庭科の授業でしか、食ったコトねーよ。


悲しすぎる過去を思い出していると、唐突に教室のドアが開く。


「はい、皆さん。席に着いてください」


ざわざわと生徒が自分の席に戻り、原作でも見たコトがある担任の先生が教卓の前に立つ。

黒いスーツに天然パーマな髪、身長は俺と同じ170ぐらいだ。

年齢はわからないがとても若そうだ。

チョークを持ち、リズミカルな音を黒板が奏でる。


「今日から1-Aの担任になります、下田高貴しもだこうきと言います。皆さん、よろしくお願いしますね」


爽やかな笑みを浮かべる下田先生。

まばらな拍手が教室内に響く。

先生は「ありがとうございます」とお礼をしてから、一度咳払いを入れる。


「それでは、早速ですが自己紹介をお願いします。順番は…、出席番号順で行きましょう。それではまず「すみませんっ!遅刻しましたっ!!」

「すみません、私も遅刻しました」


先生の話を遮るかのように、後方にある教室のドアが凄い勢いで開けられる。

クラス全員の視線がドア付近にいる二人の男女に集中する。


とうとう主人公様と幼馴染ヒロイン様がご到着されたようだ。

さて、主人公様のご尊顔を拝ませてもらおうかな。


そこには、超絶イケメンがいた。

身長は180ぐらいで少し大型。

服の上から見ても鍛えているという身体だ。

髪の毛は燃え上がるように紅く、短髪のオールバックだ。

ヤンキーみたいな風貌だが、皆んなに見られて少し恥ずかしそうな顔は子供っぽいギャップがヤバい。


…これが生の風間勝。

ヒロインが惚れるのもわかるわ。

とんでもないイケメンだ。

コイツもやっぱりヒロインと一緒でキラキラしてるわ。


そしてお次は隣の美少女。

名前は、東村紗英ひがしむらさえ

主人公の隣の家に住む幼馴染。

身長は150ぐらいで、とても大きいものをお持ちだ。

髪型は茶髪の三つ編みで茶色の瞳。

黒縁メガネをかけており、少し地味な風貌。

しかし、それは仮の姿。

メガネを外し、三つ編みを解けば誰もが振り返る美少女が爆誕するというギャップ持ちの女の子なのだ。


「君達は、風間君と東村さんですね?連絡は来ているので大丈夫ですよ。ただ、あまり遅刻はしないでくださいね。お二人の席はそちらです。窓際の方が風間君ですね」


「「はい、すみませんでした」」


二人は先生に謝ると、速やかに席に座る。

先生が仕切り直す形で自己紹介が始まった。


始まったのだが…、俺は全然集中出来ていなかった。

なぜなら、先程から後ろの二人が何かイチャイチャしているのだ…。


あれ?原作で最初からこんなに仲良かったけ?と思う程の距離感。

やれさっきは恥ずかしかっただの、やれまた席が隣同士だなだの、まるで恋人同士のような会話をしていた。


もう気が気でいられない。

後ろを振り向いて、小さい声で二人に話しかけた。


「話してるところ悪いんだけど、ちょっと聞いていいか?あ、俺、廣田友人。よろしく」

「ん?いいぜ。俺は風間勝。よろしくな、友人」

「私は、東村紗英。よろしく、廣田くん」


二人とも気持ちのいい笑顔で対応してくれる。

さすが、メインキャラクター。

性格まで良い!!


「なぁ、二人はさ。一緒に遅刻して来たし、今も仲良さそうにしてたけど…、もしかして、付き合ってんの?」

「おう」 「うん」

「…は?」


え、今、何て言った?

もしかして、さっきの幻聴?

いやいや、確実に俺の聞き間違えだわ。

もう一度、ちゃんと聞こう。


「ごめん、上手く聞き取れなかった。えーっと、付き合ってないんだっけ?」

「いや、付き合ってる」 「うん」


…そっかぁ、付き合ってるのかぁ。

それは、めでたいコトだなぁ。

ははは、はははは。


「いや、原作崩壊してんじゃねーかっ!!!!!!!!!!!!」


その後、俺は一年生の間で原作崩壊くんというヤバい奴で有名になってしまった。

ちくせう。

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