第51話幼馴染
「ふふふ、千早ちゃんは相変わらずガンジュ君に興味津々ですね。私といてもずっとガンジュ君の話をしてるぐらいですし」
藤堂アイリが俺と毒島千早を見る目は、公園で遊ぶ小さい子を見る母親の目であった。
つまり――俺はこのダル絡みを藤堂アイリにとても微笑ましく微笑まれて、ゲンナリしたということである。
この騒々しい女の一体何がそんなに微笑ましく見えるのか謎だが、なんとこの毒島千早という癖の強い女と、お嬢様である藤堂アイリは聖鳳学園に入学する前からの幼馴染であり、しかも親友であるというから驚きである。
毒島千早は藤堂アイリに向かって「へらっ」という感じで笑った。
「全く、アイリは余裕だなぁ。私が今をときめくダンジョンイーツに興味津々でスキンシップしても全く焦りもしないし不機嫌にもならない。自分が正妻であるという自覚があるから余裕かね?」
「誰が正妻だ! 誰が! だから俺と藤堂はそんなんじゃ――!」
「うーん、そういうことじゃなくて、私は千早ちゃんという人は基本的にダンジョンにしか興味がないことを知ってますからね」
「そりゃ正解」
にひひ、と毒島千早は笑った。
「男と恋愛なんかしてる暇があるならダンジョンのことをよりひとつでも多く知りたいと願うのは人間の、そして私の
そう、この毒島千早という女はこういう女なのだ。
彼女はとにかくダンジョンという場所に魂を奪われた人間で、口を開けば魔物がどうのこうの、魔法がどうのこうのと発言し、それで年365日を過ごしているという筋金入りのダンジョンオタクなのである。
故に、俺はこの学校に転入してからというもの、毎日のようにこの女に絡まれ、肉体強化魔法はどうやるんだとか、あそこのダンジョンで配達したことはあるかどうかとか、暇さえあれば質問攻めの憂き目に遭っているのだった。
「でも毒島は上米内が転校してきてから本当に毎日活き活きしてるよなぁ。前まではもっと大人しい生徒なのかと思ってたが、上米内の前だと本性出まくり、って感じだもんな」
「あはは。まぁ、僕らもガンジュには興味あるけど、毒島さんのは別格だよな」
「そりゃそうとも。何せガンジュ君は日本にも数人しかいないレベル5の覚醒者だしね! できれば一晩中その秘密を聞きたいぐらいなんだよ私は!」
最近ではお互い、すっかりと仲良くなってしまった峯岸や諫山の言葉に、毒島千早は何故なのか誇らしげに胸を反らした。
「特にあの強制フロアスキップは全世界でも話題になってるが私の中では更に話題になってる! ……なぁなぁガンジュ君さぁ、今ここで披露してみる気はないかね? この学園の床をダンジョンの床に見立てて――!」
「いくらなんでもそんなことはカネ積まれてもやらねぇよ。退学になっちまうだろうがよ」
「退学になったらウチに転がり込めばいいじゃないか! 君一人ぐらい私が生涯養ってあげるとも!」
「千早ちゃん、私の方からもそれは遠慮するようお願いしておきます。この学校が破壊されたら父が泣きますから」
藤堂アイリが嗜めると、本当に残念そうに毒島千早はため息を吐き、うっとりとした表情で俺を見た。
この女に「うっとり」と見つめられると、何故なのか全身に怖気が走るのである。
「ああ、見たいなぁ……切実に見たい。上米内ガンジュ君、近いうちに私ともダンジョンに潜ってくれよな。そしてあの強制フロアスキップやホブゴブリンの首を素手で毟り取るヤツを見せてくれよ、な?」
「うわぁ、絶対嫌だ……。なんかお前とダンジョン潜ったらそれだけじゃすまねぇ感じがする。悪いんだけどなるべく遠慮したいというか……」
「おや? 君は君に拒否権があると思っているのかい?」
「おっなんだこの野郎、俺を脅迫する気か?」
「するとも。こっちには人質があるんだぜ」
「何――?」
俺が怪訝な表情をした、その途端。
音もなく移動した毒島千早が素早く藤堂アイリの背後に回り込み――あろうことか、その両腕で藤堂アイリの制服の胸の部分を背後から鷲掴みにした。
キャア! と藤堂アイリが悲鳴を上げたのと、おおっ! とクラス中の男子が歓声を上げたのは同時だった。
「ち、千早ちゃん――!?」
「て、テメェ毒島、藤堂に何を――!?」
「おっと、動くんじゃねぇ。この国宝級がどうなってもいいのか? 今ここで揉み消しちまってもいいんだぜ?」
低い声で鋭く静止されれば、椅子から腰を浮かせた俺に出来ることはなかった。
ぐぬぬ、と俺が顔を歪めて引き下がると、毒島千早が頬を桜色に染めた藤堂アイリの顔に己の顔を寄せ、蠱惑的に呟いた。
「ふむふむ、この触感、この迫力、この重量感……アイリ、さてはまた成長したな? 公開されてるプロフィール以上に」
「ああ、やぁっ……! ちょ、千早ちゃん! みんな見てますから……!」
「何を言ってるんだ、私と君の仲だろう? ……やれやれ、昔からデカくはあったが、中学に上がる頃からこうしてたまに私が可愛がってやることで更に成長した。君は本当に可愛い幼馴染だよ……」
「ちょちょ、本当に何を……! ……あっ、やぁ……! その手つきはダメっ……!」
むずがる藤堂アイリを無視し、毒島千早は藤堂アイリの逸物を更にドラスティックに弄んだ。
クラスの男子はその様を食い入るように見つめている。
毒島千早はその後も延々と藤堂アイリを弄んだ後、上気している藤堂アイリの背後から肩越しに俺を見た。
「いいかい上米内ガンジュ君、君に拒否権はない。約束しろ、後で私とダンジョンに潜るんだ。でないとこの
「な、何を――!?」
「近い将来、君が揉むもしゃぶりつくも自由になるやもしれぬこの国宝級の命運は私が握っていると言ってもいいんだ。君が私の依頼を拒否すると言うなら――君は君の大事な人のあられもない姿を見る羽目になるぞ」
「くっ、ふざけんじゃねぇ! 俺がそんな脅迫に屈するかよ! いいから藤堂を開放しろ! 俺たちとは無関係だろうが!」
「ククク、これは視聴者参加型のゲームなんだ。そうなるか否かは君の選択次第さ。……さぁ答えを聞かせてもらおうか、私の依頼を受けるか、受けぬか! でないと……!」
「ち、千早ちゃん! そんな指動かさないで……!」
「毒島」
「何だね?」
「セクハラだぞ」
「わかってる」
俺が素の声で叱ると、毒島千早が苦笑して藤堂アイリから手を離した。
俺は顔を歪めて舌打ちした。
「ったく……わかったわかった、いつか一緒にダンジョン潜ればいいんだろ? こんなくだらない流れに藤堂を巻き込むなよ」
「なっ、何を言ってるんですかガンジュ君! ガンジュ君も途中ノリノリで千早ちゃんと絡んでたじゃないですか! もっと早く終わらせられたでしょ、今の流れ!」
「藤堂もそう怒るなよ、そもそも怒る対象が俺じゃねぇだろうが」
「そうとも、君の尊い犠牲によってとうとうガンジュ君が折れてくれた。感謝するよ、幼馴染」
ポン、と毒島千早は真っ赤になっている藤堂アイリの背中を叩いた。
「……と、いうことで。本当に私とダンジョンに潜ってくれるんだな!?」
「わかったっての。その代わり、俺のダンジョン潜入はお遊びじゃねぇ、バイトだ。というからにはお前もやるんだぞ、配達」
「おおっ、誘ってくれるのかい!? ということは私はダンジョンイーツの第二号ということになるのかな! ……うーん、そうなるなら二つ名はどうしよう、ダンジョンイーツ二号? ダンジョンイーツジュニア、ダンジョンイーツMark.Ⅱ……」
「今から二つ名とか考えなくてもいいよ、落語家じゃねぇんだから……」
「よーしお前ら、今日も楽しく授業初めて行くぞ!」
それと同時に、我らが担任である夜の蝶こと小山先生が白衣をなびかせて教室に入ってきて、なんだかよくわからない朝のトーク時間も終了の雰囲気になった。
やれやれ、と俺が思っていると、ふと、妙な気配を感じて、俺は顔を上げた。
見ると――教室中の男子の視線が、俺と、その隣にいる藤堂アイリに注がれていた。
どれもこれも鼻の下がビロビロに伸び切ったスケベな表情のまま、俺を羨ましそうに見つめている。
なんと、俺の近くに座っている峰島翔吾も諫山玲司も、一緒になって俺を羨望の目で見つめているではないか。
「――ん? どうしたお前ら、上米内がどうかしたのか?」
小山先生が不思議そうに言っても、男子連中の雰囲気は変わらなかった。
藤堂アイリはその視線に戸惑ったように、辺りをきょろきょろと見回している。
その視線に混じって、俺の耳に、何者かの声ならざる声が聞こえた気がした。
いいなぁ、羨ましいなぁ。
アイツ、ゆくゆくはこんな美人を好き勝手に出来るんだから――。
瞬間、俺が体内の魔力を集めると――バチバチッ、と音がして、青白い光とともに、俺の髪が逆立った。
なるべく鬼のような声と表情を意識し、「ガルルル!」と俺が威嚇すると、男子連中は頭を蹴飛ばされたかのように怯えた表情になり、一斉に視線を逸らした。
「んん? なんだか朝からよくわからん流れだが――まぁいい、まずはホームルーム始めてくぞ。藤堂とその周り、席に戻れ。日直、挨拶」
ったく、このクラスの男子連中はどいつもこいつもスケベだなぁ。
別に俺と藤堂アイリの間にはなにもないってのにさぁ……。
俺はなんだか気恥ずかしいような気持ちとともに嘆息した。
◆
【ご連絡】
この作品とは別に連載しておりました『魔剣士学園のサムライソード』が
ドラゴンノベルス小説コンテストでまさかの最終選考作品に残ったため、
そちらの方の更新再開もせねばならず、これより今作品も更新がスローになります。
何卒ご了承ください。
「面白い」
「続きが気になる」
「友達できてよかったね」
そう思っていただけましたなら
「( ゚∀゚)o彡°」
そのようにコメント、もしくは★で評価願います。
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