冤罪で王都のレベル屋を追放されたから田舎でのスローライフを目指したのに、いつの間にやら王都がこっちに引っ越してくるらしい

第75話 これで終わりにしてくれよ

　本当にひどい目に遭った……。

「ほら、いつまで放心しているんだ。そんな姿、門番に見せるんじゃないよ」

　お前が言うなと心の底から言いたい。

　まあわざわざ屋敷から離れた所に着地してくれたのは、ババアなりの配慮なのだろうが。

「もう落ち着いた。それより確認したいんだが」

「あの２人を倒してしまった事だろう？」

「まあそれもあるけどな。それよりも、王都で何があった？」

「ほお？　そちらの方が気になっていたか。目ざといというか余裕というか」

　少し驚いたように、そしてまた微妙に面白そうに応えるが――、

「其方（そちら）の事情に関して関与するつもりはないんでね。１６人になろうが、明日１００人になっていようがあまり関係はないさ。ただ王都に関してはな」

「セネニア様のこれからが気になると」

「まあ否定はしない。それに王都で異変となれば、程度によっては国全体に関わるだろう？　そうなれば、フェンケにも影響があるかもしれない」

「ほほう……それで、どちらの方がより重要なんだ？　教えてみろ」

　おっさん臭い妄想をするな。あとそのにやけ顔！

　本当にさっきのあれと同一人物かね。

「俺にとっては、２人とも平穏無事に過ごして欲しいだけだ」

「その点に関しては元々難しかったがな。ただ王都の状況が状況だけに、もう少し混乱するだろう。今回の件は、その前に第２王子派を片付けておきたかったというだけの話だよ」

「それなんだが、王様に直接言えば良いんじゃないのか？　あんたが派遣した特務隊が、自分の娘の命を狙っているぞってな」

「我らは王族には攻撃せんよ。その程度の忠誠は弁えている。ただ周囲に対しては別だ。私も命令が下ればクエントやエナを攻撃するだろうし、その権限は王自らが与えている」

「兄弟同士で足を引っ張れってか？　だが坑道で会った奴はどうなんだ？　俺だけを狙っているようには見えなかったが」

「耳が痛いわけでも無いが、道具をどのように使いこなせるかも次代の王たる資質の一つなのでね。これも王族に課せられたテストという訳だ」

「だったら姫様にも付けてやれよ。不公平だろ」

　その言葉を本気で面白いと思ったのかは分からないが――、

「ははははは！　確かにそうだ」

　なかなか派手に笑い出した。そして――、

「これも性欲の権化たる現国王が、子を作り過ぎた所以だ。許してやれ。それに、道具を手に入れるのもまた実力を計る指針でね。そういった意味では、お前を拾ったセネニア姫は見事だ」

「ただの偶然だ」

「運もまた実力なのだよ。正しくは、掴んだ運を手放さない事がだがな」

　そんなものかね。それなら、俺は相当に実力が無いようだ。

　しかし性欲の権化とか、自分の主人に対して酷い言い様だな。

　まあ、このババアからしたら現国王も子供のようなものか。

「それで本題に戻るが、王都で何があった？　さっきのビスタ―という男は、明らかに焦っていた。さっさと戦闘を終わらせて別の事に対処しようと考えていたようだったと言うべきか。今回勝てたのは、その隙をつかせてもらったからだ。もっと時間をかけて複雑な攻撃を仕掛けられたら、手数でも装備でも実力でも、全てで負けていたね」

「一つ訂正しておこう。君の実力は、決してビスタ―に劣ってなどおらんよ。装備も含めてな。そうでなければ任せたりなどせぬさ。自分でも分かっているのではないか？　それに、実際に勝利したではないか。それで、どうやったんだ？　お前が傷を負っている事自体も意外だよ。その辺りを詳しく」

　絶対に勝てるとは思っていなかった様子に見えるが？

「緊急回避中はスキルは使えないが、力は入るからな。相手の腹筋に短剣を刺して、体を動かないようにしたのさ。向こうは抜かせないように締めるし。そうなればスキル０では抜きようがない。当然攻撃は食らうがそれは仕方がないな。向こうは勝手に”緊急回避が発動したら移動は止められない”と思い込んでいるようだったが、それが判断を鈍らせた。俺が死ななかったのは、向こうが殺す攻撃ではなくこちらに自滅させるために針を広げていたからさ」

　珍しく鋭い目つきでこちらを覗き込むが――、

「大したものだな。それは予想していなかったよ」

「まあ勝手に回避しようとするだけだからな。腕の力まで無くなったら、それこそ回避の度に武器をポロポロ落としているよ」

「確かにその通りだな。これからはそれも視野に入れておこう」

「止めてくれ。それ以前に、今回は時間稼ぎの捨て駒にされたのかと思ったけどな。……で？」

　こっちは腹の探り合いなどに付き合う気は毛頭ない。

「やれやれ、せっかちな男だ。どうせここまで来たのだ、セネニア様にも話しておこう」

「良いのか？」

「どうせすぐに分かる事だ。これから忙しくなるからな」

　これ以上かよ！　もう勘弁してくれ。